第12話 綿帽子のノブ
「へえ、こんなお店だったんだぁ」
ノブに連れられて来たのは、昨夜のライト感覚のレストランであった。
「この席ですよね」
ノブは昨日座ったボックス席に座り、千秋を促した。
「なに、あんた? ストーカーなの」
「違いますってば、ああでも、そうなのかな」
千秋は身構えて、いつでも逃げられる姿勢になるが、ノブは冗談ですよと笑って、ふたたび促す。警戒しながら、ようやく座った。
窓際のボックス席からは、外の景色が当然見える。ノブは外を眺めると、なにかを探しはじめた。
「ああ、あそこからか。なるほどね」
ひとり合点しているノブに、おいてきぼり状態の千秋は、苛立ってきた。早く課長を追いかけたいのにと。
「ノブ君っていったかしら、私急いでいるのよ、用があるのなら早くしてよ」
「まあまあ、そう慌てずに。その課長さんなら明日また会社に来ますよ」
「なんでそう言えるのよ」
「だってスパイですもの」
千秋は聞いた最初、言っている言葉の理解に苦しんだが、ようやくアタマに浸透した。
「課長がスパイ? 誰の? 何の?」
「興味が出てきましたか、じゃあ順序だてて話しますね」
ノブはスタジャンのポケットからレコーダーを出すと、ステレオタイプのイヤホンをジャックにさして、片方を千秋に渡し、片方は自分の耳に付けた。
それを見て千秋も自分の耳に付ける。
「今から流すのは、月曜の夜に記録したものです」
千秋の耳に流れてきたのは、どこか酔っぱらい達の会話だった。どこかの飲み屋らしい、酔った声と、雑音で聞き取りにくかったが、なんとなくどこかで聞いたことのある声だった。
話している内容が分かるようになると、千秋の顔が険しくなる。どこかの女の人を襲う話だった。卑劣な奴等のその後の話は、聞いてて気分が悪くなるだけであった。ノブは再生を止める。
「無事で良かったですね」
ノブの言葉で、その女というのが自分だと、やっと気づいた。
「この計画は昨夜やる話だったんです、帰り道のチアキさんをつけて、てきとうな暗がりで襲うつもりでした。だけど失敗、ていうかやめたんですよ」
「どうして」
「え~っと、そのポイセンとかいうのが、やる気を無くしたんです」
「なぜ」
続きを聴きましょうかと、レコーダーをふたたび再生した。モニタの録音日付は、昨夜と表示されていた。
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