第13話 その2

(はぁ ポイセンも堕ちたな、女ひとり襲えないなんて。お前ちゃんと煽ったんだろうな、ああ)

(ちゃんとやりましたよ、呑んでる最中に絡まれてひどい目にあった。仕返ししたいんで先輩、手伝って下さいっていいましたよ。ポイセンも最初は乗り気じゃなかったんすけど、画像を見せたらやる気になりましたよ)

(なんでダメになったんだよ)

(直接品定めしたいっていうんで、リンチョウに女の行動を聞いて、会社の前で待ち伏せしてたんです)

(で)

(時間どおり出てきたんで2人でつけたんです、そしたら急に振り返ったんでビックリしたんですが、念のためポイセンもスーツ着せといたんでバレませんでした)


 昨日の変な気配はそのせいか、と千秋は思った。


(それから会社仲間らしいのと一緒になって呑みはじめて、窓際の席だったからしばらく張ってたんす。そしたらポイセンが急に、[かえるぞ]って、どうしたんすかって訊いたら[あの女はダメだ、やめとけ]って)

(なんだよそりゃ)

(わかんないっすよ、どうしてダメかだいぶシツコク訊いたら[お前らにゃ分からんだろうが、歩き方や食べ方を見れば分かるんだ、あの女はやっかいだからやめとけ]って)


ここで再生をノブが止めた。


「これでチアキさんに興味持ったんですよ、このポイセンってヤツは格闘家くずれで不祥事をおこして、まあ、やさぐれているんですけどね。それなりに強いんです、それが、ヤバいからって諦めるヒトってどんなヒトだろうって」


「訊きたい事が山ほどあるんだけど、まず、あなたは何者なの? どうやって、これを手にいれたの?」


「ああ、そうっすね。まだ話してませんでした。スンマセン、チアキさんに逢いたくって、会ったらウレシくてまいあがっちまって……」


 ノブはカーゴパンツの足に付いているポケットから名刺入れを取り出すと、名刺を1枚、千秋に差し出した。


カフェバーgoto HEAVEN

店長 中島小信


「カフェバーの店長やってます、ナカシマ コノブです」


「カフェバー……あ、じゃあさっきの録音って」


「ええ、ウチの店でのことです」


「じゃあ盗聴なの」


「そうっすね。うちの店は、アブナイ奴らとか怪しげな連中がよく来るんですよ。なもんで、自衛の為にアチコチにマイクやカメラを仕掛けているんです」


けろっとした表情で、屈託なくノブは答えた。


「あんたねぇ」


千秋は呆れる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る