第135話 終わりへ。−3
うん、先輩と一緒に文化祭を見回るのは本当に嬉しい…けど。
「春日、その格好は…」
「この服どー?うちのクラスでメイド喫茶やってるの。」
「その格好…可愛い…好き…」
だんだん小さくなる声で話した。
「へえ?何言った?聞こえないー」
「可愛い…よ。」
外は涼しいのに体だけ熱くなるのはなぜだ。
「私にチューしたい?」
「外じゃ見られるから…我慢して。」
「はいはーい。」
猫耳とメイド服、先輩にめっちゃ似合う…
長い黒髪と純粋な顔がとても可愛くて、つい目を逸らしてしまう。それでもこっそり手を繋いで、先輩と歩き回る。人が多い場所で先輩と一緒に歩くのは付き合ってから初めてかな、なんかすごくドキドキして世界がバラ色に見える。
「ねね、ハルも他の服、着てみる?」
「他の服?」
「美也が部活でコスプレをやってるからー」
「七瀬先輩が…?」
前にあった色んなことを思い出しながら少し想像したけど、やはり似合うよな。なんか七瀬先輩とめっちゃ似合う…それより七瀬先輩ってそんなの好きだったんだ。
「私はハルに執事のコスプレをしてもらう!」
「え?うん…」
そしてすぐ1階にあるコスプレ部に連れて来た先輩が七瀬先輩を呼ぶ。
「美也ー!」
「春日?どうした?」
「ハルに執事のコスプレしてくれない?」
「へえーそんなことかー分かった!」
「お願いしますー!」
「任せて!」
サイズのチェックをしてるのか、なんか変な目に体を睨まれてる気がするけど…七瀬先輩。この人はまだ苦手だ…
「ちょうどいい!こっち来て!」
「はい…」
「うちの部員が試しに作ったけど、誰も着ないから春木くんにピッタリかも?」
「え…ありがとうございます。」
二人きりの空間、体のサイズを細かく計って、俺にメイクをしてくれる七瀬先輩が突然笑い始めた。
「はははっ。」
「なんで笑うんです…」
「いや、今日ね。開会式が終わった後、すぐうちに来たんだよ?」
「それって武藤先輩の話ですか?」
「そうだよー春日のその顔は初めてみた。『美也!私、今日可愛いかな?』とか『今日ね、ハルと一緒に文化祭を回るんだーだから髪もちょっとみてみて!これでいいの?』『この服…可愛いと言ってくれるかな?』って可愛すぎでしょう?」
「はい…」
「こんなイケメンを春日に取られちゃって惜しいねー」
「…え。」
「でも…よかった。あの子の彼氏が春木で…うちのバカ会長を頼むよ。」
「はい。」
「はい!これでよっし!あそこに試着室あるから着てみて。」
「はい、ありがとうございます。」
試着室の前に来たけど、なぜか服がない…
「こっちじゃないのか…っ…!」
ぼやぼやしている春木の声を聞いた春日が試着室のカーテンから密かに手を伸ばして春木の腕を引っ張る。
「シーッ!」
「春日…」
服を見せる先輩が小さい声で話した。
「着てみて…」
「じゃ…あの…着替えるからちょっと出てくれる…?」
目を合わせてほほ笑む先輩は何か企んでいるように見えた。つま先たちして口づけをした先輩が下を向いて笑う、何事かと思ったらここにくる前に二人で話したことを思い出した。
「先の…」
「うん。ここならオッケーだよね。じゃ着替えて…外で待ってるから…」
「うん。すぐ着替えるから。」
不思議だ。
七瀬先輩から借りたこのスーツ、サイズがちょうどいいから驚いた。前にある鏡に映る俺は「誰?」と思うほど、メイクとスーツが俺のイメージを変えてまるで別人みたいな気がする。
「こんなの…先輩に見られてもいいのか…」
余計な不安も抱く、それほど信じられない自分の姿だった。
「ハルーまだなの?」
「今出る…」
「何これ!」
やはり似合わないのか…
「めっちゃ好きー!」
「似合います…?」
「うん!!すごく似合う!」
隣の七瀬先輩もほほ笑む顔をして話した。
「おー?似合うじゃん。春木。」
「ありがとうございます。」
「美也!ありがとう!」
「楽しんでね。」
「うん!」
俺の手首を掴んで出ようとする春日に声をかける美也。
「あのさ!後でここから写真も撮れるからね。文化祭が終わる前に寄ってみてー!」
「本当?ありがとう!じゃーハルー!行こう!」
「あ、うん。」
外に出た先輩は普通の女の子だった。周りの景色に感動したり、あちこちで食べ物を買ったり、他の部活のイベントに参加してすごい笑顔を見せてくれた。俺は他のことよりも先輩のその笑顔が好きで、ずっと見たいと思った。
一緒に見回った場所で写真を撮ったり冗談をして笑ったり、俺の人生で今みたいな普通の幸せを感じた時はいつだったのか…これは俺が心の底からずっと欲しかったものだった。とても幸せな時間が続いている。
普通に手を繋いで周りの人たちに見せつける先輩も可愛いし、「こんなにくっついている俺たちは周りの人にどう見られるんだろう。」みたいなことはもう考えないようにした。
もちろん、二人ともこんな格好をしているから周りの目から自由になれないんだろう。それは仕方がない、けど前のように周りの視線を怖がったり他人の気持ちを気にしすぎる癖はもうなくなっていた。
「うわー!会長可愛いー!」
「うん?ありがとう!」
「隣は加藤くんだよね?」
「はい。」
「すっごく似合うねー!二人!」
「ありがとうございます…」
あちこち歩いていたらこうやって先輩に話をかけた後、すぐ俺に話をかける女子先輩が多かった。普通に褒め言葉しかなかったけどその度、そばにいる先輩は相手に見せつけるように腕を組んでくっついた。
「なんかわざわざハルに話をかける女が多い…」
「ええ?もしかして嫉妬してる?」
「知らないよ!バカハル!」
ツンツンしてる先輩も可愛い。
「ううん…てかさ…春日…」
「うん?」
「そのわたあめ…大きすぎる…」
先輩の上半身より大きいわたあめを持っている姿を写真に残した。
「どー!可愛いでしょう!」
「うん、そうね。そのわたあめ可愛いね。」
「違う!!わたあめを食べる、あたし!」
「はははっ、ごめん!うん、春日は今日すごく可愛いから!」
「それだよ!」
「フフッ。」
「ねね、一緒に撮ろう!」
「オッケー」
ぱちりとカメラのシャッターを切る度、二人の思い出が少しずつ増えていた。その後、奇術部の公演と映画制作部の映画を一緒に見に行った。他人から見れば「普通のデートじゃん」と言われるくらいのデートを二人は今までやったことがなかった。
その普通の時間を楽しむ余裕も心の準備も全然できていない俺たち…
「キャー!怖いー!」
「びっくりした…これは…」
「春日も怖かった?」
「うん…油断した…」
「へえー春日も怖がるものがあるんだー」
「うるさいよ…!もうー!」
だからこそ普通の時間を思いっきり楽しむバカたちがここにいる。
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