映画みたいな復讐(リベンジ)

 違う会社だと気がついたときには遅かった。完全に頭に血がのぼっていたおれは、ハンマーを手にオフィスを破壊し尽くしていた。

 きっかけはふと目にしたテレビだった。そこにおれの映画が映っていたのだ。あの場面、あのセリフ。紛れもなくおれが書いた脚本だった。おれの最後の傑作をあいつらが断りもなく映画にしたのだ。

 エンドクレジットにおれの名前はなかった。代わりにあのクソ野郎が監督と脚本を担当したことになっていた。プロデューサーも映画のことなど何一つ分かってない、あのジャン=クロード・ヴァン・ダム狂のど阿呆のままだった。二人でおれの脚本を盗んだのだ。

 ブチ切れたおれは、やつらがいる映画会社に乗り込んでいった。だが、会社はとっくに移転していて、代わりに別の広告代理店が入っていたのだ。それに気がついたのは駆けつけた警察官に取り押さえられたあとで、おれは見ず知らずのアートディレクターやらDTPオペレーターやらに重軽傷を負わせていた。

 映画をやめてからの五年間、おれはその場しのぎの底辺暮らしを強いられてきた。バイトは面接もろくに通らず、夕貴菜には逃げられ、夜は眠れなかった。映画の仕事で関わった連中への怨み言がとめどなく溢れ返り、頭がおかしくなりそうだった。

 いや、なったのかもしれない。

 おれは精神鑑定を受けるため、精神科病院にぶち込まれた。処方された薬は気分を少し楽にしてくれたが、やつらへの復讐心はむしろ膨れ上がっていった。

 それだけじゃない。おれの中で捨てたはずの映画まで動き出したのだ。おれには再び映画が見えはじめていた。そこに映っているのは、全身血塗れで地べたに内臓をぶちまけて絶命するあいつら。そして、おれに優しく微笑む夕貴菜だ。

 閉鎖病棟の中庭でやたら動きのトロい他の患者たちを眺めながら、おれは復讐計画を練った。いつまでもこんなところでくすぶっているわけにはいかなかった。

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