crunch time

「豆沢? 豆沢?」

「う……」

「大丈夫か? もしもし?」

「や……ばいかも」

「どうした? 今どこ? 部屋?」

「……ん?」

「家にいるのか?」

「そう……」

「もしもし? もしもし?」

 電話は途中で切れた。

 かけ直しても通じず、おれはあわてて部屋を出て自転車に飛び乗った。

 豆沢の家まで、とばせば十分とかからなかった。意識がもうろうとしているようだったし、脳梗塞とかそういうやつだったらやばい。

 やつのマンションに着くと表に救急車が停まっていた。やつが自分で呼んだのかもしれない。

 自転車を投げ捨てるようにして建物の入口に走ると、突然サイレンが鳴った。間近で聞くその音量にどきりとして立ちすくむ。

 と、救急車がすっと発進した。もう乗せていたのだ。

「ちょっ、待った!」

 おれはあわてて自転車のところに戻り、あとを追った。

 住宅地の狭い道ではたいして引き離されなかったが、通りに出るとさすがにあちらの方が早かった。それでも方角からどの病院に搬送されるかは見当がつく。環状線を越えた先にある茶駒第二病院だ。

 必死にペダルをこぎながら、いやな想像ばかりふくらんだ。脳梗塞、心臓発作、血管破裂――。

 死ぬな、豆沢。

 息を切らせて病院に着くと、搬送口のところに救急車を見つけた。ちょうど隊員たちがストレッチャーを降ろしている。合間から豆沢の顔がちらりと覗いた。

「豆沢!」

 おれは自転車を乗り捨ててやつに駆け寄る。ストレッチャーに寝かされた豆沢は虫の息だった。そんな感じに見えた。

「大丈夫か!」

「ひ、暇谷……」

 豆沢は何とかおれを認めたが、今にも向こう側に行ってしまいそうだった。

「豆沢!」

「運びますから」

 救急隊員が厳しい口調で制する。

「友人です。一体何が……」

 おれは状況を知りたかった。

「糖尿です」

「え?」

 救急隊員たちは速やかにストレッチャーを院内に運び入れた。

「糖尿?」

 おれは半ば呆然となって豆沢を見送った。


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