長いお迎え
おれの名はコヨーテ。私立探偵。ハイエナじゃない。コヨーテだ。からかうつもりでおれをハイエナと呼んだやつで、まだ息をしているやつはただの一人もいない。うっかりだろうと同じことだ。ハイエナは群れたがるがコヨーテは単独行動を好む。おれも同じだ。
おれは事務所でダーツを弄びながら、過去の女たちのことを思い出していた。事件にはレンタカーの免責補償みたいに必ずと言っていいほど女がついてくる。中には自分で事件を起こしておきながら助けを求めに来るような女もいる。だからと言ってどうして知らんぷりできる? 特にその女がコスタリカ人だったような場合には。
というわけで、助手のステファニーが連れてきたのはお誂え向きの異国風美女。名前はファビアナ。個人的な知り合いで女優の卵だという。
「男につけ回されてるらしいの。助けてあげて」
「ストーカーか」
「そんなようなものね」
ステフの受け答えにはどこか刺があった。先月扱ったパンスト事件の検証で、何種類ものパンストを頭に被せてやったせいで拗ねているのだ。だがおれは頓着しない。そのときに撮ったステフの変顔写真はおれのパソコンにしっかり保存してある。
去り際、ステフは物言いたげにおれの顔を見た。おれは目顔に問い返す。
「髪の毛」
「なに?」
「何かついてる」
頭に手をやってみるとダーツの矢だった。マジックテープでつくタイプなのだ。おれは軽く笑ってみせ、そいつを壁の的に向かって投げた。矢は大きく逸れて開いていた窓から外に飛び出していった。
「乱気流に乗ったらしいな」
ファビアナは事務所に来てからまだ一度も笑顔を見せていなかったが、今度も同じだった。
「それで、相手に心当たりは?」
「死神、じゃないかと思うの」
「死神?」
ファビアナは黙ってうなずく。その表情にはかすかながら怯えが見てとれた。
女優の卵。早すぎるお迎え。死なすにはあまりにも惜しいグラマラスな体。おれはこの事件を引き受けることに決めた。
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