第136話 終わりへ。−4
「面白かったー!」
「うん。」
そう言えばもう午後だよな…時間が速い…
「そうだ!美也が言ってたよね?」
「あ、写真のこと?」
「うん。」
「どー?一緒に写真撮ろう!」
「うん、いいよー」
コスプレ部の前に着いて、先輩が七瀬先輩に話をかける。
「美也ー」
先とは違って部室の真ん中が変わった気がする、白い布と高価のカメラが俺たちを待っていた。
「春日?待ってたよー」
「写真撮ろう!」
「準備はできてるから、そこに立ってポーズとか考えたら?」
「うん。」
ポーズ…って言われても女の子と写真を撮るのは初めてなんだ。ぼーっとして先輩を見つめるだけで、俺なりに考えてみてもそれっぽいポーズは思い出せなかった。
「はいー!ちょっと裏を片付けて来た。ポーズは決めた?」
「まだ…」
「うん!!」
「そう?そこに並んでー」
もう考えたのか…さすが先輩。
「準備が終わったら言ってね。」
そしてそばに立っている先輩が俺に声をかけた。
「ハルー私を見て。」
「こうして前に立てばいいんですか?」
「そして両手で私の腰を掴んで。」
「うん。」
あれ…?
「最後は私がハルの肩に両手を乗せてつま先立ちする!」
これって…いつもの口づけをする直前の姿勢じゃない…?先輩の大きな目と俺の目が合って、分からない緊張感が感じられる1枚目。
俺は目を逸らさなかった。先輩の綺麗な瞳と可愛い笑顔に応えるため、俺も先輩と目を合わせて幸せな笑顔を作った。
「うわー!くっそリア充…」
「どー?綺麗に撮れた?」
「うん…」
「次もお願いしますー」
「うん…このリア充。」
なんか七瀬先輩、泣き出しそうな顔してる…
「次のポーズは!えへっー!私が前に立って、ハルが後ろから私を抱きしめるのを撮りまーす!」
「やめろー!それ以上はソロの私にはきついんだよ!」
「まぁーまぁーそう言わずにーへへへ。」
怖い女…武藤春日…
「はい!ハルー後ろから私を抱きしめてー」
「大声…出さないでください…恥ずかしいから…」
「全く同感だよ…春木…」
後ろから先輩の細い体を抱きしめて撮る2枚目の写真、くっついている時に先輩の髪からいい匂いがした。いつも感じるこの温もりは気持ちいい…そのまま目を閉じて先輩の肩に頭を乗せた。
「そこには花束がいいかもー!」
と、七瀬先輩の隣で見ていた部員がコスプレ用の花束を先輩に渡した。
「綺麗ー!ありがとう!」
花束を持って後ろから俺が抱きしめる、そして七瀬先輩から殺されるかもしれない完璧な写真が撮れた。
「…吉岡。」
「いい絵ですね?先輩。羨ましいなー」
「知らない!」
「2枚目も綺麗に撮れた?」
「うん…」
「じゃーばんばん行こう!」
「確かに3枚撮るんだって…」
「そう!」
「まだ1枚残っているのかよ…」
こっちに戻ってきた先輩が俺を見つめる。何か言いたいことがありそうな顔をして、俺を見上げる先輩は何も言わずにうじうじしていた。
「どうしたんです?」
「うん…最後の1枚のことで…」
「最後の1枚って、あーポーズのことですか?」
「うん、ちょっと無理させちゃうかも…」
「どんなポーズ?」
「お姫様抱っこ…されたい。」
俺の袖を掴んで頬を染める先輩、今まで撮った写真の中で多分これを一番期待してたよな。
「いいよ。」
「本当?やってくれるの?」
「うん。」
「体…大丈夫?無理だったらやらなくてもいいから…」
「平気。」
前で待っている七瀬先輩がカメラのアングル調整して話をかけた。
「春日、まだ?」
「今!撮るよ!」
「最後の1枚はどんなくそポーズをするかな…楽しみだ…」
「フフフッ。」
一人でぶつぶつ言う美也を見て笑う、後輩。
「じゃー行きまーす!」
「…」
「ハル!行こう!」
「はいー!」
俺の膝に先輩を座らせる。
そして太ももの下側と腰に手を添えて、つま先に力を入れて…一気に立つ!
「キャー!」
下を見た先輩がすごい顔で俺を見つめている、そう言えば俺…先輩にお姫様抱っこしたことなかったっけ。
俺の首に腕を回した先輩の顔が真っ赤だ…
「そんな顔をしたら…俺も恥ずかしくなりますよ…」
「と、撮ろう…!」
幸せな笑顔で俺にお姫様抱っこされている先輩はカメラに照れる顔を見せながら手でVサインをした。やはり写真、撮りに来てよかったと思う、この思い出は永遠に心に残るだろう。
この状況を前から見ている美也の頬にはなぜか涙が流れていた。床に落ちる一滴の涙とともにシャッターを切る、そしてほほ笑む。
「先輩…」
「いい絵だ…春日の幸せな顔が見られてよかった。」
「母…?」
ゆっくり先輩を床に下ろして七瀬先輩が撮ってくれた写真を確認する。
「ハル、重くなかった?」
「全然?軽くて平気ですよ。」
「写真、綺麗に撮れたよね。」
「はい。」
どの写真も先輩が綺麗に写っていた。その後、七瀬先輩からプリントした写真をもらってお互い1枚ずつ分け合った。最高の思い出になるこの写真は死ぬ時まで大事にするから、文化祭が終わったらはっきり言う。
…そして長い文化祭の終わりを告げる時が来た。
解散した生徒たちはそれぞれの片付けを始め、にぎやかだった時間はあっという間に経ってしまった。にぎやかな雰囲気がなくなった学校は以前と同じだった。静かでそれぞれが自分のやることを頑張っているそんな学校、いいんだよな。
そして俺は初めて学校に来た時と同じ夕日を迎えた。
廊下を歩きながら外の夕日を眺めた俺は今までのことを思い出して、先輩にメールを送った。
『うん、生徒会室で待ってる!』
二人きりの生徒会室で先輩は机の片付けをしていた。
「ごめん…なんか書類とかが多くて…」
「春日!俺…言いたいことがある!」
「…うん?あ、そうよね?」
片付けをやめて俺の前に立ち止まる先輩と目を合わせた。
「…期末が終わったら!一緒に温泉旅行…行かない?」
「温泉旅行?」
「うん、北海道にいるお母さんから一緒に来いって言われたから。どう?」
「本当?行く行く!」
「よかった。そして…」
言うんだ…
「うん?」
「いや、この話は…旅行に行ってからする。大事な話だから…そして…渡す…じゃない!12月だから!いつ行けるのかメールして!じゃーそろそろ戻る!」
「う、うん?うん。」
慌てて何を言ったか分からないほど…緊張した。緊張して、緊張して…言いたいことを後回しにしてしまった。それは先輩に負担をかけるかもしれない、でも今まで言ってなかった気持ちだから先輩と一緒にいるうちにスッキリしたい、今日は楽しいことばっかりあったからタイミングが合わないんだ。
また、機会はある。
一人で生徒会室に残された春日はなんとなく春木の気持ちを分かりそうな顔をしている。自分の胸に手を置いてドキドキする鼓動を感じる春日が椅子に座って一人で話した。
「ハル…本当に好き…ニノさんにあげた指輪は旅行でくれるのかな…」
目を閉じて足をバタバタする春日はぼーっとして天井を眺めた。真っ赤になる顔と落ち着かない気持ち、頭の中には春木でいっぱいだった。
「私も言わなきゃ…」
——————
次、ラストエピソードです。
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