第130話 なぜお前なんだ。
「もしかして…恵ちゃんの声…?」
「シーッ…」
このままじゃ今の状況がバレてしまう。
「ごめんー!今ちょっとー!体拭いているから外で待ってくれる?」
「あーそっか?分かったー!」
外で待っている友達に声を上げて答えた。
ここが特別な個室でよかった…ひとまず安心だ。先に上衣を着て、先輩の制服を拾ってあげた。
「俺が友達を連れて外に行くから…そのうちに帰って。」
「…」
「どうした?」
「一番いいとこだったのにー!」
「シーッ!」
「…うん。」
「後でメールするから。」
「うん。分かった…」
黙々と頷く先輩の顔を見た俺はタオルを首に巻いて、上着を着た。なんか先輩を病室に置いて行くのが気になるけど、まずは見舞いに来た友達を帰らせないとな。
春木が出た後、一人で残された春日はベッドの上で自分の唇を触る。まだ消えてない春木の温もりが唇と体に残っているだけで笑顔になる自分を感じた。
「私、バカみたいな顔をしてる…」
……
「おう…来てくれてありがとう…寒い…」
「え…わざわざ春木が出てくれなくもいいのに。」
「今ちょうど外に出るところだったから…」
武藤、夕、木上三人で見舞いに来てくれた。
「外に行こう。ここ、前に入院したからいいところを知ってるぞー」
「おっ!そっか!」
「加藤くん病室でいいけど…」
それはダメだ。
「中は息苦しいから、行こうー」
裸の先輩がみんなにバレたら本当にまずいんだろう…
とりあえずみんなを武藤さんと話した場所に連れて行った。そこは広くて紅葉も見えるいい場所だから落ち着くかも…俺がいなかった間の話も聞きたいし、時間稼ぎはこれでばっちりだ。
「加藤くん、大丈夫?寒くない?」
「全然、先まで体を拭いたからちょっと寒く感じただけだ。」
「はい…」
連れて来た場所のベンチに座ってみんなと話を始めた。
「みんな、久しぶりだから…何を言えばいいのかよく分からないな…とりあえず俺は元気だから。」
「春木…本当に死んだと思ったぞ。」
「心配をかけたな…そう言えば康二は忙しい?」
「…」
沈黙する二人を見る夕が代わりに答えてくれた。
「あの、康二はここのみんなと喧嘩して部活もやめたんだ。」
「そっか…いや、ごめん。そんなことがあったのか…」
だから木上が元気なさそうな顔をしてたんだ。仕方ないけど、もう俺は友達の関係に手を出せる立場じゃなかったから夕の話に頷くだけだった。
「じゃあ、俺がいない時に楽しいこととかあった?10月なら文化祭あるんじゃない?」
「うん。もうすぐだけど…いろいろ準備もしているんだ。春木も退院したら見られるかも?」
「早く退院してみんなと文化祭みたいな…体がまだ重くてさ…時間がちょっとかかるかもしれないんだけど、一週間待てばいけると思う。」
「ならよかったー!」
そして暗い顔をしている木上がいつもの声で話した。
「春木が元気でよかった。学校は普通なんだけど部活にいないからちょっと寂しいなと思った。」
「え?そう?さすが俺がいないと寂しくなるんだ。仕方ないね!」
強いてリア充みたいな雰囲気を出してみたけど、下手くそだな…
「え?何それー」
「元気になったってことだー!」
「フッー!似合わないよ!」
「新しく生き変えた…!よ!」
元気なさそうな木上が俺を見て笑う。
その二人を見ている恵がほほ笑む、それだ。なんでもない話にまた笑えるのがただ嬉しい春木だった。
「またみんなと会えてよかった…俺…本当にもうみんなと会えないかと思った…」
「大丈夫って…俺たちがいる!」
「春木…」
「加藤くん…」
「あ…!なんか変だと思ったら武藤って普通に喋ってる!敬語なしで!」
後ろで武藤をにくっつく木上が話した。
「そうよー最近頑張ってるんだ。恵ちゃん。」
「ちょっと恥ずかしいです…さやかちゃん…」
「はははっ。」
「何を笑ってる…」
「いや、普通ってこんなものかなーと思って。」
「なんだよー」
みんなが笑う。
その後、友達には眠れている間にあったことを聞かせてもらった。普通の日常と学校生活になるはずなのに、ただの話かもしれないのに、俺はみんなが話してくれるのが嬉しかった。後、康二は何をしているのか分からないけど…それも学校に行ってみたら分かるだろう。
早く戻りたいな…学校。
「そろそろ、時間だ。」
「そうね。」
「帰るのか?」
「うん。」
「じゃあ、ここまでだ。今日は見舞いに来てくれてありがとう。」
「その前にちょっとトイレ…」
夕がトイレに行ってるうちに少しの静寂が流れた。
「春木…」
「うん?」
「今、上原のことを考えたんでしょう?」
呼び方が…変わった?
「まぁー一応心配になるから…?」
「そんなやつ…もう絶交して。」
「え?なんで?」
夕が戻る前に木上と武藤が話してくれた。俺が眠れている間に起こったことを、それはつい「なぜ?」と口に出すくらいの話で俺には理解できなかった。喧嘩ってことはどうやら本当みたいだ。木上のそんな顔は見たことがない、でも理解できないんだ。
「だから…下谷くんがいる時には言えない…」
「…一応、状況を確かめてあいつにも聞いてみる。」
「…」
なんで…?
康二…なんで…?
佐々木先輩と別れて、木上と付き合って、また別れる…?一体、何があったんだ。
「ごめんー!みんな!行こうか!」
「じゃーね。春木。」
「じゃーまた。加藤くん。」
「みんな気をつけて帰って!」
手を振ってみんなを見送る、そしてポケットから携帯を出した俺はすぐ康二に電話をかけた。
『ピー』
「電話が繋がらない…?」
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