昔話 ターミーのために/第1話
やまの かなた
第1話
子供への愛情はその子を自分自身の体から産み落としたからというだけでなく、その子を腕に抱いて慈しみ大切に育てたかによるものだと思います。
例えば犬や猫、他の動物でも例えばもっと小さいものでも、毎日守り世話をしているうちに特別な感情が生まれて来ます。
この子の為にいつまでも健康でいよう。
この子を守り、この子の力になろう。
そういう気持ちは人間と人間だけでなく人間と動物の間にも湧いて来る感情です。
特に老いてから動物を飼っている人の気持ちはいかばかりでしょう。
自分がこの子より先に逝くような事があったら、この子はどうなるだろう。
人間より寿命の短い犬や猫でも先に逝かれるのは悲しく辛いけれど、それよりも自分の方が先に逝く事になればと思うと、後に残る愛犬や愛猫の事を考えてどれほど心配し心残りに思う事だろう。
人と人との別れだけでなく、いつも一緒にいて励まし励まされるそういう者達との別れは力の無い者ほど心残りがし、あきらめきれないものだろう。
その時に悔いが襲って来る事は確実だ。
何故、もっと健康でいなかったろう。
何故、あの時無理をしてしまったろう。
何故、もっと早くに医者に診てもらわなかったろう。
普段から些細な事にも気を付けていれば、こうして弱い者を残して逝く事はなかったのに。
そういう思いを抱いて逝く飼い主も多い事だろう。
そして私は幼い子供を残して先に逝く母親の気持ちを思う。
幼くして母親に先立たれる子供の心を思う。
そういう親達にこの昔話を贈りたい。
それに私はこうも思う。
私達は自分が生きているこの今だけが一つの人生だと思っているけれど、私達はもしかしたら違う次元でも生きているのかも知れないと。
大切な人を失った後の人の心は悲しく辛い。
そういう思いを抱いて生きて行くしかないのだけれども、違う次元では大切な人は失われず、それまでのように楽しく愉快な人生が存在しているのかも知れない。
あの時、こうでなかったらきっと変わらぬ人生が続いていたはず。
そんな場所がきっとあるはず。
大切な人が失われず生き続ける場所はきっとどこかにあるはず。
そういう夢のような希望でこの物語が進みました。
ターミーの為に
昔々、どこの国とも知れないある国のお話だと思って下さい。
死んで生まれ変わったら鳥になりたい。
そう願いが叶ったのか鳥になっていました。
気持ちよく空を飛び回りながら下を見下ろすと目に染みる緑の木々の森や広い野原や平原が見えました。
そこには羊や馬や牛の姿がポツポツ見えました。
どの羊もどの牛もどの馬も、野原や丘でのんびりと自由に草を食べています。
空は晴れ渡り、心地よい風が吹いています。上から見下ろすと幾筋かの川も見えました。
なだらかな丘の起伏の間を縫うように川は流れています。
その一本の流れの側に降りてみたい気持ちになりました。小川は涼し気な音を立てて流れています。
そのすぐ傍に一軒の白い家が見えました。
家の前は広い広い芝の庭、その庭と家を取り囲むように白樺や雑木が守るように森を作っています。
豪邸とはいえませんが館といった風情で、かなりしっかりとした造りの、それでいてその家に住む人を偲ばせるような上品で可愛らしさのある家です。
女性なら誰でも、あっいいな、こんな家にはどんな人が住んでいるのだろう?そう思ってしまうような家です。
そこには若い夫婦と生まれたばかりの女の赤ちゃんが住んでいました。
この若い夫婦が越して来たのはまだほんの一年前でした。
以前は街に住んでいたのですが、戦争が街を大分壊してしまって住む所がなく困っている所に、遠く離れた田舎で暮らしている若い妻の叔母さんが亡くなったという知らせがありました。
そして身内でただ一人残ったそのデイジーという若い妻がこの家を引き継ぐ事になりました。
デイジーの母親のお姉さんだった叔母さんは、とても美しい人で幸せな結婚をしたのですが、子供を小さい時に失くしてしかも夫にも先立たれてからは田舎のこの家に引っ込んで静かに暮らしていました。その事を可哀想に思ったデイジーのお母さんは自分の子供が生まれた時、お姉さんを慰める気持ちで自分の子供に亡くなった子の名前デイジーと名付けました。
そして、時々デイジーにとってこの家は懐かしくもあり思い出の家でもありました。
デイジーが成長してからは、そう度々田舎を訪ねる事は無くなっていました。
そのうちに空襲で街に住むデイジーの両親も亡くなってしまいました。
一人残されたデイジーはその時、叔母さんの事を思い出し田舎に訪ねて行きました。
でも、叔母さんは病気で大変弱っていました。
デイジーが枕元に近寄り、
「叔母さん、叔母さん、私です。デイジーです。」そう言うと、
