第116話 その2

 態勢を立て直すと護邸が秘書に声をかける。


「加納くん、社長のこの後の予定を確認しておいてくれ」


 すぐに確認が終り、夕方まで社内に居りその後他社の社長達との会合に行く予定とこたえた。


「オーケーだ。加納くんもこっちに来てくれ、いつものやつをやる」


 加納って名前なんだ、はじめて知ったなと千秋は思った。加納は自分の席を離れると千秋の横に並んで立った。


「いつものとは何でしょうか」


「ディスカッションよ、常務はご自分の考えをまとめる際によくやられるの」


 千秋の質問に加納が答える。


「警察が来るのは間違いないのかね」


「間違いないでしょう、キジマ達を確実に立件するためには材料が多い方がいいでしょうから」


「私も同意見です。少なくとも事実確認には来ると推察します」


「つまり、当社の社員の横領の立件でなくキジマという者の罪、この場合は脅迫ということになるな、それの立件が目的となるか」


「となると横領の件は社外に漏れることはない」


「いえ、立件すれば警察発表もしくは裁判で公表されますから、遅かれ早かれマスコミを通して世間に漏れると推察します」


「そうだな、加納くんの言うとおりだろう。脅迫内容は不倫とすれば、サトウくんのみで当社は関係無しだが、いくら脅し取られたというので、横領の事に話が及ぶだろうな。となるとどうしても社外に漏れるか」


 2千500万という金額ならそうなるか。エクセリオンくらいの会社の管理職ならありそうだと世間は思ってくれるかも知れないが、社員はそう思わないだろうし、全社員に箝口令をひく訳にもいかない。ヘタな小細工は後々命取りになるかもしれない。


「群春とうちの関係はどうなんでしょうか」


 千秋の質問に護邸が答える。


「群春物産はうちと同じ総合商社だ。だからライバル関係だが、本社は東京なので、東京支社が矢面になるかな」


 東京支社というと葉栗副社長のところか。それはまたややこしいな。


「群春さんの社員がうちの社員、しかも管理職を脅していた。普通ならうちが優位に立てそうな話だが、商売となるとそうはいかない。あそこの会社は大したことないと弱味としてとられるな」


「ヘタすると葉栗副社長に攻撃の材料をあたえることになるんでしょうか」


「なるでしょうね、何してくれるんだ企画3課長、そんなヤツクビにしてしまえ企画3課なんて廃止だ責任者の護邸もだ、なんて言いかねませんと推察します」


 淡々と話す加納に、千秋は他人事みたいに話すなと突っ込みそうになった。

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