第90話 トラウマ。−2
「散歩しに行くだけ。」
「大人しく寝ろ。」
「眠れないんだよ。」
「明日は経営者としての授業があるから部屋に戻れ、二度は言わん。」
「…」
はあ…いつまで一々ちょっかいを出すつもりだ、疲れてもう口喧嘩もしたくない…部屋に戻ってきた私は結局気を晴らすことも許されなかった。
枕に顔を埋めて寝るしかできない私が可哀想だった。静かな夜、一人で目を閉じていたらこの世で一人ぼっちになった気分がして寂しくなる。
「おやすみ…春木…」
布団を巻いた私はそれを春木だと想像しながら耐えていた。
そして次の朝、いつもの日常を繰り返している。前とは違うことは春木からもらった指輪が薬指にはめていた。まだあの時のことを考えるとドキドキする心が止まらない春木がこうさせたんだ。その頃、私はもう春木に会えないと思った。
春木に会えなかった時間だけ、二人の距離がだんだん遠くなることが感じられた。
「もう…だめ…」
「なんで?今日は君の家に泊まりたい…」
「ちょっと考えてみよっか…」
「好き…」
学校が終わってすぐ家に帰る途中、私は街の中からイチャイチャしているカップルに目を取られてしまった。なんでもない話に笑って、話をするだけでそんな笑顔になれるなんて知らなかった。
もしかして…私も春木の前でそんな顔をしていたかな、どうしよ…急に恥ずかしくなる。もう会えないのに、あのカップルをみて余計なことが思い浮かぶ私だった。
あのカップルのせいで恋がしたい私の気持ちが心の底から湧き上がっていた。
「もっと頭を使え!それしかできないのか!」
「…」
「君はもっとできるはずだ。次の大学はもう決められたからカナダに行け。」
中学の3年の時、いよいよ私は高山第一と呼ばれる高校に入ることになった。高山県ではとても有名で関東地方から知らない人がいないほどレベルが高かった、けど父はその結果が気に入らなかったかもしれない。
私だって普通の人なのに…どこまで期待されているのよ…
「どこまで行けば満足する?」
「君がこの会社を経営するまでだ。」
「会社なんか興味ないよ。」
「役に立たない友達と遊ぶのは時間浪費だ、そんな時間もないから君は勉強をしなさい。」
「やめて…もうやめて…何もやりたくない!」
部屋の扉を強く閉じる私はそのまま床に座り込んで自分の膝を抱いた。なんのために勉強をしていたかな…いい高校に入ったら少しは楽になれると思ったのに、父はまたその上を欲しがっていた。
「お姉ちゃん、大丈夫…?」
扉の外から聞こえる恵の声はすごく落ち着いていた。
「うんー大丈夫だよ?」
「何かあったら私に相談してね!」
「ありがとう…恵ちゃん…」
「うん!私はいつもお姉ちゃんの味方だから!そしてこれをあげるね!見て見て!」
扉の隙間から本みたいなものが入ってきた。
「本?参考書かな…?」
「違う!勉強をするための本じゃない、寝る時に読んでみて!」
「うん。ありがとう。」
恵ちゃんに元気をもらった。部屋に閉じ込められたような人生を生きてきたのに、今日は珍しいね…普段から絶対話しをかけてくれなかった恵ちゃんと久々に話した。
家族なのに…碌に話したこともなかった。
「絵本かな…」
ベッドに隣に置いていたランプをつけて恵ちゃんからもらった本を読み始めた。本のタイトルは「君がいて、私がして。」と書いている、恋愛とかそっち系の漫画かな…
「…」
内容はとても簡単だった。
病気を患っている女の子と自殺しようとする男の子が偶然に出会って始まる話だった。その作中の描写から変な感情を感じられて読むことをやめられなかった、運命と現実の間から抗えない…切ない二人の物語だった。
「エミリ…」
いつの間にか、私はあの漫画にはまっていた。
『いつまでもあなたのことが好きです。ここにいます。』このセリフが気に入る、それは春木が私のことを忘れず一生覚えてくれることだと理解した。
「バカみたい…」
素直じゃなかった私はたまに自分を叱る。
もともとそのセリフは男子主人公が彼女と喧嘩してから和解をするシーンに入っていたセリフだったけど、読んで見るとこの漫画が見せようとした悲しいシーンがいっぱいあった。
そのカップルは感情が激しく盛り上がったせいか部屋で二人でちょっとヤバイけど面白いことをやっていた。
これは現実でもないのに、漫画を読みながらいろんなことを学んでしまった気がする。
「春木に会いたくなる夜…私は本物の恋がしたい…」
夜更かしして漫画を読む、まだ残っているエピソードがたくさんいるだけで幸せになる。
中3の私にその漫画はとても切なくてとてもエロかった。
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