「まあ、デイジー。デイジーなのネ。ああ、私のデイジー。こんなに素敵に成長して嬉しいワ。きっときっと貴女はどこにも行きはしない。すぐ近くで生きていて私の元に帰って来ると思っていたのよ。ええ、私は信じていましたヨ。貴女が死んだなんて、そんな事があるはずないって。まあ、私は悪い夢を見ていたのネ。長い長い悪い夢を見ていたのネ。でも良かった。デイジー、もっとしっかりママにお顔を見せて。ああ、良かった。私は幸せヨ。幸せでしたヨ。」
そう言うとまた、スーッと眠りに入って行きました。
お世話をしている女の人がデイジーを隣の部屋に連れて行くと気の毒そうに、「きっと貴女の事を自分の本当の娘だと思ってらっしゃるんですワ。ここずっと眠っている時間が長いんです。悲しい夢を見て涙を流したのかと思ったら、また楽しい夢を見ているのかとても良いお顔をなさったり。」そう言いました。
デイジーは叔母様に自分の両親が亡くなった事を話して慰めてもらいたかったのに。
叔母はそういう状態でしたからがっかりしました。
デイジーには結婚を約束した人がいました。靴を作っている工場の主任をしていましたが、若くてしっかりした人でした。
デイジーもその工場で働きながら、工場の一隅に住まわせてもらっていたのです。
町のいたる所は散々に壊されましたが、その靴工場は運よく無事でしたので、そこにある材料だけで数少ない社員が細々と靴をつくっていました。
デイジーが叔母さんの家に来て
いる間に戦争は終わりました。
叔母さんは眠ったままです。
時々目が覚めると、「デイジー、デイジー。」と呼びました。
デイジーが、「ここにいます。デイジーはここにいますヨ。」と言うと、
ああ、デイジー。私のデイジーと嬉しそうにしてまた、眠りに落ちて行くのでした。
デイジーは恋人の事が心配でした。戦争が終わったといってもあの後どうなったのか心配で、叔母さんをお世話する女の人に、「すみません、街へ行って来ます。どうなったのか心配ですから、叔母さんの事お願いします。」
そう言って街へ帰って行きました。
その間に叔母さんは息を引き取ったという事でした。
街はデイジーが田舎に帰る前よりもひどい状態になっていましたが、奇跡的に工場だけはかろうじて残っていました。
従業員も皆、ちりじりになる中で恋人のサムだけがたった二人残った従業員と三人で一生懸命働いていました。
ですからデイジーが帰っても眠るところも無く、大変な有様だったのです。
サムは、デイジーに田舎の叔母さんの所に帰るように言いました。
「こっちは大丈夫だから、もう少し落ち着くまでは君は向こうにいた方がいい。」そう言いました。
デイジーはまた、田舎の叔母さんの家に帰って来ました。
叔母さんは亡くなったばかりでした。デイジーはとても後悔しました。
最後の最後、自分が傍にいてあげなかった事を悔やみました。
でもお世話をしていた人が、「奥様はあれから一度も目をお覚ましにはなりませんでした。
たった一度、うわ言のように“デイジー”と呼びましたので、私が手を握って差し上げますと、とっても幸せそうなお顔をしてそのまま逝かれました。ですから、そう御自分をお責めにならないで下さい。」そう言ってくれました。
そういう時代でしたから、近所の人達数人が参列して無事叔母さんの葬儀を済ますと、それからデイジーはそこに住む事になりました。
あの大変な時に家も住む所も無くて困っている人の多い中で、デイジーは大変幸運だったと思います。
それにお世話をしてくれていたのが近所の農家のおかみさんだったので、それからも何かと野菜や食べ物を届けてくれるのがどんなに心強かった事か。
あの後、デイジーと恋人のサムは正式に結婚しましたが、サムは工場を立て直し仕事を軌道に乗せるのに大変でしたので、相変わらず工場の片隅で寝泊まりし、週末田舎のデイジーの所に帰って来るという生活をしていました。
あれから一年。
そうしてめでたく可愛らしい赤ちゃんが二人の間に生まれました。
女の赤ちゃんでした。
デイジーは満ち足りていました。夫のサムは相変わらず週末に田舎に帰って来ては翌日あわただしく街へ帰って行く生活をしていました。
街は少しずつ少しずつ、片付けられて行きましたが、まだまだ大変な状況だったのです。
でもサムは田舎に若い妻と生まれたばかりの赤子を置いて安心して工場の仕事に専念する事が出来ていたのでした。
「叔母様、ありがとう。
私達これからこの家に住んで叔母様の家を大切に守って行きますネ。」
デイジーは生まれた子供にターミーという名を付けました。それは亡くなった叔母様と同じ名前でした。
デイジーはターミーを抱いて改めて家の中を見て歩きながら、叔母様に話しかけました。
部屋の一つ一つのカーテンや置いてあるベッドや寝具に至るまで叔母様らしい上品な好みのしつらえがされていました。
デイジーもその趣味の良さに感心していました。
「ターミー?
あなたと同じお名前の叔母様はとっても素敵な方だったのヨ。」
二階から降りて来る階段の上の方に大きな絵が掛けられていました。
とても美しい女の人の肖像画でした。
若い時の叔母様かしら?
