第2話

ママンはやっぱり待っていてくれました。そしてその青い目でじっとターミーを見ました。

白いフワフワの体を抱き上げるとゴロゴロしながら、「泣いたんだネ。」と言いました。

ターミーは頷いて、「あんまり強く引っ張って痛かったから。」と言いました。

するとママンは耳の上の所のひっ詰められて痛そうな所を少しザラザラする舌でペロペロと舐めてくれました。

それは少しくすぐったくて思いやりのある愛情のこもった仕草だったので、ターミーはとても幸せな気持ちになりました。そして不思議に頭の痛みも心の痛みも、いつの間にか消えてしまいました。

それからママンは前の日、約束したように森の中を左手に曲がった所にターミーを連れて行きました。

そこは木々の間が広場になっていて陽当たりも良く、きれいな花が沢山咲いていました。

ターミーはそこでママンと遊びました。

沢山花を摘んで花束を作ったり、横に寝そべっているママンの周りを花で飾ったりしました。

ママンは花を体に飾る事は嫌がりましたが、周りを飾る事は嫌がりませんでした。

白猫のママンは花の国の女王様のように見えました。

ターミーはお昼時も帰らないでずっと遊んでいました。

少しお腹が空きましたが、とっても幸せな時間だったのです。

丁度お昼頃、かすかに遠くで自分の名を呼ばれたような気がしましたが、ママンの傍から離れたくなくてターミーは聞こえなかった事にしました。

だってモーリーとお昼を食べててもいつも睨まれているようで食事が美味しくなかったのです。

それでもどんなにママンといるのが楽しくても必ず夕方はやって来ました。

お日様が西の空に傾き出すとママンは、「もうお帰り。これ以上遅くなったら夕ご飯が食べられなくなるヨ。そうしたら病気になっちゃうヨ。病気になったらもう遊べなくなるんだヨ。」と優しく言いました。

ターミーは仕方なくママンを抱き上げると、その体に顔をうずめて、「また遊びましょうネ。きっときっとまた会いましょうネ。」と言った後、一大決心するように家の方へ向かって帰って行きました。

家ではモーリーが夕食の準備をして待っていました。

ターミーは、「ただいま。」とだけ言いました。

モーリーは「お帰り」とだけ言いました。

二人は黙って夕食を食べました。

ターミーは食べ終わると自分の部屋へ行って寝ました。

モーリーは優しい言葉をかけませんでしたが、怒った言葉も言いませんでした。

ターミーはホッとして白猫のママンの事だけを思い出しながら寝ました。


次の朝、ターミーは顔を洗った後自分で髪をとかしているとモーリーが近づいて来たので思わず緊張して体を硬くしました。

するとモーリーは櫛を取り上げてもいつものように乱暴しないで普通にとかし、普通に髪を結ってリボンをつけてくれました。

ターミーはホッとしながらも変な気持ちがしました。今日は街から父親のサムが帰って来る日でした。

夕方になると、サムが街から戻って来ました。モーリーもいつもと違って優しい顔をしています。

サムはターミーを抱き上げると、「大きくなったナ。何だか急にしっかりしてきたナ。」と喜びました。

ターミーはニッコリ笑っただけでした。

次の日父親のサムはターミーに、「ターミー、モーリーには赤ちゃんが生まれるんだヨ。ターミーの妹か弟が生まれるんだ。ターミーはお姉さんになるんだヨ。だからモーリーも体の具合が普通じゃなくてイライラする事もあるかもしれないから迷惑かけないようにするんだぞ。」そう言いました。

サムは週末を過ごしてまた街へ帰って行きました。

ターミーは父親の後姿を見送った後、そのままママンの待つ森へ行きました。

森の中に入った所で、白いフワフワのママンはいつも待っています。その青い目でターミーをじっと見ています。抱き上げてそのフワフワの体に顔をうずめると初めて淋しさを忘れてほっこりとした温かい優しい気持ちになれました。

ターミーが、「モーリーは赤ちゃんが生まれるんですって。」そう言うと、

「まあ、そうやっぱりネ。それで尚更イライラしていたんだネ。」

ママンはそう言いながら青い目でターミーを見つめました。

「ターミー、それなら尚更これからは覚悟して、何があってもという諦めの気持ちと自分の事は自分でしようという覚悟を持つ事だネ。」と言いました。

「ママン、これからもどうしたらいいか私に教えてくれる?」と聞くと、

「神様はネ、その人が乗り越えられる試練を与えてくれるものだと人は言っているヨ。」そう言いました。

「だから、なにか辛い事があってもこれは神様が私に与えて試しておられるんだ。そう思ってごらん。」とゴロゴロの声は言いました。

ターミーは“試練”という言葉はまだはっきりとは解らなかったけれど何となく解るような気がしました。

「そう思った方が、まあ自分の為になるネ。」ママンは何もかも解りきった口調でそう言いました。

そしてまた、こう付け加えました。

「世の中に偉くなった人の多くは小さい頃からそりゃ随分苦労をして来たらしいヨ。ターミー、幼いお前には辛いだろうがその辛い事が少しずつ、お前を育てていくものなんだヨ。今は解らなくてもネ。辛い思いをした者だけが本当に辛い思いをしている人の気持ちが解るものだからネ。」と言いました。

