第117話 その3

「さらに言えば、群春のキジマとかいう輩が警察に捕まったがためにおおやけになってしまった訳ですから、捕まらなければ良かったのです」


 ぐふぅ、みぞおちか肝臓に1発入れられたみたいな言葉で千秋は身体がくの字になりそうになった。


 この人、わかって言っているんじゃないんだろうか、けどあの時のケイの立案は正しかったと思っている。なぜならキジマ達は社会的に野放しにしてはいけないと私自身も思ったからだ。


 千秋が直立不動で人知れず心の中で悶絶していると、しばらく黙って聴いていた護邸が口をひらいた。


「加納くん、社長室に今から話があるからそちらに行くと伝えてくれ」


 秘書の加納は一礼すると自分のデスクに行き、内線で社長室に連絡する。


「佐野くん、今から社長室に行き、事の次第を説明しに行くぞ」


「わ、私もですか」


「もちろん私から社長に申し上げるが、細部を訊かれたとき答えられる君がいた方がいい」


「しかし」


 千秋は戸惑ったが、覚悟を決めると行きますと答える。

 加納が承諾されたと告げると、護邸と千秋は常務室から出て社長室へと向かう。

 エレベーターを待っている時、護邸が千秋に話しかける。


「佐野くん、他に彼等から何か聞いてないかね」


「他にですか」


 今のところ護邸他の役員と社長には、サトウ課長とスズキさんが不倫をしていて、それをたまたま群春のキジマ達に知られ、それをネタに脅されていたから会社のカネを横領していた、という事になっている。


 しかし本当はスズキさんがキジマ達に過去に集団レイプされたことをネタに脅されていて、サトウ課長が(やり方はともかく)彼女を護っていたのが真実だ。


 それを知った千秋は、スズキさんが世間の好奇の目でセカンドレイプされるのを避けたいので、行動している。それを護邸に話していいのか千秋は悩んだ。


 千秋は護邸という人物を計りかねている。


 日本支社に来て人事部に挨拶した後、直ぐに引き合わされたのが護邸であった。

 その後、企画3課に配属された日からことある毎に呼び出され、現状を訊かれ報告するを繰り返していた。その際に雑談などの会話は一切なく、まるで尋問されているようであった。


 話をしなければ人となりは分からない。今回の件で初めて会話らしい会話をしているが、それでも数は少ないので、やはり分からない。


 考えたあげく、何もないと答えることにした。


 護邸は、そうかと答えると到着したエレベーターに乗り込み2人は社長室へと向かった。

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