デイジーは何気にそう思いましたが、紫のそのドレスはどこか違う人のようにも見えました。暗い色の背景に紫のドレス、その人のお顔はこっちを見ているようでも焦点は違う所を見ているようで、どこか悲し気なようにも見えて仕方がありませんが、とても美しい絵でデイジーはこの絵を見れば見るほど気に入りました。
サムは元々は靴職人だったのですが、戦争が始まってからは人手が少なくなりいつか若いながらも主任になり、やがては工場長になって頑張っていました。
多くの男の人達が戦争に駆り出されたのにサムがそれを免れたのには、小さい時から片方の耳が聞こえなかったのと、働き盛りの男手が戦争に取られていなくなってしまったからです。その頃は年寄りの職人と女の人しか残っていなかったのです。
でも戦争は終わりました。
しかも奇跡的に工場が被災を免れたのは幸運だったとしか言いようがありませんでした。
デイジーが住み始めた館の近くには教会がありました。
デイジーとサムは日曜日の朝にはターミーを抱いてお祈りに行きました。
牧師様はとても優しくてターミーを見て、正に天から舞い降りて来た天使ですネ。ターミーという名前は素敵です。亡くなられたターミー夫人はそれは素敵な人でしたからネ。と心から祝福してくれました。
ターミーは健康にスクスク育って行きました。
平日は夫のサムのいない日々でしたが、近くの農家のおばさんがよく顔を出してくれました。おばさんは、「生前のターミー夫人はそれはそれは出来た方でしたヨ。心の優しい方でした。何か困った事があったら何でも言って下さいナ。」そう言って野菜等を置いて行ってくれました。
ですから、それがどんなに心強く助けられたか知れません。ターミーが三歳の時に母親のデイジーがちょっとした風邪を引きました。
幼いターミーに、お母さんはちょっと風邪を引いたみたいと言っている所にいつもの農家のおばさんが来てくれました。
ベッドに寝ているデイジーを見ると、「まあ、これは大変。」と言って医者を呼ぼうとしました。
デイジーは、「いいえ大丈夫です。体を温かくして休んでいれば直治ると思います。」
その時はすぐにも治りそうな気がしたのでした。
「そうかい?医者に診せなくて大丈夫かい?」
「ええ、ただ少しの間、ターミーの事を頼める人がいると助かるんですが。」
それを聞くと何か心当たりがあるのか農家のおかみさんは走ってどこかに行ってしまいました。
そして、すぐに一人の若い娘を連れて戻って来ました。
それはおばさんの姪で年は十八歳で、焼け跡の街から逃げ帰って来た後家でブラブラしているという事でした。健康そうな気持ちの良さそうな娘です。
モーリーという名前でした。ニコニコして愛嬌のある娘です。
ターミーの事も、可愛い可愛いと言ってよく世話をし遊んでもくれます。
デイジーは安心してターミーをモーリーに預け体を休める事が出来ました。
食事の世話は農家のおかみさんが持って来て、それをモーリーがベッドまで運んでくれました。モーリーは幼い頃から親の手伝いをして育ったせいか少しも大儀がらず家の中の事をしてくれます。
デイジーもいい人に出会えてよかったナと思いました。
週末に夫のサムが帰って来ました。
デイジーが風邪で寝込んでいるのを見ると、驚いて医者に診てもらったかと言いました。
「もう大分いいのよ。」デイジーはそう言ってサムを安心させました。
実際、夫の顔を見ると嬉しくて体の方まで元気が出て来て良くなったような気がしたのです。
そしてモーリーをサムに紹介するとサムもモーリーに感謝しました。
そしてモーリーが街での新しい仕事を探している事を知ると、
それならうちの会社で働いてみないか?戦争が終わって靴がどんどん売れて毎日忙しいが、人手が足りなくて困っている所だとサムは言い、給料の事や労働時間の事等をモーリーに話して聞かせました。
するとモーリーもサムの会社で働く事に気持ちが動いたようでした。
そんな様子を見て、デイジーもニコニコしていました。
帰って来たサムの顔を見たせいか、それとも風が治って来たのか、その頃には大分気分が良くなったような気がしました。
サムはモーリーに、「仕事は実際に現場の様子を見てから決めるといいヨ。いつ見に来る?」と聞きました。
モーリーはすぐにも見に行きたい気持ちでしたが、それでもデイジーの体の調子を気づかってデイジーの方を振り向きました。
デイジーはニッコリ笑って、「私なら大丈夫。大分良くなったみたい。」と答えました。
妻は今、仕事が大変な夫を思ってそう言いました。
実際その時は凄く気分が良くて自分でも大丈夫だと思ったのです。
それで次の朝、サムが街に帰る時モーリーも一緒に行き仕事場を見て来る事になりました。
その日も天気気が良くて、デイジーは頭が少しクラッとし、胸がほんの少し息苦しい事を除けば気分はとてもいいと自分に言い聞かせました。
久々の雲一つなく晴れ渡った朝に、デイジーはサムを送り出しました。