ターミーは難しい事はまだ解らないけれど、ママンの言う事を信じてみようと思いました。ターミーはママンといる時が本当に心安らかな気持ちになれました。ママンのフワフワした体を撫でるとママンはいつもゴロゴロという音がする。

そのゴロゴロはママンの嬉しい気持ちでもあるけれど、ターミーに話す言葉でもありました。するとターミーの悲しみでいっぱいの冷たい心はいつの間にか溶けて流れて行き、その後にうっとりするような優しい世界が楽しい夢を運んで来るような気がするのでした。

モーリーは少しずつ大きくなるお腹をかかえて時には優しくなる時もあるけれど、大抵は急に何もかも嫌になったような不機嫌な時もあるので、ターミーは朝食を済ませるとポケットに小さいパンを一つそっと入れて外に出掛けるのでした。

その小さなパンはお昼に帰らなくてもいいようにお腹が空いたら食べる為でした。

この頃ではターミーの髪をとかす時、以前のように乱暴する事はなかったけれど、毎日のターミーの世話はきっとモーリーには重荷だったかもしれないと思い、ターミーは出来るだけ自分の事は自分でしようと思い始めました。

そして髪も、“自分でやってみます”と一言言ってから自分で髪をとかし、かなりゆるゆるだけれど自分で結ってみました。

その様子を見てもモーリーは何も言いませんでした。

ターミーはこれからはもっともっと上手に出来るようになりたいナと思いながら、毎日自分の髪を自分で結びました。

次の週末にサムが帰って来てターミーのゆるい髪を見て気が付きました。

どうしたの?という目をしています。

モーリーが「自分でやりたいって言い始めたのヨ。」と言うと、「ターミーはもうじきお姉さんになるんだ。しっかりしなけりゃと思ったんだろう。そうだろう?ターミー?」

ターミーは黙って頷きました。

サムはこの頃ではターミーよりもモーリーの体ばかり心配しているようで、ターミーは少し淋しかったけれど仕方がありません。赤ちゃんが生まれるのはきっと大変な事で、もしもモーリーまでデイジーのように死んだら大変だとサムは心配しているのだと思いました。

でもターミーには今、白猫のママンがいます。そう思うと淋しい気持ちは慰められました。

やがてモーリーのお腹は随分大きくなりました。

いつも重そうで大変そうな様子になりました。農家のおばさんやモーリーの家の人達がw代わる代わる様子を見に訪ねて来るようになりました。

ターミーは尚更、邪魔にならないように朝食が済むと表へ遊びに出掛けました。

その日もいつものように森の中の広場で遊んでいるとポツポツと雨が降って来ました。

今までも雨の日は何度かありました。朝から雨降りの日はママンに会うのを我慢して家の中から外ばかり見ていました。

今朝は雨が降っていなかったのでママンに会いに来たのです。

でも残念ながら雨は本降りに降って来ました。

ターミーが名残惜しそうに、「ママン、私家に帰らなくっちゃ。」と言うと、ママンがこっちへおいでと言うように先に立って飛ぶように走って行きました。

雨の中を森の奥へ入って行くと、森の尽きた所から下の方へ坂になっていました。

ママンはその坂を降りるとフッと消えてしまいました。

ターミーが恐る恐るその坂を下ると、そこには古い家がありました。

ママンはその古い家の軒先の下でうずくまってターミーを待っていました。

その古い家は森の尽きた崖の所に半分埋め込まれるように、まるで隠れるように建っていました。

その小さな家の前はちょっとした平地でその前を小川が流れていました。

そしてその小川の向こう側の高台には、広い牧草地が広がっているようでした。

でもターミー達がいるそこは落ち込んだ所なので人の目につかない秘密の場所に思われました。

この家は恐らく戦争の時、隠れる為に作られたものでしょう。

今ではこの秘密の家を知っている人は誰もいないようでした。

もちろんサムもモーリーも知らないでしょう。デイジーが生きていた頃もこの家の事を話した事はありませんでした。

まあ、ターミーが小さいせいだったかもしれませんが、この古くて小さな家は今ではターミーとママンだけが知る秘密の家でした。

だってその周りも家の壁もすっかり長い間ほったらかしにされていた様子だからでした。

正面に扉のようなものを見つけました。鍵もかかっていません。

古い土にまみれた取っ手に恐る恐る手をかけて引くと、案外簡単に扉は開きました。

そっと隙間から覗くと、中は真っ暗でとても陰気で恐ろしく見えましたが扉をいっぱいに開けて陽の光が入ると、まるで魔法をかけたように家の中が明るく見渡せました。

小さなお部屋ですが中には椅子やテーブルもあり、ターミーとママンは一目で気に入りました。

まだ雨が降っていますのでターミーとママンは家の中に入って探検する事にしました。

入り口を入ってすぐの所に大きな木のテーブルが置いてあり、同じく木で作った椅子が四脚周りに置いてありました。そして部屋の両脇には大事な物が入っているらしい箱が置いてあり、その上には埃除けの布が掛けられていました。

