第3話 その3

一方、こちらの連中は美味しくないサケをガブ飲みしていた。


「なんなんだよ、あの女!! ほぼ確実にこっちの勝ちだったんだぜ。なのにあの女のせいで、またプレゼンだよ! やっと東京に戻れると思ったのによぉ」


ボックス席に陣取った、グループのリーダーらしいのが、ウィスキーの薄い水割りをあおりながら喚き、他の4人が、同調しながら同じ水割りを飲んでいる。


名古屋の繁華街の外れにある老朽化したビルの4階の一室は、カフェバーと看板にはあるが、怪しげなスナックと表現した方が似合っている。

そんな外見だからふつうなら入り難いが、密談や怪しげな相談をしたい連中は、そうでもないらしい。

チャラそうな若いバーテンダーがひとりで、カウンターの中でつまらなそうにグラスを拭いていた。


「一週間後ってことは、来週の月曜か。なんか手はあるのか」


リーダーの問いかけに、4人はだんまりとする。もともと仕事ができなくて、リーダーに胡麻をすってやってきただけの連中であるので何も思いつかないらしい。

リーダーはむすっとした顔で、少し濃くした水割りをあおった。


 2時間が過ぎたが、なにも意見の出ないままであった。飲み続けてた水割りは、ほとんどストレートと言っていいほど濃くなって、全員ほぼ泥酔状態となっている。そんな中、ひとりがボソッと呟いた。


「ようは、あの女がいなきゃいいんじゃないですか」


「……あれをやるのか」


「そうっすよ、あの女がでしゃばらなきゃ決まってたんです、あの女がいなきゃいいんすよ」


「だが名古屋にとばされた理由を忘れるなよ、こっちでやってバレたらさすがに不味いぞ」


「ポイポイ先輩、覚えています? 先輩、こっちに住んでいるんすよ」


「ポイセンの野郎がなんで名古屋にいるんだよ」


「あの人地元コッチなんすよ、この前たまたま会っちまって、おごらされたんす」


「俺のことは言ってないだろうな」


「そりゃもちろん、アイツに一流会社に勤めているなんてバレたら、たかられますからね。オレひとりで就活してるって言っときました」


「ふん、つまりポイセンを使って、あの女をやっちまえば、今のまんまでプレゼン勝てるって訳だな」


「どうっすか」


「よしやれ、ただしバレるなよ。裏がバレたら今度はアイツがジャマになるからな」


「うっす」


仕事は出来ないけど、こういうよからぬ事は考えついて、さらに行動力もあるらしい。

泥酔の彼等は、まだ何もやってないのに祝杯をあげたのだった。

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