遠くを見渡せばなだらかな丘がどこまでも続いていて、その目に染みるような若い緑の草原に羊や馬や牛が草を食べています。
こののどかな暮らし。娘のターミーは家の周りを元気に走り回っています。
デイジーは、改めて生きている事を幸せに思いました。
ターミーは姿が暫らく見えないので、デイジーが少し心配になるとどこからかチョコチョコ戻って来て、「ママー。」と呼んでニッコリ笑い、またどこかに行ってしまいます。
デイジーがどこへ行くんだろう?と思っていると、また、「ママー。」と言っては帰って来ます。
「どこへ行ってたの?」と聞くと、“あっち”と言って、家の後ろにある木々の森の方を指さすのです。
「何かいるの?」
「猫ちゃんがいるの。」
「どんな猫?」
「白くってフワッフワしてるの。」
デイジーは笑いながら、「本当?」と聞くと、
ターミーはコクンと頷いて、「ターミーの事、じっと見てるの。」と言いました。
「そう?どこから来たのでしょうネ。」そう言いながらも、デイジーは自分がまだ子供の頃、叔母の家で真白な猫を見た事があるのを思い出しました。
けれど、それはずっとずっと以前の事です。とてもきれいな猫で離れた所からデイジーをじっと見ていた事を思い出しました。
「ターミー、ずっと昔、あなたの叔母様の所にも真白な猫がいたのヨ。でもその猫と同じ猫ではないでしょうネ。叔母様はとても可愛がって、そうそうママンて読んでいたわ。」
「猫なのにママンなの?まるで“お母さん”って呼んでいるみたい。」と小さなターミーが言いました。
「ええ、私もそう思って言った事があるワ。そしたら叔母さんは、そうよ、ママンは私のお母さんなのヨ。そう言っていたような気がするワ。」
デイジーは昔を思い出しながら、「あの時叔母さんは他にもいろいろお話したけど小さかった私は殆ど忘れてしまった。あの時の叔母様の事を思った。きっと大人になってもお婆さんになっても、心細い事や悲しい事はあってそういう時には猫のママンに慰めて貰っていたのではないかしら?猫ってホラ、じっと見ているでしょ?そうそう思い出したワ。叔母さんがママンに話しかけると、ママンは叔母さんの顔を見てあなたの気持ちよく解りますヨ。そういう目をするのよ。そう言って叔母さんは笑っていたワ。でもあれからもう二十年以上も経つから、あの時の猫が生きているはずはないでしょうネ。」
その日の夕方に急にデイジーの容態がおかしくなりました。
朝にはあんなに具合良さそうだったのにターミーが話しかけても答えてくれません。
とても具合が悪いのでしょう。ターミーは心配で心配で誰か来てくれないかと外に出て泣いていました。
すると虫が知らせたのでしょうか。農家のおばさんが様子を見に来てくれました。
「どうしたの?どうして泣いているの?」
「お母さんが苦しそう。ターミーが話しかけても返事をしてくれないの。」
おばさんは慌てて中に入り、デイジーのあまりの急変に外に走って行くと通りがかった人に何か頼んですぐに戻って来ました。
「もうじきお医者が来るからネ。安心してネ。」
やがてお医者様が来ました。
デイジーの熱を計ったり脈をみたり薬を飲ませたり注射をしたりしました。
いろんな事をしてほんの少し容態は落ち着きましたが農家のおばさんに向かって、
「こうなるまで、どうして放っておいたんですか?」と言っていました。
「本人が大したことない。すぐに治るというものですから。」と言うおばさんに、お医者様は苦々しそうな顔で、「こんなになる前に医者に診せていたら良かったのに…。後は神様に祈るだけです。」そう力無く言うと帰って行きました。
それからは農家のおばさんは付きっきりで看病してくれました。
幼いターミーにもお母さんの病気が重い事はよく解りましたから心配で心配でたまりません。
だってお母さんはとっても優しくてターミーが話しかけるとどんな時だって必ずターミーの目を見てニッコリ笑って返事をしてくれたのに、今は手を握っても力がなく苦しそうにしているだけなのです。
ターミーは悲しくて悲しくて、お母さんが死んだらどうしようと小さな胸を痛めて震えていました。
「神様、どうかお母さんを助けてください。私が代わりに病気になっても構いません。お母さんの病気を治してください。」
小さなターミーは一生懸命、一生懸命、お祈りをしました。
すると、庭の突き当りの森の所に白い物が見えました。
ターミーはその白い猫に向かって、
「おまえはママンなの?」と声を掛けました。
白い猫は離れた所からこちらをじっと見ている様子です。
「ママン?お前がママンなら私のお母さんを知っているでしょう?今、お母さんは病気なの。重い病気なの。どうしたらいい?」
その白い猫はターミーをじっと見つめていました。
ターミーは家の中から遠くにいる白い猫にずっと心の中で話しかけました。
次の日、連絡が行ったのかお父さんのサムは街から急いで駆けつけました。
サムはターミーをしっかり抱きしめてくれました。だからターミーは少し安心しました。
