第133話 終わりへ。
朝のアラームが鳴く、爽やかな朝が始まるベッドの上で気持ちよく寝ている二人。昨日、俺はいきなり武藤に呼ばれて先輩の助けに来た。川田と大山かと思ったらなぜかそこに康二がいて、突然乱暴を働く姿を目撃してしまった。
危機を乗り切って、後は武藤が直接ニノさんを呼んで事件は一段落したらしい。一緒に帰ろうとしたけど、武藤は自分より俺がそばにいてあげた方がいいって、そう言われたからそのまま背負って先輩の家に来てしまった。
「うるさい…ハル…」
「はいはい…」
目を閉じたまま手を伸ばした春日が目覚まし時計を探して何かを撫でる。
「春日…それ俺の頭だよ…」
「そう?」
「時計はこっち…」
「見つけた…?」
「うん。」
「じゃ…寝よう。」
「うん…じゃない!!学校に行く日じゃん…」
「そうだ…」
でもなんか先輩の肌触りが気持ちよくて、体の温もりもちゃんと伝わっていてここから出られなくなる。目を覚めた時、こっちを見つめる先輩と目が合ってしまった。
「おはよう…」
「うん、よく眠れたー」
先輩の頬を触った後、体を起こしたらすぐに感じられる上半身の涼しさにびっくりした。
「服着てない…」
「…!」
話を聞いた先輩がくるりと背を向ける。
「どうした?」
後ろから先輩を抱きついてちょっとからかうつもりだったけどこの感触は…もしかして先輩を着てないのか、暖かい腹の温もりが腕に伝わる。
「ご、ごめん…!」
「これはハルのせいだよ!」
「え…そう?」
こっちに向いて、俺の胸に顔を埋める先輩が小さい声で話した。
「一人の夜が怖かったから…ハルのことずっと呼んだのにぐっすり眠れて全然話してくれなかったじゃん…」
「確かに…家に入ってからすぐ寝ちゃった気がする…」
「でしょうー?」
「…」
「怖かったら抱きしめたのに…なんかピンとこないから。」
「脱いだ?」
「うん!」
何そのキラキラする目は…
「ハルの温もりを感じてなんとなく安心する…」
「でも最近の春日は無防備すぎじゃない?」
「うん?」
「こんなに明るい部屋で肌を見せたら我慢できなくなる…」
つい先輩に口づけをしてしまった。
「じゃー何がしたい…?まだ時間あるから…少しはやってもいいけど…」
ベッドの上ですごく照れる先輩の顔と俺を見つめるその目がやばい、弱くて可愛くて…愛しい。
「やっぱりやめとく…」
「やんないの?」
「なんか、分からない…」
「へえ、照れてるんだー」
「知らねぇし!学校行こう!」
「フフフッーかわいいー!」
朝から変にバタバタするけど、それは俺だけなのか…先輩…のんびりしてる。
「もう…俺がやってあげられないとなんもやらないのかー」
「全部やってほしいのー」
「テコピンするよ?」
「えーはいはい。」
ちゃんと飯を食って、ちゃんと制服を着て、鏡の前に立ってまた自分のことをチェックして…そして準備…
「よし!」
「何が?」
「二人で鏡の前でこうするの久しぶりだね?」
「うん…」
「笑顔になってる。学校に行くのが嬉しい?」
「いや、春日がいてくれて嬉しいんだ。」
そしてまた新しく俺の学校生活が始める。
二人で歩いているこの道、周りの景色は少しずつ変わっているけどいつもと同じ景色でなんか落ち着くんだよな。前にここでポニーテールを見せてくれた先輩を思い出す、それももうずっと前のことになっていた。
「ねね、ハル知ってる?」
「うん?」
「もうすぐ文化祭だよ?」
「文化祭かー」
「一緒に見回る?」
「え?なんかするんじゃない?3年だし…クラスで何かやってない?」
「うん、そうなんだけど…」
「適当に時間潰すからそっち行ってみなよ!」
「いや!それよりハルと何かいっぱいしたい!だって最後の文化祭だもん。」
二人で話し合っている時に見えてくる学校はすごく賑やかで生き生きしている気がした。それは初めて入学する時とは違って、今の俺はそのワクワクする気持ちが分かる。ただの数ヶ月間、必死に否定して灰色だと認めていた俺の人生から一歩踏み出した。
「あー!準備が始まってるんだー」
「うん、そうだよねー」
この文化祭が終わったら期末テストだし、その後は先輩と離れるんだからな…せめて最後の思い出は自分で作ってあげたい。
それくらいはいいですよね、武藤さん。
文化祭は思いっきり楽しもう。
下駄箱の前に着いて、そして階段を上りながら考えていた。だから俺は半分しか伝えなかった気持ちをちゃんと伝える。
「私こっちだからー」
「春日。」
「うん?」
「文化祭が終わったら話したいことがある。」
「今じゃだめ?」
「うん、待っててくれる?」
「いいよー!後でメールするー!」
「うん。」
そして文化祭が始まる。
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