第91話 トラウマ。−3
そして桜が満開になる春が来た。
一人で眺める外の桜はとても美しくて寂しい…今年の春も一人だから時間が空いている時に恵ちゃんからもらった漫画を読む日々を過ごした。
ヒラヒラ舞い落ちる桜の花が私の想いを春木に伝えてほしい…とか漫画読みすぎ…でも最後のキスシーンがすごくエロかった、男女が二人きりになると抱きしめたり口をつけたりするなんてドキドキしすぎて顔が真っ赤になる。
あの時はキスもすごくエロい行為だと思っていた。
くっついて口を合わせるなんて…私もしたい…好きな人に触れたい。
「春木…大きくなったかな…」
一人で妄想をしている時、扉の向こうから母の声が聞こえた。
「春日?いる?」
「うん。」
「今出かけるけど、一緒にどう?」
「どこ?」
「気晴らしに行くのよ。」
「うん、行く。」
出かける準備を済ませて、居間に置いているソファに腰をかけた。先に出たのは両手で同じ服を持っていた恵ちゃん、笑いながら右手の服を私にわたした。
「これ着て!綺麗よ!」
「これってなに?」
「双子コーデだよ!」
「双子…?」
「お姉ちゃん美人だからね!一緒にしたいよ!着替えて!」
妹の頼みだから断らないね、部屋に入って着替えてみたら白いブラウスと茶色のチェックミニスカートだった。大体白い感じで黒いヒールとそれに合うニーソックスまで用意してくれた。
簡単で綺麗コーデが好きなんだ。恵ちゃんは。
「どうかな…」
着替えた私を見て喜ぶ恵ちゃんが鏡の前に連れて来て写真を撮った。そしてなんか足りないと思う恵ちゃんは部屋から化粧品を持ってきた。
「メイクまでする…?」
「うん!私美容が好きだから!勉強したよ!お姉ちゃんもメイクさせてあげるねー」
「…う、うん。」
たまにはこんなこともいいよね。
恵ちゃんがそんなに楽しんでいるのに、水を差すわけにはいけないね。
「かわいいー!」
「ありがとう…」
「お姉さん!鏡を見て!」
恵ちゃんのメイクは私を変えた気がした。普段と全然違うかわいい雰囲気が溢れていて、それは見ている私すら慣れない姿だった。
その後、車を出した母が家に戻って双子コーデをした私たちを見た。
「あらー可愛いね。」
「でしょう!今日はお姉ちゃんと久しぶりに出かけるから準備したんだー」
「二人ともすごく綺麗よ。」
「うん…」
車に乗った私たちはデパートによっていろんなショッピングをして次の目的地に向かっていた。
「お母さん、デパートでショッピングもご飯も食べたのに今どこに行くの?」
「うんーお母さんも久しぶりに友達と会う約束をしたからねー」
「そうなの?」
「友達の息子が今回ね、陸上やってるからそれも見に行きたいと思ってね。」
確かに母も昔陸上をやっていたよね…家にメダルとかかけてたし、そこに春木がしたら気晴らしになりそうだね。
「そういえば…あの子もうちの恵ちゃんと同じ年だった気がするけど…いくつだったかな…」
「そうなの?」
恵ちゃんと同じ年だったら…中学1年生ってこと…?
春木も中1だった気がする、もしかして…あそこにいるのは春木じゃないかな…!
でもそんなはずないよね。もう会えることも諦めた私にはあの時の記憶を忘れることができなかった。いつかまた会えると思うからその記憶と指輪だけ大切にしていた。
「もう着いたよー」
「広い…ここで大会が行っているのか…」
「そうそう!お母さんも久しぶりに高山競技場に来るのよ!ドキドキする〜」
「入って見ようね、恵ちゃん。」
「うん!」
その競技場の中には大きい桜木が閉鎖された東の入り口を守っていた。
「あ!由利恵ー!遅い!」
「さつきちゃんだ!」
「後ろは娘さん?」
「そうよ〜こっちは武藤春日、こちは武藤恵。」
「よろしくおねがいします!」
二人とも声を上げた。
「武藤…って確かにどこから聞いたことが…あったけど…」
「はい?」
「うちの息子がねーけっこう言ったことがあったからね…」
まさか…
「あの、すみません…お名前は…?」
「あーそうね、私は加藤さつき。よろしくね、春日ちゃん。」
「素敵なお名前ですね、こちらこそよろしくお願いします!」
心の中から私は万が一のことを考えていた。春木がここにいることを、そしてここでまた会えることを…心から祈っていた。
その気持ちを隠して眺める競技場の中、そこには100メートル走りの準備をしている選手たちがストレッチングをしていた。
「春木…」
じっとしてその中を見つめていた私は春木にもらった指輪を触っていた。
いよいよ中学1年の走りが始まると、その入り口から友達と一緒に入ってくる春木の姿が見えて来た。
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