小さなターミーは、お父さんが来たからお母さんの病気はきっと治るに違いないと思いました。それにあの子守をしてくれたモーリーも一緒に来てターミーと一緒に遊んでくれました。
家の中は急に人の数が増えてターミーは少し安心しました。
ターミーはモーリーと他の部屋で遊んでいましたので解りませんでしたが、デイジーの容態はかなり悪かったのです。
お医者様はサムに、急性肺炎を起こしていてかなり危ない状態だと深刻な顔をして言いました。
父親のサムも他の大人達も幼いターミーになるべく知らせないように気を遣っているのかターミーがお母さんはと聞いても何かと理由をつけて会わせないようにしているのでした。
しかし熱にうなされていたデイジーが弱り切った状態で意識を取り戻した時、傍らの夫にまず最初にターミーの事を聞きました。
ですが夫は悲しい顔をしてターミーは元気にしているヨと言ったきりでした。
その悲し気な顔を見てデイジーは、「サム、私死ぬの?」と聞きました。
すると夫は無理に笑顔を作って、「死ぬものか!」と一言言って顔を背けました。
「ターミーに会いたい。ターミーに会わせて。」力の無い声で切実に頼まれて、ターミーは母親の枕元に呼ばれました。
「お母さん、病気良くなったの?」というターミー。幼いながらも心配し胸を痛めていたのでしょう。
デイジーは残された力を振り絞って、「ターミー許してネ。ママを許してネ。あなたを心から愛してるのヨ。ターミー、私の大切なターミー。」そう言って我が子を抱きしめると、全部の力を使い果たしたようにまた、意識を失ってしまいました。
そして、それからいくらも経たずにデイジーはこの世を旅立ってしまいました。
幼いターミーにとっては母親が亡くなって遠い所に行ってしまったという事は信じたくない事でした。泣いたら本当になってしまうような気がして泣かないようにしました。
でも大人達はそんなターミーを見て、まだ小さいから母親の死んだ事を理解してないんだヨとヒソヒソ話をしているのが耳に入って来ました。
でもターミーにはちゃんと解っていました。
ママはターミーを残して遠い所に行かなければならないから“ごめんネ”と言ったのだと。本当は行きたくないけれど病気だから死んでしまったのだという事も。でもそんな事信じたくない。そういう気持ちでした。
ターミーの心の中は本当は大人以上に真黒な雲に覆われて少しの隙間のないぐらい悲しみ、苦しみ不安でいっぱいでしたが、でもどうする事も出来ませんでした。
誰かが気を遣ってお菓子をくれました。本当は食べたくないのに無理に食べたりしました。
葬式が済んで何日か過ぎると、何人かの大人達が相談して話し合いされたのか、パパのサムがターミーにこう話しました。
「ターミー、パパはいつまでもターミーの側にいたいけれど仕事に行かなければならないんだ。週末に帰って来るからその間、モーリーとお留守番出来るかい?」
サムは悲しそうな目でターミーをのぞき込むようにして聞きました。
デイジーが亡くなって悲しいのはサムだって同じなのです。
ターミーに他に選択肢があるでしょうか?
普段からお父さんはお仕事で忙しいからお留守番をして待っていましょうねと母親のデイジーから言われて来たターミーです。
モーリーと一緒じゃ淋しいからイヤだなんて言えやしません。
小さい子供でもそういう気遣いはするのです。小さくコクリと頷くとサムはホッと安心したようにターミーを強く抱きしめました。
そしてモーリーに向かって、後の事を宜しくお願いしますと頼むと街の仕事場に帰って行きました。
結局、事情が変わったのでモーリーは街のサムの会社で働くつもりが、会社で働くお給料を支払うからとサムに頼まれてターミーの子守と世話をしてここの家にいる事になりました。
モーリーはターミーに優しくしてくれました。
母親を突然亡くした幼い子供。同情心もあり、元々がこの近所の娘なのでモーリーにとっても条件は悪くなかったのでしょう。
家の中の掃除や洗濯、それとターミーと自分の食事の支度等が仕事です。
ターミーにとってはモーリーは母親のデイジーと同じように思いっきり甘える事の出来ない他人です。淋しかったけれど、モーリーが一生懸命話しかけたり遊んでくれようと気を遣ってくれるのが解るので我慢していました。
一緒に遊んだり、お絵描きをしたり。でもデイジーの時のように心から楽しい気持ちにはなれませんでした。
以前はあんなに何もかも明るく見えたのにターミーの心の中はいつもどんより曇っていて、何かのきっかけがあったら、すぐにも涙の雨が降りそうなそんな雨雲のようだったのです。でもターミーは精一杯我慢していました。
週末にサムが帰って来ました。
「どう?ターミーは元気にやっている?」モーリーに聞く声がします。
「ええ。普通に遊んでいますワ。でも、ターミーはおとなしいですネ。元気に飛び回ったりキャーキャーはしゃいだりしません。」