それから目についたのは部屋の奥にかけられたはしご段のような階段でした。

そこへ行って上を見上げると、上に上れる事が解りました。

ターミーは猫のママンに、「上に上っていいかしら?」と聞きました。

ママンは青い目で落ち着いた調子で、「ここは今ではターミーの別荘なのヨ。誰に遠慮はいりません。」と言いました。

ここもきっとターミーのお母さんのデイジーの叔母さんの持ち物に違いありません。

ターミーはその奥のはしご段が腐っていないかどうか用心深く一段一段手をかけて確認してから、一足、また一足とのぼって行きました。胸がドキドキしました。上はどうなっているのだろう?

上は天井が低いロフトになっていました。結構広く出来ているようです。

ターミーは這うようにしてかすかな細い光の洩れる方へ行きました。

近寄ってよく見ると、木の板で塞がれている窓でした。掛け金を外して窓を開けるといっきに光が入って来ました。そしてそういう窓が丁度入り口の扉の上と両脇に一つずつ、つまり三カ所にある事が解りました。

小さなターミーでさえ背をいっぱいに伸ばして歩くのは無理な程ですから、ここは万一に備え横になって眠る時の為に作られたものでしょう。

その証拠にそれぞれの窓の下の辺りに丸められてしっかり覆いの布に包まれた寝具類が置いてありました。

そして三カ所の窓の横脇にはどれも趣味の良い景色と野原と花の絵の小さな額が飾ってありました。覆いの布やテーブルや椅子や床には長い間の埃が積もっていましたが、どこもきちんとしていて飾ってある絵も素敵な絵です。

この隠れ家を作った人は誰かしら?その人はとっても優しい素敵な人に違いありません。

幼いターミーは母デイジーから聞かされた大叔母様の事を思いました。

あの家の階段に飾られた美しい人のような気がしました。

ターミーは心の中のその人に、この家を自分の秘密の家にしていいかの許しをお願いしました。胸の中のその人は、あの絵の中のように微笑んでいました。

その日から、その家はターミーの秘密の別荘になりました。

ここならどんなに寒い日でも、例え急に雨が降って来ても大丈夫です。

モーリーがいる家の中では、絶えず落ち着けなくても、ここなら安心してくつろげるからです。

「ママン、ここのおうちの事、モーリーやサムに話さなければ駄目かしら?」ターミーは猫のママンに聞きました。

するとママンは当然のように、「ここはターミーの大切な隠れ家なんだから別に話す必要はないでしょうヨ。」と言いました。

その返事を聞いてターミーはとても嬉しくなって扉の脇に掃除道具があるのを思い出して、バケツを持って小川の所に水を汲みに行きました。雨もすっかりあがっていました。

きれいな小川はサラサラと気持ちの良い音を立てていました。

ターミーは今まで掃除をした事もなくお手伝いをした事もありませんでしたが、雑巾を水で濡らして絞って、それで汚れた所を拭いてきれいにする事は知っていましたからそれを思い出しながらやってみました。

雑巾を絞るのは幼いターミーにとっては大人のようにはうまくぎゅーっと絞れません。

でもそれはまだ仕方のない事です。それでも少しずつ階段の上から一生懸命拭きました。

お掃除するって大変な事だと解りました。それをお腹の大きいモーリーがしていたのだなと思ったりしました。

上を拭き終わりました。バケツの水を新しいきれいな水に取り替えて階段下のテーブルや椅子や机も拭きました。

それで家の中はすっかりきれいになりました。

家もさっぱりして喜んでいるようでした。ママンはその間中、じっとターミーを見ていました。

いつの間にか着ている服はすっかり汚れてしまいましたがそれも仕方がありません。

ターミーはお腹が空いている事に気がついて階段を上ったロフトの所でポケットからパンを取り出して食べました。

いつものパンよりとっても美味しく思いました。

「ママンも食べる?」パンのかけらを手の平に乗せて差し出しましたがママンは食べようとはしません。ママンはお腹が空かないのでしょうか?

