第84話 他人の視線。
最近、先輩のことがよく分からない…これは分からないのが普通だな。
例えば友達と廊下で話をしていたら、こっそり後ろから俺を抱きしめて顔を埋める。何も言わない先輩がそのままじっとしているから逆に心配になって、たまに話をかけて見たけどなんか話がしたい気分じゃなさそうだった。
「ん?先輩どうしたんですか?」
「…」
「先輩?」
今日も普段の通りに抱きつく先輩と話をかける俺、そうすると後ろから先輩に首筋を噛まれた。
「痛っ…な、なんですか。」
「なんでもなーい。」
そうやって教室に戻る先輩、俺の首筋には理由も分からないまま先輩に噛まれた歯形が残っていた。
「羨ましい…春木。」
「…二人のスキンシップはこんなもんだったのか。」
と、この状況を見た二人はわけわからないことを言って感心している。
「え…?どこが?噛まれただけだよな…?」
「それが羨ましいんだー!なんで知らないのか!」
「…夕、もしかしてM?」
「でも休み時間に彼氏を抱きしめる彼女ってこと自体が羨ましい…涙が出そう…」
「僕も…そんな薔薇色の学校生活がしたかった…」
一応彼女がいる二人である。
「夕は別学校だから仕方ないけど、康二お前は上階に佐々木先輩がいるだろう。」
「あ…康二も裏切り者だったのかっ!!」
「へへー」
「何を笑ってんだ…お前も先輩とハグとかしたら?」
「先輩はそんなことよりもっと…激しい人だぞ。」
「単語の選択がちょっとやばくないか?」
夕の目が康二から離れない。
「いや。そんなんじゃなくて、苦手ってことさ。」
「がっかり…じゃどこまで行った?」
「ん…まぁーハグまでかな?それより春木の方がもっとイチャイチャしていると思うけど?」
「じゃ春木は?」
「俺もハグまでなんだけど?」
「ウッソだー!」
「僕の計算通りなら春木は少なくともキスまでしたはず!」
なんで分かる…エスパーか。
「そんな…ことをしたら殴られるかもな。」
「へーそれは意外だね。さっきのことを見たら初中やってる感じだったのに。」
「お前たち俺をなんだと思っているんだ…」
「学校一美少女を落とした男。」
「まじそれな。」
「うるさい!…あ、そう言えば俺先輩に返すものがあったから、行ってくる。」
二日前だったか、先輩がうちに来て一緒に勉強をしたことがあった。その時、先輩がうちに置き忘れた教科書を伝えるために今階段を上がっているけど、3年がいるとこはちょっと気まずいよな。
川田の件で上級生が苦手になってしまったし、特に男の先輩から変な目に睨まれることも多いかった。
「あれ、あの子…」
「生徒会長の彼氏だよね?」
「1年なのに背も高いしスタイルもいいね…」
3年生がいる4階に来たらすぐ俺を気づく女の先輩たちがザワザワしていた。同じ学校なのになぜか空気が違う、先輩のクラスまで歩く道に人の視線とザワザワしている声が次々と聞こえてどこを見ればいいのか分からなかった。
ただ早めに渡して戻りたいだけだった俺はふと教科書を渡す時の先輩の顔を思い出してしまった、そして会いたい気持ちが浮かんでいる時から周りの視線に耐えられる気がした。
確かに先輩ってD組…
「D組…D組……」
「教科書を忘れちゃった…どうしよう…次の授業なのに。」
D組の前に着いた時、クラスの中から先輩の慌てている声がかすかに聞こえた。ちらっと中を覗いたら机と私物箱の中を探している先輩が見えてきた。
「国語の教科書…どこなの…」
「春日まだ見つけなかった?」
「うん…確かに持ってきたはずなのにね…」
かなり困っているように見えるけど…ちょっとかわいい、いつもやられっぱなしの俺だったからこんな姿がたまには見たいってことかな…
「ふふ…」
「あれ?春木?」
「…へ!」
びっくりして変な声を出してしまった。
後ろから俺の肩に手を乗せて呼んだ人は七瀬先輩だった。移動授業の準備を済ませた七瀬先輩が廊下で俺に話をかける。
「春日に会いに来た?」
「はい…そうですけど?」
俺の話を聞いた七瀬先輩がすぐ扉を開けて先輩を大声で呼び出した。
「春日ー彼氏来たよー」
「ちょっ…と…先輩、声が大きいですよ…」
「えー大声を出さないと春日に聞こえないしー」
「全く先輩は恐ろしい人ですね。」
彼氏と言う単語にクラスの中の先輩たちが武藤先輩に声をかけていた。クラスメイトたちに囲まれている先輩を外から見ていると、それに気づいた先輩が笑いながら群れから離れて俺の前に立ち止まる。
「どうしたの?ハルがうちのクラスに来てくれるなんて珍しいねー」
「この教科書、二日前にうちに置き忘れたみたいで…」
「あれ!ありがとうー」
「優しい彼氏だね〜」
そして急に抱きついた先輩がチャイムが鳴くまでじっとしていた。嬉しいけど周りの目がとても気になって居ても立っても居られない…特に男たちの目が一番怖い。
3年のクラスだし…
「恥ずかしい…ですよ。先輩…」
「先もハグしたのにまたしたい…」
春木の胸に顔を埋めた春日は七瀬の方を見て『ベー』と舌を出してからかう、そして優越感に満たした顔をしてほほ笑んでいた。
「リア充…たち…」
「ひひひ…」
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