第83話 指輪をくれた君。−6
「嫌かな…?」
「い、いきなり何を…」
「春木が気に入ったってことよ。」
「…」
隣で見える春木の横顔がまだ真っ赤だ、照れていると確信した私は目を逸らした春木の前に行って目を合わせた。
「照れてる?」
「え!」
びっくりした春木が後ろに体を回してためらう。
「ねー春木ー」
「はい…」
「なんで照れてるのー?」
「照れていない…なんでもない…」
「じゃ約束しようね?」
「え?なんの約束ですか…」
「春木が大きくなったら私のものになるってことよ?」
「うん…それは…」
「何をためらっている!普通はこんなにかわいいお姉さんが言ったら、はい!でしょう?」
だんだん硬くなる春木の体、緊張した目が感じられる。その姿を見たらなんとなく自分が言い出した言葉を自覚して、ついでに頬を染める私だった。
これから何を言えばいいのか分からなくて病室ベッドに座る。
「…」
しばらく静寂になった病室をちらっと覗いた二宮が一人でつぶやいた。
「かわいいお二人…これでお嬢様も…少しは…
何…?電話?」
その間、ずっとためらっていた春木が口を開けた。
「いいですよ…」
「うん?」
「高校生になったら絶対!武藤さんに会いに行きますから…待ってください!」
「うん、約束だよ?」
私が出した小指に指切りをする春木の笑顔がかわいい。今まで長かったと思った夜は春木のおかげで一瞬のように感じられた、なんでこんなに時間が早く経つのか神様に聞きたいほど春木と別れたくなかった。
「約束です!」
二人の笑顔と笑い声が侘しい病室を満たしていた。
でも、幸福の時間もここまで…まだ小学生の春木をこれ以上この病室にいたらご両親が心配するよね。
「お嬢様、もう時間です。春木くんは私が連れて行きます。」
「はい、よろしくお願いしますね。ニノさん。」
そして春木が病室を出る前に指輪を嵌めた手を振りながら最後のあいさつをした。
「春木!指輪大事にする!今日は本当にありがとう!」
「はい!」
……
そんなこともあったよねー
その後はいろいろあったけど、結局こうやって付き合うことになったから文句はない…と言いたいけどやはり春木が昔の記憶を失ったのはちょっと寂しいかも。
少し昔のことを思い出してぼーっとしていた私は春木の方に頭を乗せたまま寝落ちしてしまった。
「春日?」
顔を上げて春木を見ていたら夢の中の小さい春木が大きくなって私の方に顔を向いていた。小学生の時より逞しくなって、背も高いし体も筋肉がついている。
「…ハル。」
「うん?」
両腕で春木のことを抱きしめてその温もりを感じる、そして気が済まなかった私は斜めになった体を起こして春木の顔にすりすりした。
春木の匂いがする…大好きーこれが私が欲しかった本物の恋だった。
「どうした…?」
「えへへー」
「よく眠れたね。」
「うん!」
いつの間にか掴んでいたネックレスが首につけられていた、寝落ちしていたうちに春木がつけてくれたのか…この指輪を見ていたらなんか嵌めたくなる。
ネックレスから指輪を取って指に嵌めようとしたけどやはり入らなかった…イラついた私は急に新しいペアリングが欲しくなった。
「春日、何をしている?」
「指輪が入らない…」
「小さい頃にもらったことだからさすがに入らないでしょう…?」
「でも…これは春木からもらった大切なものなの…」
入らない指はを努めて嵌める私に頭に手を乗せて話す春木。
「入らないと意味ないですよ。もう諦めてください。」
…なんなのよ。急に冷たくなって、自分から渡したものだから大切にしていることが見えないの。
「今週…よかったら、新しい…」
「うん?なに?」
「新しい…指輪を買ってあげますから、週末は…あのスケジュールを空けて…」
「…本当?」
「うん、なんか春日が欲しがってる顔をするから…」
「無理しなくてもいいのに、これでいいよ。」
「俺も春日とするペアリングが…欲しい。ちょっと!ちょっとだけ!」
素直じゃないところもあの頃と同じだった、自分が恥ずかしい話をしたことに自覚して顔が真っ赤になる春木は昔のように私の目を逸らしていた。
その顔がとてもかわいくて…キスしたくなった。
「ね、春木。家に帰る前にチューしよ。」
「うん?今…?」
「うん…こっちよ。」
いつもの口付けでも毎回新しい気分がする。心の中から湧き上がるこの気持ちが好き、春木のことを考える度にドキドキすることも好きだよ。昔の約束を守ってくれて私を好きになってくれて…告白したことなど、全ての思い出を込めて春木に一言を言った。
「大好きー」
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