「そりゃ母親がいなくなったんだ。急には元気が出ないだろう。それにターミーは元々おとなしい子供なんだヨ。これからもよろしく頼むヨ。」
サムは週末を過ごすとまた、街へ帰って行きました。
そしてまた、モーリーとの二人の生活が始まります。
そういう生活が一ヶ月経ち、半年経ち、一年経ちました。
デイジーがいなくなって一年も経つと悲しみが消え去った訳ではありませんが、幼いターミーでもデイジーの事を胸の奥のずっと奥の大事な所にしまっておく事が出来るようになりました。
ターミーはもう赤ちゃんっぽい幼さは抜け、自分の頭で何でも考える口数少ない子供になっていました。
そんなある日、父親のサムがターミーと二人っきりになると、「ターミー、モーリーの事どう思う?モーリーの事は好きかい?」と聞きました。
毎日一緒にいてくれるお姉さんです。ターミーのお世話をしてくれる人です。
何故そんな事を聞くのだろう?そう思っていると、「モーリーの事は好きかい?」ともう一度聞きました。
ターミーはコクンと頷きました。するとサムは安心したようにニッコリ笑って、「モーリーにターミーの新しいお母さんになってくれないかお願いしたんだけれどいいかい?」と言うのです。
ターミーは心の中で、何故?どうして?と思いました。
お母さんはデイジー一人だけよ。おとうさんはどうしてそんな事を言うの?そう心の中で叫んでいましたが、必死にお願いをするようなサムの目を見て嫌だとは言えませんでした。
ターミーは仕方なくまた、コクンと頷きました。
サムはほっとしたような顔をして、「ありがとう、ターミー。」と言ってターミーを強く抱きしめました。
でもターミーは父親に抱きしめられても前のように温かい気持ちになれませんでした。
これからどうなるのか子供の頭では難しい事は解らないけれど、もう前のあの日には戻れないような悲しい気持ちになりました。
デイジーがいたあの温かい日はずっと遠くに行ってしまってもう戻って来ないのだと思いました。
そしてその後、サムとモーリーは結婚しました。
式に駆け付けた大人達は、「ああ良かった。サム良かったナ。これで安心だ。何と言ったってモーリーはターミーを大事にしてくれる。」そう一人が言うと、「モーリーは小さい頃から気立ての良い娘だったんだヨ。」そう言って誰もがこの結婚を祝福しました。
モーリーは使用人からこの家の奥さんになりました。
モーリーは奥さんになると急にそれらしく振る舞うようになりました。
家の中の調度も次から次に自分好みに模様替えするのに忙しく、そしてどんどん部屋の様子が変わって行きました。
ターミーにとっては淋しい気持ちでした。
なぜなら、階段の所にかけてあった大叔母様が若い頃の肖像画が取り外されて無くなってしまったからです。それはとても美しい女の人でデイジーがとても好きな画でした。
「これは叔母様の若い頃かしら?それとも違う方かしら?叔母様が亡くなってしまった今では聞きようもないけれど、とっても素敵な方でしょう?ターミーあなたはいつかきっとこの女性のような素敵な人になってネ。」
そんな会話をしながら見上げた絵です。
デイジーが気に入って大切にしていたものがどんどん片付けられて物置に運ばれました。
そしてモーリーはサムのいない時は自分の友達を呼んでよくお茶会をするようになりました。
お茶会に呼ばれた女友達は、「モーリー、それにしてもこんなお屋敷の奥様になるなんて出世したわネ。うらやましいワ。」と言う人もいれば、「子供付きでなければ文句なしなんだけどネ。」と言う友人もいます。
早くに結婚して子供がいる一人が、「モーリー、子供なんて大変なものヨ。可愛い時もたまにはあるけれどネ。子供は天使なんて言うけれど、今の私にとっては世話を焼かす悪魔だネ。」と言った後、「モーリーはもう十分承知だったネ。でもあの子は手がかからない子供のようじゃないの。」と少し離れた所で大人しく遊ぶターミーを見て好き勝手なおしゃべりをしています。
「だけど、どんなに手がかかっても自分のお腹から生まれる子の可愛さとは違うからネ。モーリーもこんないい所の奥様におさまったんだ、少しは我慢しないとネ。」等々、おさなじみのこの辺の友達だもの言いたい放題言って帰るのでした。
離れた所で遊びに夢中になっているらしい幼い子供に耳には入らないだろう。例え入ったとしても意味等解るはずがないと高を括っている話しぶりでしたが、ターミーの心の中にはその会話は冷たい風のように沁みるものでした。
それから少しすると、モーリーは時々体具合が悪いのかいつも不機嫌な顔をするようになりました。お茶の会も自然にする事がなくなりました。
朝、ターミーの髪をとかす時も昔のように優しくはなくて、痛い!と声を出しそうになるほど力を入れて乱暴にとかす事がありました。
それでもターミーは我慢していました。
モーリーは今までのようにするべき事ややってくれていましたから、家の中の掃除、洗濯、ターミーの身なりも人様から見て後ろ指さされないようにやっているようでした。
