第137話 やはり、先輩に出会ってよかった。

「はあ…」


 空港から出た北海道の天気は寒くて、白い息が出ていた。

 12月、期末テストは先輩のおかげでなんとなく留年になるのは免れた。今日は先輩と一緒に温泉旅行に行く日、俺たちは空港の入り口から母が迎えに来るのを待っていた。


「春日。」

「うん?」

「脚、寒くない?」


 アイボリー色のチェスターコートに黒いミニワンピースを着て、俺に見せつけるような長い脚は黒いストッキングを履いていた。気温がかなり下がっていて、風邪を引くかもしれないと言う言い訳で後ろから先輩を抱きしめる。


「寒くない、だってこうなるからー」

「バカ…」

「暖かいー」

「あ、来た。」


 車の窓から腕を出した母は手を振りながら空港の前に車を止めた。


「よーっ。」

「こんにちは!今日はよろしくお願いしますー」

「はいーさっさと行きましょう!」


 久しぶりに見る母の顔、元気そうで一安心した。むしろそっちの方が楽しんでるみたいな顔をして…バックミラーに顔が映ってるよ。


「なんか遅かったな。」

「下準備に時間がかかっちゃってね。」

「そう…あ。」


 そうだ…先輩に混浴って言うのを忘れた。


「二人きりの場所を作っておいたから、キャーお母さんドキドキしちゃうー」

「…なんでだ。」

「ねね、ハルー。今日の旅館って二人で過ごすの?」

「うん、お母さんがそうだって。本館以外に予約制の別館があるからそこで過ごす。」

「へえーそうなんだ。」


「そう、春木。」

「うん。」

「春日ちゃんに混浴って伝えた?」

「…まぁ。」


 調子に乗って浮かれていたから…先輩に話したのはオッケーしか覚えてない。隣にいる先輩が気になって、じっとしているその横顔をちらっと見たら下を向いて頬を染めていた。


「…はい。」


 小さい声で答える先輩。

 すみません…わざわざそんな答えをさせて…


 その顔を見ていたら俺も恥ずかしくなって、旅館に着く前には密かに手を繋いでいるだけだった。約20分くらいの静寂が流れる暖かい車の中、手をぎゅっと握る先輩がすやすやと寝ていた。


 窓側は固くて涼しいから先輩のそばにくっついて、頭を俺の肩に乗せた。その状況をバックミラーで見ていた母が一人でほほ笑んでいる。


「あらー青春だねー」

「うるさい…」

「旅館が遠くてよかったね?くっつくのができてー!」

「運転に集中しろ…」

「はいはい、もうすぐだからー」


 そしてしばらく窓の外を眺めたらうちの旅館が見えてきた。山の奥に位置する旅館は冬の景色と温泉をともに楽しむ観光客が多い、だから母が管理する本館は客ですごく混んでいる。


 そこから歩いて10分くらいの距離に別館がある。ここに来るのは何年ぶりかな、なんか懐かしい気がしてぼーっとして別館が見える景色を眺めた。本館と違って別館は人がほとんどいないし、それより景色の美しさも別館の方がもっと上だ。


「はい、着いたよ。」

「春日、起きて。」

「ううん…寝落ちた…」

「着いたよー荷物は俺が持って行くからさっきお母さんと行って。」

「ありがとう…ハル。ここ綺麗…!」

「はい、行きましょうー」

「はい!」


 白い息が出る山奥の旅館…俺は日が暮れる空を眺めながら荷物を持って別館の中に入った。別館の空気はいつになっても懐かしい、木材の匂いが昔のことを思い出させてくれる。この山を全力で走ってたよな…本当に懐かしい。


 そして和室の扉を開けたらウキウキする先輩が外の景色を眺めていた。


「ハルー!ここ!すっごく綺麗だよ!」

「うん、冬の景色は好き?」

「うん!この和室も好きだよーハルーありがとう。」


 俺に飛び込んで笑う先輩が可愛い。


「ハル!温泉に入りたい!」

「そうだね。もう日も暮れたし、でも混浴なんだけど…」

「別に…恥ずかしくないし…」


 ギューして胸に顔を埋める先輩、しばらくじっとしていて俺も動かなかった。先輩はこうやってくっついていると、ふかふかして暖かいから気持ちがいいって言ってた。だからたまにじっとして抱きつくかもしれない、安心になるから。


 そうやってくっついている時、扉を開けて浴衣とタオルなどを持って来る母にまたこの姿を見られてしまった。


「あら…いいとこ邪魔しちゃった…?仲がいいね。」

「…」


 恥ずかしくて何も言えない。


「ここに置いておくから、すぐ入るよね?」

「うん…」

「じゃあ、もう邪魔しないから…あ!そうだ。春木こっち来て。」

「なんだ。」


 耳打ちでこそこそ何か言う母。


「避妊はちゃんとして…」

「おい!本館に戻れー!」

「はいー」


 本館に戻るさつき、そして首を傾げる春日とその春日を見て頬を染める春木。


「ハルー行こう。」

「うん。」


 母が用意してくれたものを持って露天風呂に向かう、そして今更母の言葉が気になって頭が複雑だ。服、脱がないと入られないんだよな…それって先輩と一緒に脱ぐってことだろう…


 いけない、何を緊張してるんだ。これは全部母のせいだ…余計に気になる…!


「あの、先に入って…俺、後で入るから…」

「え?なんで?一緒に脱ごうよ。」

「え…?」


『避妊はちゃんとしてー』、先輩の声が響く脱衣場で母の声がかすかに聞こえる。幻聴?マジで…これ何…?俺、すごく意識してるってこと…?

 うじうじしてる間に服を脱いだ先輩が下着姿で俺の服を脱がせる。団子頭をして白い肌を見せる先輩がセーターとズボンを脱がせて、肌を触りながら話した。


「何ぼーっとしてるの?」

「なんか恥ずかしくて…」

「私もだよ…早く脱いで…」

「うん…」


 服を脱いで下にタオルを巻いたら腹筋を触る先輩が軽く口づけをする。


「ハルの裸…かっこいい…」

「…う、うん。ありがとう…」


 そして俺の前で下着を脱いだ先輩が恥ずかしがる顔をして、綺麗な裸にタオルを巻いた。

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