第62話 その2

「ちゃんと使うんだよー」


背中から聞こえる課長の声は、何故か必死に聞こえた。


 真っ暗な空なんかないよといわんばかりの、駅前の明かりの多さだが、人通りの多い地上から地下街になると、さらに明るい。


 千秋はJR名古屋駅まで地下街を通っていくことにした。

 ときどきショーウィンドウを覗きこみ、身だしなみをチェックする。週末の午後10時過ぎ。まだまだ楽しむぞという人達と、そろそろ帰るかという人達が別れる時間だ。

ホームに着いたらかなりの人が電車を待っていた。


スマホを取り出し、着信をチェックして此方からも送信する。予定通りの行動をしてホッとする。


おかげで気がついた。このマフラーひょっとして……


ノブにメールする。


[ノブ、マフラーについて何か情報ある?]


送った後、あわてて[返事はメールでね]と送ったが、時すでに遅く、というかノブが早すぎるのだが、通話が着信した。仕方なく電話に出る。


「姐さん、マフラーっすね」


「しっ、声が大きいわよ。今は駅のホームにいるから静かに話して」


「すんません」


「そのくらいがいいわ。で、マフラーについて何かあったの」


「ちょっと前なんすけど、キジマから目印としてマフラーを渡すように言われてたっす」


やっぱり。渡し方がわざとらしかったし、やけに目立つ色のマフラーだったからな。このセンスはキジマか課長かの、どちらの方かが気になるが、そんなことよりもだ。


「……これを身につけないと怪しまれるかもしれないのか」


ノブに礼を言って通話を切ると、ちょうど来た快速列車に乗り込んだ。結構満員に近い乗車人数で、中の方に押し込まれる。

 電車に揺られながら、紙袋の中のマフラーに視線を落とす。


 色は蛍光色、白黒抹茶小豆珈琲柚子桜の順でボーダーに並んでいる。そのうえところどころに銀のスパンコールが入っている。


キメキメに決めたすみれ色のドレスに、わりと気に入っているベージュの春物のトレンチコート。


それにこのマフラーは巻きたくない。いや、別に巻かなくてもいいんじゃないか、絶対条件ではない筈だ。たがしかしこれを目印にしているんなら、巻かなければすれ違う可能性もある。


電車が揺れた、枇杷島の辺りを通過中らしい。さりげなく見ると、キジマの仲間はついてきている。地下街のショーウィンドウで後ろをチェックしてついてきているのを確かめていたが、ホームで電話している時に見失っていたので気になっていた。だが、やはりついてきていた。

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