でもターミーの心の中に、乱暴な扱いをされた後には棘のようなものが刺さったままでした。モーリーは前のようにターミーに優しく話しかける事がなくなりました。
ターミーも前よりも一層無口な女の子になりました。
でもモーリーはサムが帰って来ると急に嬉しそうにニコニコしてターミーにも優しい素振りを示しました。
ターミーはそれを敏感に感じ取っていました。だからお天気の良い日には家の中にいるのが息苦しくて広い庭に出るのでした。
淋しい!悲しい!デイジーはもういない。いつまでもデイジーの事を思い出すのはモーリーにも悪いような気もするけれど、一人になるとおぼろになりかけでたデイジーの面影がターミーの周りを優しく包んでくれてターミーは思わず泣きたくなってしまうのでした。
駄目だ!駄目だ!泣いたら駄目だ!どうして泣いているのかモーリーに解ってしまう。
その時もターミーは精一杯頑張って泣くのを我慢したのです。
そんなターミーの目には庭の緑は鮮やかにしみました。
ターミーは短い芝を踏んで森の方へ向かって歩いて行きました。
森の木々の中にいたらこのやりきれない気持ちもいくらかは救われるような気がしたからです。
すると行く手の木々の間に何か白い物が動いたような気がしました。
何かいる、間違いない。
好奇心に誘われてターミーは森の中に入って行きました。
やっぱりいました。真白い猫が振り向いてこっちを見ているのでした。
いつか見たあの猫だ!
ターミーはそっと近づいて行きました。真白いフワフワの目の青い猫が逃げずにこっちをじっと見ていました。
ターミーは胸がドキドキしました。ターミーは恐る恐る声を掛けてみました。
「ネコさん、あなたはどこに住んでいるの?まさか、この森の中に住んでいるのじゃないでしょうネ。本当のおうちはどこなの?」
すぐ近くまで行っても逃げませんでした。
まるで撫でてもいいヨという風に背中を向けたままじっとしていました。
ターミーはその背中にそっと触れてみました。
真白いフワッとした毛並みがとってもきれいで野良猫には見えません。
「私の名前はターミーって言うのヨ。あなたの名前は何て言うの?」と話しかけてもじっとこっちを見るばかりです。
「亡くなったお母さんが言っていたママンというのはあなたの事じゃない?」ターミーがそう言うと、白い猫は初めてゴロゴロと喉を鳴らしました。
「そうなの?でも亡くなったお母さんが子供だった時の猫なら随分長生きなのネ。今日からあなたをママンと呼んでいい?」
するとまた、ゴロゴロと喉を鳴らしました。
「ママン、今日から私の友達になってくれる?」
ターミーはママンをそっと抱き上げました。
ママンはされるままになっていました。ターミーの腕の中でゴロゴロと気持ち良さそうにしているばかりでした。
ママンを抱いてそのフワフワの毛の中に顔をうずめると陽だまりの良い匂いがしました。ターミーは暫くぶりにあったかい気持ちになりました。
デイジーが生きていた頃のあの明るくてあったかい幸せな気持ちになれました。
今まで黒い雲で覆われていた胸の中が晴れて気持ちの良い風が流れて来たような気がしました。
ターミーは嬉しくて木漏れ日の射す草原でママンと一緒に過ごしました。
こんな安らかな気持ちになれたのはとても暫らくぶりでした。
だけれどもお日様が傾いて来ましたのでママンとはお別れをしなければなりませんでした。
「ママン、またここで会いましょうネ。きっときっと会いましょうネ。」
ママンの青い目はターミーをいつまでも見ていました。
ターミーが帰りながら振り向くと、相変わらずママンはこっちを見ていました。
ママンとはこれからもまた会えそうな気がしました。
家に帰って来た時もターミーの顔が明るかったのでモーリーは妙な気持ちになりました。
今朝はいつになくムシャクシャしてターミーの髪をとかす時腹立ち紛れに。自分でも乱暴にした事を覚えていたからです。それなのにこの子は何も無かったような顔をしている何故なのだろうと思いました。
次の日もモーリーは体調がすぐれずイライラしていました。
何故私は自分の生んだ子でもないこの子の世話をしなけりゃならないんだろう?ああ、イヤダイヤダ。そう思うとついグイグイ力を入れて髪をとかしてしまうのでした。
ターミーはどんなに乱暴にされてもただ下を向いて耐えていました。
そういう様子もまたしゃくに触るのです。モーリーはリボンを結ぶ時、これでもか!というように思いっきり強くひっつめてギューッと縛りました。それでもターミーは一言も何も言わずに我慢して終わると家を出て庭を通り、森へ向かって行きました。
その後ろ姿を見ながらモーリーは、自分の体調がすぐれない事もあって、あーあこれからもこんな日が永遠に長く続くのだろうかと思いました。
ターミーは強く引っ張られて縛られたリボンが痛いのを我慢して森の中に入って行きました。
やっぱり、白猫のママンはターミーを待っていてくれました。
