第63話 その3

 ようは私の美意識の問題なんだ、それは分かっているんだけど……。


清洲を通り過ぎ稲沢をたった今通過した。もう時間が無い。決めなくては。


尾張壱ノ宮~ 尾張壱ノ宮~


着いてしまった。まずはとりあえず降りなくては。


 名古屋市の近隣ベッドタウンの側面もあるので、壱ノ宮では乗客の半分くらいは降りる。流れにあわせてホームに降りると、肌寒く少しブルッとした。

 スマホて時間を確認する。予定通りだ。


 キジマの仲間も降りている、仕方ない、改札に向かうか。いや、マフラーを巻くのって今しかないんじゃない、このあとは自然に巻くタイミングが無いはず。






覚悟を決めた。






紙袋からマフラーを取り出すと、顔を隠すように巻きつける。まるで7色のミイラの様に。

 そして階段を降りて改札に向かう、その間は時間にして5分もしなかったのに、千秋からすれば1時間くらいに感じ、すれ違う人達皆が、じろじろ見ているように感じた。実際にそうなのだが。


 改札を出ると、右に折れ成城岩井の通りを左にはいる。そのまま突き当たりまで行き、左に曲がり少し行くと左手にあるトイレに入った。




「あ、キジマさんっすか、女はトイレに入りました」


「トイレかよ、でかい方じゃないだろうな、ちゃんと拭いてこいって言っとけよ」


下品な嗤いが通話口から聴こえる。


「キジマさんは予定通りっすか」


「おう、黒のワンボックスで予定の場所にいるぞ」


「こちらも合流しました、女が出てきたら尾けて、予定のところで拉致ります」


「おう、待っているぞ」


通話が終わり、拉致組は適当にバラけて怪しまれないようにして女が出てくるのを待つ。


「くそ、長いな。まさか本当に大の方なのか」


そんな事を言いつつ待ち伏せていると、出てきた。


7色のミイラがカツカツと足を進めトイレ左手の扉から外に出て、右手に折れ突き当たりまで進み、左に曲がる。

まっすぐ進むと信号のある交差点に着き、歩行者信号が青になるのを待つ。


拉致組も、飲み会帰りのサラリーマン仲間を装って、ついてくる。


信号が青に替わり、女はイナリ公園に繋がる道を進み始めた。予定通りだと拉致組は、拉致用の小道具を手にしはじめる。


スタンガン、タオル、ロープ


それぞれを手にし、もっとも暗くて人気の無い所で襲いかかった。

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