そのうちにターミーは疲れて眠くなりました。そしていつの間にか眠ってしまいました。

どれくらい眠ったのでしょう。ママンがターミーの手をペロペロ舐めるので、目が覚めました。

ロフトの小窓を開けて外を見るともう夕暮れ時です。

ターミーは驚いてロフトを下りました。

「ママン、起こしてくれてありがとう。今日は本当に楽しかった。これは夢ではないわよネ。また明日もここに来て一緒に遊びましょう。」そう約束して扉を閉め、崖の脇の小道を登って上の森に出るとターミーはそこでママンと別れました。

満足感と喜びで家に帰るのも苦しくはありませんでした。


それからのターミーは前のように淋しくて不安なターミーではありませんでした。

自分には安心できる場所がある。誰も知らないママンと自分だけの秘密の家がある。

そう思うと以前のようにモーリーの顔が少しぐらいイライラしても気にならなくなりました。

そしてある日、モーリーには双子の赤ちゃんが生まれました。

二人共元気な男の子でした。サムも大喜びです。

ターミーはその時ばかりは赤ちゃんの愛らしさに夢中になり、いつも眠ってばかりいる赤ちゃんの側にいたがりましたがモーリーはそれを嫌がりました。

「さあ、いつものように外で思いっきり遊んで来るんですヨ。」そう言ってターミーはいつも追い出されました。

もしも子守を頼まれたら、喜んで役に立とうと思っていましたが頼まれませんでした。

だからターミーが双子の坊や達といられるのは朝のうちのほんの短い時間だけです。

その短い時間にターミーは思いっきり坊や達に笑いかけ、話かけ、そのフクフクした手や足に触りました。それでも朝ご飯を食べ終わるとターミーは、お外で遊んでいらっしゃいと追い出されました。

ターミーはしぶしぶ坊や達の頬にキスしてその傍を離れます。

ターミーにキャッキャッと笑いかける双子の赤ちゃんを振り返り振り返りお庭に出て、白猫のママンの元へ向かうのでした。

森に着く頃にはママンに会うのがとてつもなく楽しみで、坊や達の事は頭から忘れるのでした。

だからその頃のターミーは外にいても家の中にいても楽しい事がありました。

森に入るといつものように白猫のママンがターミーを待っていました。

「おはよう。」と言って抱き上げるとママンがゴロゴロしながら、

「ここに来る事に文句は言われなかったかい?」と聞きました。

「いいえ、遊んでいらっしゃいと言われたのだから大丈夫ヨ。」とターミーは答えます。

ママンはフワフワとしてとても軽いのです。その体に顔をうずめると日向の匂いがします。とても安心したいい匂いです。

そのゴロゴロの音に混じって、


「子供を生んで育てるという事は大変な事だからネ。しかも一遍に双子は大変だろうヨ。赤ん坊が眠っている時に済ませなければならない事は山程ある筈だから。出来るだけ邪魔されたくないのだろうヨ。並の人間にはそれが精一杯だ。解ってやるんだネ。」そう言いました。

ターミーは成程、そういうものか。それじゃ仕方がない。そう思いました。

ママンは何でもターミーの解せない事を教えてくれます。

やがて森の尽きた所を下に下る小道があってそこを下ると、秘密の別荘が隠れるようにしてあります。

ターミーは今やその家の主人のような気持ちで扉をいっぱいに開けて中に入ると、奥のはしご段を上ってロフトに上がり、三方にある窓を開けます。

すると家の中はすっかり明るくなりました。それから下に下って来て机の前の椅子に座って机の引き出しを開け、中に入っていたノートやペンを取り出すとそれにいろいろお絵描きを始めました。

この家の中には何でも揃っていました。泥除けの布をはぐといろんな日用に必要な道具がきちんと整理されて置いてありました。

部屋の隅の本棚には本も沢山置いてありました。でも残念ながらターミーにはまだ読む事が出来ません。

この本が読めたらどんなに良いかしら?でも机の引き出しにはノートや書きかけの日記のようなものが入っていたのでターミーはそれにお絵描きをして遊ぶ事にしました。

お絵描きにも飽きると、また外に出て遊びました。

外での遊びにも疲れるとまた家の中に入って遊びました。

そして思い出したようにバケツを持って川の所へ行って水を汲んで来ては家の中を拭いてお掃除をしました。

大事な大事なターミーとママンのおうちです。

きれいにする事は大事で楽しみの一つになりました。


双子の男の子達は丸々太って愛らしい子供でした。父親のサムは週末に帰って来ると双子の赤子の顔を見るのが至上喜びらしく、成長したターミーには。

「やあ、ターミー調子はどうだい?元気そうだネ。弟達が生まれて随分お姉さんらしくなったネ。何か欲しい物はないかい?」と機嫌良く声をかけるだけで、この頃ではすっかり遠い人になったような気がするのでした。

ターミーもたまに帰って来る父親に心配をかけまいと、「欲しい物は今は何もないワ。こんな可愛い弟達がいるんですもの。」そう言うとあまりに大人びた返事にびっくりしたような顔をしてモーリーの方を見るのでした。