ママンを見ると嬉しいのと安心とでターミーの目からは思わずポロポロと涙が溢れました。でもそばに近寄ってママンを抱き上げて、そのフワフワの体に顔を押し当てていると、まるでお母さんの膝に顔を埋めているような幸せな気持ちになりましたが、涙は止まりませんでした。
ターミーは暫らくそうして泣いていましたが、ママンの体からはゴロゴロ、ゴロゴロと音がしました。
「まあ、許しておやり。」とママンが言いました。
それは体から出るゴロゴロの音に紛れてターミーの心の中に伝わって来ました。
それがあまりにも自然な事なのでターミーは驚きもせずにママンの言葉に耳を傾けました。
「モーリーはまあ並の人間だからネ。イライラしたり体がだるかったりするとついその怒りのはけ口をどこかに向けちゃうんだろうヨ・まあ、それが並の人間にはよくある事だヨ。今は諦めて許してやるよりしょうがないネ。」
ママンにそう言われるとターミーはモーリーのあのイライラした怒り顔を思い浮かべました。それを許す事なんて出来そうにありませんでした。
するとまたゴロゴロが、「以前は優しくしてくれた事もあるんだろ?」と言っているようでした。
ターミーがコクンと頷くと、「それじゃ、まるっきり悪い人間という訳でもないか。並の人間というのはネ、自分の気分やわがままに支配されるものなんだヨ。それにモーリーはまだ二十歳そこそこだ。それじゃ期待しないではなっから諦めて覚悟を決める事が肝心だネ。」ママンは簡単にそう言いましたが、ターミーはこれからの長い先々を思うと途端に悲しくなってまた泣きそうになりました。
するとママンが、「いいかい?ここからが大事なんだヨ。ターミーは大人になったらどんな人になりたいかい?モーリーのような大人かい?それとも亡くなったデイジーのような大人かい?もしもデイジーのように心優しい人になりたかったら、これからは自分がされて嫌だナーと思う事はよーく覚えていてターミーが大人になった時はしちゃいけないヨ。自分がされて嬉しいナと思う事をするんだヨ。」とママンは言いました。
ターミーはそう言われると心優しかった母親のデイジーならどんな子供に対しても冷たい意地悪な事はしないだろうと思いました。
ターミーは絶対モーリーではなくデイジーのような大人になりたいと思いました。
「ターミー、この世の中にはネ、いろんな人がいるんだヨ。良い人、悪い人、わがままな人、どんなに辛い目にあっても美しい心を持ち続ける人。それとは逆に人が悲しんだり苦しんだりするのを見て喜ぶ人。いろいろいるんだヨ。そういういろんな人を神様がお造りになったのには何か意味があるんだろうサ。私にもよく解らないけどネ。」
そう独り言のように言ってからママンはまた、「ターミー、おまえはきっと賢い子に違いないヨ。私のことばが聞こえるのだからネ。それならサ、これからは前向きに考えて生きてみようじゃないか。いいかい?モーリーの事は何度も思い出して恨んだり憎んだりしてはいけないヨ。ターミーの心までイヤーな心になってしまうからネ。嫌な人の事はなるべく考えないようにするんだヨ。」と言いました。
ママンの言う事は難しいナーとターミーは思いました。家に帰ればどうしたってモーリーと二人っきりになります。あのイライラした恐い顔が待っているのです。
それを察したのか、「ターミー、今度はいい所に連れて行ってあげよう。明日の楽しみにしておこうネ。」
ママンはそう言って青いきれいな目でターミーをじっと見ました。
ターミーは明日もママンに会える。そしてどこかいい所に行けると思うと楽しみが一つ出来ました。そしてほんの少し、そっと笑いました。
次の朝もモーリーはイライラ起こった恐い目をしていました。
ターミーは自分の神をとかして貰うのが怖くて嫌なのでモーリーにしてもらう前に自分でとかし始めました。
でもまだ小さいのでうまく出来ません。
髪は櫛でとかせても上手く結んでリボンをつけられません。
モーリーはその様子を見るとツカツカ近寄って来てターミーから櫛を奪うように取ると、思いっきりガリガリ力を入れて髪をとかしました。
ターミーは昨日の白猫のママンの言葉を思い出して覚悟して諦めるより他ないかと思いました。
だけど思いっきり強く髪の毛を引っ張られてリボン結びされた時は、あんまりにも痛くて我慢していたのにポロリと涙がこぼれてしまいました。
ターミーはそれに自分でも驚いたのですが出てしまった涙は止められませんでした。
来ている服の膝の上にポトポト涙が落ちました。
ターミーは泣き声を出さずに黙っていたからモーリーは気が付かなかったかもしれません。
ターミーは涙を見られないように背中を向けたまま立ち上がると外に出て、あの白猫のママンの待っている森の中に歩いて行きました。
モーリーは気がついたかしら?だってあんまり痛かったのだもの。
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