第85話 他人の視線。−2
先輩たちは今日、生徒会の仕事が残っていて七瀬先輩と一緒に行く先輩とあいさつをして別れた。そのまま家に帰りたいけど注文したランニングマシンの配送が遅れているから、たまに部活でもやることにした。
放課後の部活、久しぶりの部室に康二と夕そして木上が揃っていた。いつもの部室だけど今日は武藤がいなかった、そう言えば最近相談部になったと言ったよな。
相談部…か…
「あー?春木!久しぶりー」
「ん。武藤は一緒じゃなかったのか。」
「恵ちゃんはねー最近よく来る先輩と相談してるって。」
「出張ってことか…?」
「そうかな…?」
何かぎこちない木上の話が気になる。
「忙しそうじゃんー」
椅子に座ってみんなと話をしていたら夕が先にこう話した。
「そう言えば木上は彼氏とか作らない?」
「か、彼氏ー?!えーそんなの無理無理!」
「なんで?木上もモテそうだけど…」
「違う…あ!私ちょっと外に行ってくる!」
頬を染めて急に用事を思い出した木上が部室を出た。なんかあったのか…木上、ちょっと顔色が変わった気がする。
って俺はなんで人の心配をしている…
「春木?どうした?」
「ん?いやなんでもない。ただちょっと…」
「…」
「どうしたのかよー二人とも。」
沈黙する康二と変な様子を見た俺、部活の中の空気が徐々に変わっていることが感じられた。特に康二が静かにいるのが一番ぎこちない、普段はけっこう話してザワザワするやつなのに今日は何も言わないまま席についているだけだった。
「今日、変だよ。静かだなー康二どうしたー?」
「いや…ただ…」
その時、ポケットから鳴いている携帯の振動が感じられた。
「二人ともごめん、俺ちょっと電話に出てくる。」
「おう。」
電話に出ていたのは知らない人からの電話番号、見覚えすらないこの番号が気になって部室を出て来た。
「加藤…」
電話の向こうから聞こえる力のない女の声、これはどこかで聞いたことがありそうな…じゃなくてこれ木上の声だった。
「あ…もしもし?」
「春木…」
「どうした?木上。」
「私はどんな顔をすればいい…?」
「え…一応なんの話か聞いていいか…?」
「今1階のベンチに座ってる。」
「分かった、今そこに行くから。」
悩みでもあるのか声に力がない木上もなかなか見られないから、即1階に下りてベンチがあるところに着いた。遠いところから見える二人の姿、一人は木上だとしたら…残りの一人は武藤ってことか。
隣に座っている武藤が俺を見つけて腕を振る、すぐそばに座っている木上の顔がすごく落ち込んでいて本当に何かあったと俺は確信した。
「なんだ…急に電話をして、本当に何かあったのか?」
「加藤さん…あのさやかさんの相談に乗ってくれませんか?」
「相談…?俺…話を聞くのは特技じゃないけど…そんな顔をしていると心配になるね。俺でも良ければ言ってくれない?」
とにかく、木上が落ち込んでいるのは心配になるから俺もその隣席に座って木上が話すまで待っていた。
その時、またポケットから鳴く携帯の振動。無視して今はこの雰囲気に乗ることを選んだ。
「実は康二のことが好きなんだ…」
…?なに?今なんって言った。
「そうか?」
康二のことが好きだと…前に聞いたことがあった気がする。いや、違う。なんで俺はそうだと思ってしまったのか、もしかして前に行った遊園地の時だったかもしれない。
6人で恋人ごっこ…それか。
「…どうしよう。康二もう彼女できちゃったよ。」
「さやかさん…」
「そんなに好きだったのか…知らなかった。」
「どうしよう…」
つい悲しそうな涙を流す木上、そして隣で背中を撫でている武藤がだんだん無口になっていた。俺は今まで佐々木先輩の話しか聞いていなかった、木上がここまで考えているなんて知らなかった。
ただの遊び、ただの友達じゃなかったのは…知らなかった。でもそれは俺が知らなければならないことだったのか、今の俺は心の中から佐々木先輩と康二を添わせたことに罪悪感を感じている。
俺はなぜこんなことをしているんだ。
前から心にかかること、無視しながら生きてきた俺が認められたくなかったこと。それは他人の視線を怖がっていたのだ。人にどう見られるいるのか、そしてどう思っているのか。答えを出せない他人に俺は自分も知らない何かを望んでいた。
人に気にしすぎたのはあの人たちじゃなくて、この俺だった…
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