そしてモーリーはその返事と様子に満足しているようでした。

でもターミーは父親が帰って行った後は決まって淋しい気持ちになるのでした。

そういうふうに我慢する気持ちを覚えてターミーは、大人に甘える事もなしに少しずつ少しずつお姉さんらしくなって行きました。

ある日、ターミーはモーリーに、「お母さん毎日大変でしょう?私お掃除してから遊びに行きます。どうするか教えて下さい。」とモーリーに言いました。

ターミーが五歳になった時でした。

モーリーはそんなターミーを見て少し驚いたようでしたが、階段から居間、そして玄関までの掃除の仕方を見せてくれました。

最初は大人のように上手に出来なかったけれど、ターミーはその日から一生懸命掃除の手伝いをしました。そして掃除が終わると安心して朝食を食べ、双子の弟達の所に行き優しく話しかけ、それぞれの頬にキスをしてから外に遊びに出掛けました。

やがてその掃除もいつの間にか上手に手際よくきれいに出来るようになりました。

モーリーは何も言いませんでしたが、その様子はいつもじっと見ているようでした。

そしてターミーは出掛ける前に必ず双子に話しかけます。

「可愛い坊や達、今日もご機嫌よう。」

一人はユン、もう一人はヨンと言いました。

ターミーは一人一人に、「ユン可愛いネ、大好きヨ。ヨン可愛いネ、大好きヨ。」と言って抱きしめてキスをしました。

もっともっと一緒にいて遊んでやりたいのですが、母親のモーリーがターミーが外に遊びに出掛けるのを待っているような気がするからです。


それぐらいにして早く遊びに行きなさいと口に出して言われた訳ではありませんが、ターミーには何故かそう思えるのです。考え過ぎでしょうか?

ある日、白猫のママンにターミーは正直にその事を話しました。

「それはあるだろうネ。なんて言ったってターミーはモーリーにとってはこう言っちゃ可哀想だが赤の他人だからネ。邪魔だとは口に出して言えないし。恐らくターミーが家を出た後はホッとしているだろうヨ。モーリーは並の人間だからネ。並の人間の中には血を分けた自分の子供でさえ時には邪魔に思うもんもいるからネ。それがターミーはなさぬ仲の、しかも利口な子だからネ。モーリーにとっちゃ気疲れの元になるだろうヨ。でも逆に考えてごらん。もしもモーリーがいつも外に出てばっかりでどこで何をしているの?家の中にいなさい!と言って始終ターミーのする事なす事を監視していたらどうだろうネ。ターミーも息苦しくなるんじゃないだろうか。まあ、これはお互い気を遣う時間が少なくて良いと考えた方が良さそうだネ。人と人とはネ、お互い距離を置いて付き合った方がいいんだヨ。」白猫のママンが訳知り顔でそう言いました。



それからのターミーは朝起きて着替えて、自分の髪もとかし身支度を整えると朝食の前に階段から階段下の今と廊下を掃き玄関まで掃除をする事を自分の仕事にしました。

それが終わると朝食を食べ、パンを1個だけエプロンのポケットに入れると、双子のユンとヨンに一人ずつ可愛いネ、愛してるとおでこやほっぺにキスをしてから外に出掛けるのでした。

双子のユンとヨンにケセラとセラと秘かに名前をつけたのはターミーでした。

白猫のママンがいつもターミーに、「あんまりクヨクヨ考え過ぎない方がいいヨ。物事はなるようになっていくものだからネ。それをケセラ・セラって言うんだヨ。」そう言って慰めてくれるのが常でしたから。ターミーはその言葉がとても気に入って時々、心細く悩みそうになると、「ケセラ・セラ」と自分に言い聞かせるようになりました。

それに双子の無邪気な弟達を見ていると心の底からいいようのない優しい笑みがこぼれて来て、ケセラ・セラと思えるのでした。

モーリーはユンとヨンと呼んでいるけれど、ターミーはこっそりケセラとセラと呼んでしまうのでした。

すると双子の弟達は尚更愛らしく見え、ターミーはこの弟達がとっても大好きになってくるのでした。

その気持ちが相手に通じるのかケセラもセラもターミーの事がいかにも大好きなようでした。

毎朝の事でありモーリーは、ターミーが小さなパンを一つエプロンのポケットに入れるのは気付いていたのかもしれませんがそれについては何も言いませんでした。

また、その小さなパン一つで夕方までお腹が空かないの?お昼は帰って来て食べなさいなどと母親らしい言葉をかける事もありませんでした。

ターミーはその日も双子をそっと抱きしめて頬ずりしてから庭に出ました。

向かうのは庭の向こうの森です。

そこには決まって白猫のママンが待っていてくれるのでした。

ターミーは秘密の家の前を流れる小川の岸で草花を摘んだり、その花や葉っぱを小舟のように流したりして遊んでいました。

すると細い小川を隔てた向こう岸にお祖父さんが一人来て声を掛けて来ました。

優しそうなお爺さんでした。

「お嬢ちゃん、こんにちは。お嬢ちゃんはあそこのお屋敷の子かい?」と森の向こうのターミーの家を指して言いました。

ターミーが黙って頷くと、「お名前は?」と聞くので、「ターミー。」と言うと、「ああ、それじゃ先の奥様のお孫様じゃな。奥様はお淋しそうじゃったがお子さんがおられたのじゃナ。そうかそうかそりゃ良かった。」

