第131話 感謝の勝利
帰社した千秋達は、まっすぐ護邸常務の部屋に行くと契約書を渡す。護邸はそれを確認すると、よくやったと2人に言った。
「あとはこちらでやる、2人とも帰ってよろしい」
と言われても正直今後どうなるか気になる2人は一応訊いてみるが、気にしなくてよろしいという答えが返ってきたので、しかたなく素直に帰ることにした。
「課長とスズキさんはどうなったんでしょうね」
正直、会いたくないというか会わせる顔がない気持ちがある。コンペや重役相手の時の千秋はもういない。恐る恐る企画部の部屋に戻ると、企画3課のシマには、塚本がひとり居るだけだった。
「塚本さん、課長は?」
一色が訊くと、塚本はふるふると頭を振った。
「ずっと見ていないのか。何処へ行ったんだろう」
念のために課長の机周辺を覗いたが、私物はまだ置いてあった。一抹の不安がよぎる。
「まさか2人とも……」
最悪の事態を考えて3人が顔を見合わせると、コツコツとこちらに近づく足音が聞こえた。顔を上げると秘書の加納であった。
「まだ居たんですか、常務の帰ってよろしいというのは退社してよろしいという意味ですよ」
「加納さん、サトウ課長とスズキさんは何処へ行ったか知りませんか」
「もうあなた方が気にする事は無いですよ」
「しかし」
「不正を暴き、追い落としたのは貴女でしょう。今さら後悔ですか」
「そういう意味じゃありません」
たしかに自分のせいではあるが、それは身を守る為であって、2人を追い詰める為ではない。最悪、心中でもしないかと心配している最中、そんな言われ方をされて千秋はカチンときた。
睨み付ける千秋に冷ややかな目で応える加納。その空気を察した一色が間に入る。
「チーフは意図的に追い詰めた訳ではないです、結果的にそうなっただけなのです。だから心配しているんです。ひょっとしたら最悪の事態なってはしないかと」
睨み合っている2人の間に入り、視線をさえぎり互いに落ち着いての身振りをする。
加納が、ふうとひと息つくと言葉を続ける。
「心配しなくてもいいわよ、そんな事態にならないようにすでに社内別室で待機させてあるし、貴女の提案を2人に話してあるわ。希望があればそんな事考えないでしょ」
「そうなの」
「ええ、だから安心して帰りなさい。あなた方がいるとサトウ課長がここに来られないでしょう」
ああ、それの確認の為にこの人は来たのかと納得すると、わかりましたと返事をし、一色達に帰宅を促し千秋も帰ることにしたのだった。
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