第134話 終わりへ。−2
相変わらずうちのクラスはにぎやかでみんなバタバタしていた。クラスの前に立ち止まって扉を開ける瞬間、同じタイミングで中から扉を開けて出る夕と目が合った。
「春木!」
「夕…!」
「退院したかー!おい!みんなー春木来たよ!」
「おい、騒ぐな…」
夕の声を聞いたみんなはクラスから出てきた。
「春木!体大丈夫?」
「お!春木!」
「いつ退院したのよー見舞いに行けなくてごめんね。」
「心配したよ。」
うちのクラスってもともとこんな雰囲気だったのか、ちょっと違う気がする。前は…前はこんなに話をかけてくれなかったんだろう。俺がいなかった間に何か変わったのか…違う。
いや、俺がみんなを見ようとしてなかっただけだ。
「うん、完全復活だ!」
「なんだー春木、でも無理すんなよー」
「おう!ありがとう!」
俺がこんな風に言えるなんて、それも不思議だ。そしてしばらくクラスのみんなを手伝って文化祭の準備をした後、体育館で集まることにした。
「春木、行こう。」
「うん。」
そこには康二はもういなかった。
「そう、今日結奈ちゃんもくるって。」
「それはいいね。だから朝からニヤニヤしてたのか…」
「緊張してさー」
「何を…」
「指輪をプレゼントするから。」
「へえー男だな。」
そして体育館に揃った全校生の前で先輩が姿を現れた。
「生徒会長だ。」
「うん。」
「春木さ、会長とどこまで行った?」
「どこまで…って普通だよ。」
「えー普通って、春木?」
夕の声がほぼ聞こえないほど、俺はその前に立っている先輩の姿に気を取られていた。全校生に注目される人、眩しい人…ここから見上げるとその輝く先輩の姿がとても美しいと感じてしまう。
「では!ただいまより高山第54回文化祭を開会します!」
開会の宣言をする先輩の姿に気を取られて、ずっと眺めていたらそれに気づいた先輩が明るい笑顔を俺に見せた。思わず頬を染める俺と先輩、この体育館でこそこそ二人は合図を送っていた。
「春木ー!」
「あ!びっくりした…」
「なんだ…聞いてなかったのかよ。」
「ごめん…」
「おいおい…会長を見てたのか!」
「別に…」
「ウッソだろーまぁー気持ちは分かるからね。俺はもう戻るけど春木は?」
「俺は文化祭を見回って部室に行く。」
「そうかー分かった。」
体育館を出て夕と離れた俺はどっかでゆっくり時間を潰すつもりだったけど、全部にぎやかすぎて結局部室に行くのがベストだった。階段を上がって部室の前に立ち止まると中からみんなの話し声が聞こえて、また誰かが扉を開けてくれた。
「春木!」
「すみません…?」
二宮さん…?
「春木?」
「おー!」
「なんで桜木と二宮さんがここに?」
あ、そうか。文化祭来てくれたんだ。
でも久しぶりだな…
「よっー!」
「何がよっー!だ!」
「久しぶり、春木。」
「まぁ…久しぶり。」
椅子から立ち上がる桜木が部室を出て俺の肩に手を乗せる。
「ちょっと時間あるか、春木。」
「うん。」
「ここじゃ無理だから、どっかいい場所ないか?」
「分かった。ついてこい。」
なんか深刻な話でもするつもりか、けっこう歩いたけどなんも喋られないのはちょっと怖いな。今立っているこの建物と後ろにもう一つの建物を繋ぐ渡り廊下がいる、そこは運動場が見えて山の景色も見えるいい場所だ。そして人けが少ないからちょうどいい。
「それで、言いたいことはなんだ。」
「…お前さ。」
「うん。」
「走りやめたのか。」
「は?」
何事かと思ったらそっちか…走りか。
「なんで?」
「事故の話、聞いたぞ。」
「そっか…」
「お前が諦めないでほしい、俺は再びお前が走るようになった時はすごく嬉しかったからさ。」
「…そっか。」
実際、どうなるんだろう…
正直今ここで走りをやめたら俺に残るのは何一つもない、やめる気はないけど自信がないのもあるからはっきり言えない俺だった。
「やめるな。俺はお前と走るために走っているから、分かるか?ずっとお前が戻ってくることを待っていた。」
「桜木…」
「正直、自信がないから答えられないんだろう?」
「エスパーかよ。」
「お前ならそうすると思った。はははっ。」
涼しい風が吹いて来た。その涼しさを感じながら手すりに寄りかかって腕に顔を埋める。今は先輩がいてくれたから他のことを気にしなかっただけ、桜木の話のも大事にするべきだ。
これから俺が先輩を…幸せに…
でも先輩は行っちゃうよな…
あの瞬間、思考が止まる。
「うん…」
「お前がやる気を出したら香ちゃんも手伝ってくれるだろう。」
「うん…」
「どーする?俺は今日これを言うために来た。」
「いいかも…」
「うん?」
「俺は諦めたくないんだ。お前との約束もあったし、走りだけは諦めたくない…」
「お?」
明日だけではなく、未来のことも考える高校生だから…まずは頑張るべきだ。そうすればいつかまた成功した先輩と会えるだろう…今は先輩と俺のためにベストを尽くす時だ。
「俺…頑張るから…」
「やるのか?」
「うん。」
久良がちらっと見た春木の表情は自信に満ちていた。それを確認した久良が春木の背中を叩いた後、一人で出口の方に向かった。
「先に行くから、確実についてこい。」
その言葉を残した桜木の声が聞いて、すぐ顔を上げて振り向いたところにはもう桜木の姿はいなかった。出口の方を見つめながら桜木の言葉を思い出した。昔からずっと走ってきたからそんな話をするんだろう…けど桜木は俺のことをライバルだと思うかな。
……
「だーれーだー?」
ぼーっとしている間に後ろから両手で俺の目を塞ぐ先輩の声が聞こえた。
「春日?」
「正解!」
と、言ってすぐ俺を抱きしめる先輩の頭を撫でながら話した。
「どうして俺の居場所が分かった?」
「あちこちに聞いてみたから?」
「メールしてもいいのに…」
「したけど…友達と話をしてたから気づいてなかったでしょう?」
確かに…メールが届いてる。
「ごめん…」
「いいよーなんか真面目な話だったから気にしなくてもいい!今から一緒に文化祭を回らない?」
「行こう!」
「うん!」
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