ボソボソ一人で言っては一人で何度も頷いています。

ターミーが、「お爺さんは大叔母様を知ってるの?」と聞くと、「ああ、知っとるヨ。とてもお優しい方だった。お名前は嬢ちゃんと同じターミー様とおっしゃった。」そう言って懐かしい昔を思い出すように笑いました。

大叔母様は私と同じ名前だったんだ。ターミーは少し嬉しくなりました。その事を教えてくれたお爺さんに親しみを覚えました。


「お嬢ちゃんお昼は?」とお爺さんが聞きました。

「ええ、これから食べるところなの。」そう言ってターミーはエプロンのポケットから小さな丸パンを取り出して見せました。

「それだけ?」

「ええ、これだけヨ。でも大丈夫、少しお腹が空くけど夕食にはちゃんと食べれるから。」とターミーは答えました。

「お母さんは心配しないかい?」

「新しいお母さんは双子の赤ちゃんのお世話で忙しいから。」と言うと、「新しいお母さんと言う事は、お嬢ちゃんの本当のお母さんはどうしたのかネ。」

「本当のお母さんは病気で遠くに行っちゃったの。」

ターミーは精一杯気持ちをしっかりとして答えたつもりだったけれど、気持ちとは裏腹に涙がポツンと出てしまいました。

それを見たお爺さんは少し慌てたようにして、「悲しい事を思い出させてしまったネ。ちょっとお待ち。今そっちに行くから。」と言うと、細い小川の中ほどに大き目な石を持って来て二つばかり置くと、その石をポンポンと伝ってこちら側に来ました。

そしてニッコリ笑うと、近くから倒れていた木を引っ張って来て、それを腰掛けにしました。


「さあ、ここに座ってお昼にしようか。」

お爺さんは自分もそこに腰を掛けてターミーをもそこに腰掛けさせました。

そして猫のママンを見ると、「随分きれいな猫だネ。友達かい?」と言いました。

「ええ私の大切な友達なの。ママンと言うのヨ。」そう答えると、お爺さんはママンの事をしげしげと見ていました。

「儂は、先の奥様もこれによく似た猫を大切にしていた事を思い出したヨ。まさかあの時の猫と同じではあるまいネ。あの時のあの猫の孫かひ孫かやしゃごだろうナ。」と独り言を言っていました。ママンはそのお爺さんを青い目でじっと見ていました。そして何も言いませんでした。だけどターミーにはママンがお爺さんの顔を懐かしそうに見ているような気がしてなりませんでした。

その時のターミーはあんまり小さくて猫の寿命がどれぐらいなのか解らなかったけれど、何と言ったってママンは何でも知っているのだし、言葉も話せるし、ターミーに世の中の人の心をいろいろ教えてくれるのだからきっと随分物識りの猫だろうと思いました。


お爺さんは斜めにかけていた大きなずだ袋を肩から外して、その中からお昼を取り出しました。

中には皮のついた茹でたじゃがいもが十個程と大きなチーズのかけらと太いソーセージとミルクが入った瓶が入っていました。それをターミーの前に広げると、「一緒に食べよう。」と言いました。

じゃがいもは茹でてあったのでお爺さんのするのを真似てターミーも手で皮をむきました。幼いターミーにも出来るのでターミーは嬉しくなりました。

お爺さんがナイフで切ってくれたチーズやソーセージを食べながらじゃがいもを食べミルクを飲みました。

お爺さんは始終ニコニコしていました。

ターミーはお礼に自分の持っている小さな丸パンを半分こしてお爺さんにあげました。

お爺さんはそのパンの小さなかけらの上に小さなチーズを乗せてママンに差し出しました。

ママンはお爺さんの親切に答えないのは礼儀に反するとでも思ったのか、それを素直に食べました。

ママンが何かを食べるのを見たのはその時が初めてでした。お爺さんは喜んでまた同じようにしましたが、ママンが食べたのはその一度きりでした。ママンの精一杯の礼儀だとターミーは思いました。

それからお爺さんはお昼時になると、向こう岸から石をポンポンと飛び越えてターミー達のいる所にやって来ました。

そしてターミー達と一緒にお昼を食べました。そのうちお爺さんは向こう岸の丘の上の野原で牛を放し飼いにしている事が解りました。

川岸を上った所に柵が張られていますが、その先はどこまでも広がっている広い牧草地になっていて遠くにたくさんの牛がのんびり草を食べているのが見えました。

お爺さんのお顔は頬から口の周りが白い髭で覆われていました。白い眉毛の下の目は落ち窪んでいましたが、その目はとても優しそうでした。


ターミーはそれからお昼時になると川のほとりに立ってお爺さんがやって来るのを待つようになりました。

「そろそろお爺さんが来る頃ネ。」ターミーがそう話しかけると白猫のママンも「そろそろ来るでしょうネ。」と落ち着いた声で答えるのですが、それでもママンもターミーと同じでお爺さんがやって来るのを待っていたのは疑いようもありません。

