第4話 企画3課のイケメン

翌日の火曜日、千秋は不機嫌な顔で出社した。

別に二日酔いではない、プレゼンの付加価値というのが、まだ思いついていないのだ。

予想通り、朝から課長にネチネチクドクド責められた。

それが出社した9時から昼休みの12時まで続いたのだった。


「よくもまあ、あれだけ話すネタがあるわね」


会社近くのファミレスで、ランチを摂りながら、2人は生気を回復させていた。


「ほぼ同じ内容の繰り返しでしたけどね、結果が出ていない、やる気があるのか、辞めさせるぞ」


「あーもう、聞きたくない聞きたくない」


頭を振る千秋に、一色は笑って謝った。

会議をかねて千秋は一色と塚本をランチに誘ったのだが、塚本にはフラれてしまい、一色と食事中であった。


「私、塚本さんに嫌われているのかなぁ。配属以来、話したことないわよ」


「そんなことないですよ、彼女はただ無口なだけです」


「一色君は、どうやって会話を成立させてるの」


「彼女の仕種と表情で読みとってますね、あとは端末のモニター。口下手な彼女は文字入力の方が楽らしいから」


千秋はまじまじと、目の前の青年をみた。


背は高く細身である。肌の色は白く、髪は黒く短髪で、顔は切れ長の目が印象的な美形。

服のセンスも良く、ビジネススーツを格好良く着こなしている。それでいて物腰もやわらかく、女性に優しい。


「一色君みたいなのを、イケメンていうのね」


「なんですか急に」


「ふっと思っただけ。それよりもプレゼンよ、何か思いつかない? 」


「申し訳ないですけど無いですね。逆に僕も訊いていいですか」


「なにを? 」


「総合商社のうちが、取引先の森友財団グループに輸入品を売るのは分かります。それが同じ商社の郡原ぐんばる物産とコンペなのも分かります。ですが、こういうのは本来、営業部の仕事ではないですか。それがなんで企画3課にまわってきたんでしょう」


「う~ん、なんでだろうね。しかも課長は、配属されて半年くらいの私に丸投げして、助けてくれないしねぇ」


千秋の返事の物言いから、理由を知っていてとぼけているなと、一色は読みとった。




「ただいま戻りました」


「遅かったな、佐野くんは? 」


「仕入れ先に行ってみます、と言って出掛けました。直帰するそうです」


「ふん、で、なにか言ってたか」


「いえ、まだ何も思いついてないですね」


「そうか、これからも逐一報告するように、クビになりたくなかったらな」

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