冒頭小説集

つくお

嗤うゴーストライター

 すべてはジャン=クロード・ヴァン・ダムからはじまった。

 最初こそ大物めいたもったいぶった話し方や仕草が鼻についたが、お互いにヴァン・ダムのファンと分かると意気投合した。狂気を孕んだような目付きもチャーミングな悪役という風に見えなくもない。ちょうど『マキシマム・ソルジャー』のときのヴァン・ダムみたいに。あれは隠れた傑作で、おれは三回見てる。

 というわけで、この男のことは映画の役名にちなんでザンダーと呼ぶことにしよう。

 おれはしがないフリーライター。ライターなんていえば聞こえはいいが、主な生業は自伝のゴーストだ。しかも自費出版系。クライアントの大半はろくな実績もないくせに自伝を出したいなどと考える自己顕示欲の肥大した連中だ。

 その手のやつらは文章技術だってないから、おれがインタビューして原稿にまとめてやるというわけだ。もちろん、本人が泣いて喜ぶような形にして。

 ザンダーは東京近郊に住宅リフォームの施工会社を持つ成り上がりの経営者で、四十八歳の独身。従業員は十五名足らずで社長自ら現場を駆けずり回る日々だが、それでも地元長崎で造船作業員として一生を終えた父親と比べれば成功したと言えるのだろう。

 十八で故郷を捨てたザンダーだが、地元にヴァン・ダムばりに股割りをしている自分の銅像を建てるという秘かな夢を持っていた。平和祈念像と同じサイズのやつをだ。おれは笑ったが、ザンダーは冗談を言ったわけではなかった。次第にこの男のことが好きになりはじめていた。

 ザンダーはカフェのような場所で話をすることを好んだが、最初の二回は仕事の苦労話と若い頃の喧嘩自慢に終始した。何度も炸裂するザンダーの回し蹴り。おれは時間のかかる案件になりそうだと覚悟して、辛抱強くレコーダーを回し続けた。

 話がおかしな方向に行きはじめたのは三回目に会ったときだった。ザンダーがおもむろに殺しの過去について語り出したのだ。


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