やがてお爺さんが向こうの丘から木の柵の間をすり抜けて急ぎ足でこっちに向かって来るのが見えると、それは嬉しくてたまりませんでした。

「お爺さーん。」ターミーが呼ぶとお爺さんもニコニコ顔で手を振りました。

その優しさといったら、もうお爺さんはターミーの大切な友達になっているのでした。

お爺さんは浅い小川に置かれた石をポンポン飛び越えてやって来ると、ニコニコ笑って肩から袋を外してその中から、まだ温かいジャガイモとチーズとソーセージとミルクを取り出します。

「お腹が空いとるじゃろう。儂もお腹がペコペコじゃ。さあ、食べよう!」

ターミーもエプロンのポケットから小さな丸パンを取り出してそれを半分こすると、片方をお爺さんに差し出しました。

そのじゃがいもの温かくて美味しい事。ちょっと塩気のあるチーズの美味しかった事。そよ風が吹いてその中で食べるソーセージの美味しかった事。また、搾りたてのミルクの美味しかった事。ターミーはお腹がいっぱいになりいつも満足しました。

そういうターミーの顔を見てお爺さんもまた満足しているようでした。

そして食べ終わると必ず、「儂は行くがくれぐれも嬢ちゃんはこの川を渡って来ようなんて思ったら

駄目だヨ。この川は浅いように見えるが急に深くなっている所もあるんじゃから。まだ小さい嬢ちゃんは決して儂の真似をしてこの石に足を乗せてはいけないヨ。これはグラグラしてとっても危ないからのー。約束しておくれ。」と言いました。

ターミーは、そのゴツゴツしたしわだらけの手にそっと自分の手をのせて、「お爺さんに約束します。」と言いました。

「いい子だ、いい子だ。また明日も来ような。そしてまた一緒にお昼を食べような。」そう言ってお爺さんは帰って行くのでした。

ターミーはその約束が嬉しくてどんな事も頑張れそうな気がしました。それからもそんな楽しい日は続いて行きました。

川の向こうの丘はなだらかでのんびりして見え、そこで草を食べている牛達も幸せそうに見えました。


そんなある日の事、

いつものように美味しいお昼を食べ終わるとお爺さんが、「お嬢ちゃん、お嬢ちゃんに頼みがあるのだがネ。儂の頼みを聞いてくれるかい?」とい言いました。

ターミーは、「何ですか?私に出来る事?」と聞きました。

「うん出来る事だヨ。昨日、儂の大事な牛が子牛を産んだんじゃ。その牛は儂にとっては特別の牛なんじゃヨ。うちには何百頭もの牛がいるが、その牛だけには名前をつけている。その牛は信じられんほど長生きしてのー。本当はもうお婆さんなんじゃが。多くの牛は子牛を産めなくなると肉牛として売られて行くんじゃ。儂の息子達がもう年をとって子供が産めないだろう。肉牛に売るしかないだろうと話していると必ず子供を産むんじゃヨ。今年こそさすがにもう子供が産めないだろう。肉牛に売ってしまおうと話し合っていた所がそれを聞いていたようにいつの間にかお腹が大きくなっていたんじゃ。“ムーン”は余程、肉牛として売られるのが嫌なんじゃろう。儂はそう思ったヨ。だから儂はムーンにムーンお前はお前の母親のように随分子牛を産んでくれたナー。お前は覚えていないかも知れないが、お前の母親ももう年だから肉牛として売らねばならないだろう、そう思うと子供を産んだものだ。もうヨボヨボな年なのに最後の最後にはお前を産んで最後の力を使い果たして死んでしまったんだヨ。お前の母親はまるで儂の心の内が解るようじゃった。だから儂は産まれたばかりのお前は特別な子だと思って育てた。他の牛とは同じには思えんかった。お前の母親が最後の最後まで命を懸けて産み落としたお前は、その解り易い模様から秘かにムーンと名前をつけて育てた。名前なんかつけると情が移っていざ肉牛として売り渡す時辛くなると誰もが言うけれど、儂は秘かにムーンと呼んでいつもいつもお前に話しかけたっけ。そしてお前も立派な雌牛になって沢山の子牛を産んでくれた。うちの牧場で一番子牛を産んで、一番優しい牛だったナー。儂の事をよーく覚えていて、儂の姿を見かけると遠くにいてもモーッと鳴いて儂の所に近づいて来た。儂はその度に嬉しくてそして悲しかった。この子もいつか年老いて子牛が産めなくなる日が来るだろう。そうなったら肉牛として売らねばならない。こんなに心が通い合ったものを。そう思うともう随分以前から悲しかった。息子達は決して悪い人間じゃないが、自分の仕事に熱心だ。そして牛の事もよーく見ている。ムーンの事を見て、あの牛ももう子供は産めないだろう。肉牛として売るしかないナ。そう言ったその時、儂は何も言えなかった。胸がズキンと痛んだ。あの牛だけは駄目だ、そう口から出かかったが言えなかった。儂はその晩からムーンの事を思うと何故か泣けて仕方がなかった。この頃よく思うんじゃヨ。因果な商売だナーってネ。その後間もなく、ムーンのお腹が大きくなっているのに気がついた。もうすっかりお婆さんになって子牛を産むのは無理な筈なんだ。なのにムーンは子牛を産もうとしていたんだ。あの子の母親と同じだと思った。儂は息子達に言ってやったヨ。お前達がもう年寄りだと思っていたあの牛が子供を産むヨって。息子達は驚いていたヨ。儂は息子達に言ってやったヨ。あの子の母親も肉牛に売らなきゃいけなナと話したら、最後の最後に頑張って子牛を産んだんだ。それがあの牛なんだヨ。そしてあれを産み落とした後、力尽きて死んでしまったんだヨ。肉牛として売られるより子牛を産んだ方がどんだけ我家の為になる?儂は息子達にそう言ってやった。息子達は、そりゃ子牛を産んでくれたら助かる立派なもんだって言った。あの牛も母親のように子牛を産んだら力尽きて死ぬかも知れないヨ。そうなったらあの牛は静かに眠らせてやろうと思う。儂がそう言ったら息子達は何も言わなかった。ムーンは昨夜、子牛を産んだ。ムーンは死ななかったが儂はムーンを肉牛として売ろうとは思わない。ゆっくり、のんびり残りの日々を送らせてやりたい。嬢ちゃん、嬢ちゃんのこの辺りは良い草が茂っているネ。ムーンがいくら食べても食べきれない程、美味しい草がたんとある。この辺にムーンを連れて来ていいかネ。なに、何の世話もいらないヨ。あの子は気持ちの優しいおとなしい牛だ。それにきっと、そう長くは生きていないだろう。儂も毎日見に来るが、この辺にいさせて貰うだけでいいんだヨ。」そう言いました。

ターミーがいつでも連れて来てと言うと、お爺さんが早速大きな牛を一頭連れて小川を渡って来ました。

そしてターミー達のいる所から後ろに少し離れた川べりの木々の葉で隠れて落ち着けそうな所に牛を連れて行って、暫らく牛に話しかけているようでした。

ターミーとママンはその様子をじっと見ていました。

それは大事な友達同士に見えました。

「ムーン、ここがこれからのお前の場所だヨ。美味しい草はたっぷりあるから。ここでのんびり暮らすんだヨ。ここにいればお前は肉牛に売られる事もないからネ。安心おし。儂も時々会いに来るからネ」とでも言っているのだろうか。

それからお爺さんは帰って来ると、安心したようにニッコリしました。

「じゃ、嬢ちゃん達、儂は行かなきゃならない。また来るからネ。」そう言うと帰って行きました。

ターミーと猫のママンは、木々の葉の陰にいて草を食べているムーンの側に行きました。

牛は成程背中から脇腹にかけた黒地に、はっきりと三日月のお月様のような模様がありました。

ターミーが、「ムーン。」と声を掛けると、ムーンは振り返ってこっちを見て、「モーッ」と鳴きました。


「ムーン、ここは大丈夫だからネ。お爺さんと私達以外は誰も知らない秘密の場所だからネ。安心していいヨ。」そう話しかけると、ムーンはもう一度“ありがとう”とでも言うように、「モーッ」と鳴きました。


それからはお爺さんはお昼時の他にも時間が出来ると顔を見せに来ました。

それは人間と牛というよりも大切な友達同士のように見えました。

お爺さんはそしてムーンのミルクを絞ってターミーにもママンにも飲ませ、自分も美味しそうに飲みました。

「ムーンはな、もう年寄りだから牛乳もそんなに出ないんじゃが、儂や嬢ちゃんにお礼をしようとこうして頑張ってミルクを出しているんじゃ。ムーン、ありがとうヨ。」そう声を掛けると、ムーンはその言葉が解るようにまた、「モーッ」と返事をしました。


そんなのんびりした安らかな日々が暫らく続きました。

でもある日、いつもちょくちょく顔を見せるお爺さんが来ませんでした。

次の日も来ませんでした。

その次の日も来ませんでした。

あのお爺さんが三日も顔を見せないのです。ターミーは心配でママンを抱いて幾度も向こう岸の方を見ました。

それからムーンの所へ行っては話しかけました。ムーンも淋しそうでした。

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