第80話 指輪をくれた君。−3

 そしてまた続く学校の日々、そこには私が望んでいた幸せなんかいなかった。春木と会って、また雑談でもいいから学校にはいたくなかった。学校も息苦しい…

 

 学校が終わって、すぐあの川辺に向かって行った。遠いところから私の姿を見つけて走ってくる春木は喜ぶ顔で隣に座る。


「もう冬ですね…」

「うん、寒いよね?」

「学校で何かあったんですかー?元気なさそう…」

「え?そう見えた?大丈夫だよー」

「誰がいじめたら僕が守りますからね!」


 急に逞しい姿を見せる春木の笑顔がかわいい、恵ちゃんも同じ年なのにクールで落ち着く感じだったから小学生って全部こんな感じかな〜と思っていた。


「女の子って寒い時もスカートですね?」

「ん?なになに?女の子に興味あるの?」

「え…女の子か…僕は…」

「照れてるの?」

「女の子と話したことも武藤さんが初めてでちょっと…」

「じゃ私が初めてってことだよね?ふふふ…」

「はい…」


 なんでもないこの話に2時間が経ってしまった。もう家に帰らないと…


「今日も一緒に話してくれてありがとう、春木。」

「僕もこの時間は悪くないと思います。楽しいし。」

「そう?よかったねー私、今日は帰るからまたね!」

「はい!」


 そして帰り道、川辺を眺めていた。

 寒い風が吹く川辺が少し寂しく感じるのは私の心も寂しくなっていたことかな…家に帰ったら始まる勉強と父からの小言で毎日がしんどい、次に会社をつぐ人として話すことって私まだ中学生1年だよ。

 自分の話ばっかりで全ては私のためって言うけど、それは全部会社のための話だった。私の人生が息苦しいのは父の影響も多かった。中1まで私はなんのために生きているのか、ある日は一人で夜空を眺めながら否定的な考えをする夜もあった。


 いくらお金があっても、いくら可愛くても心はずっとずっと虚しいまま人生が終わるのが怖かった。

 私も恋がしたい、私も人が好きになりたい…と、思った時。


 私は人生最悪の人間関係に巻き込まれてしまった。


「武藤って彼氏いる?」


 一人でノートにメモする時、ある男の子が突然私に話をかけて来た。その人は3年の川島と言う人だった、噂でクラスの女子がカッコイイとかそんな話をした覚えがあった。


「いないです。」

「じゃ俺と付き合う?」

「お断りします。」

「な、なんで?俺のどこが気に入らないかな…?」

「気にいるかいらないかの問題ではありません、別に彼氏とかいらないです。」


 私も実は彼氏が欲しい、でもこんな出会いは好きじゃなかった。ただ「付き合う?」って言われて「はい。」と答えるくだらないことじゃなくて、本当に心が惹かれる人が欲しかった。


 川島の告白を断る瞬間からクラスの中からクラスメイトたちがざわめいた。

 拳を握って、1年のクラスで恥をかいた悔しさを我慢しながら友達とクラスを出て行った。その時はまだ私がひどい目に遭うとは思わなかった。普段の通りに断って面倒臭いことを避けたかっただけ、別に悪い話じゃなかった。


 春木に会いたい…私の話を聞いてほしい…

 

 それからクラスの女子が変な目で私を睨むことが増えた。こそこそ話す女子たちの話には「生意気」とか「ちょっと綺麗だけ」とか、要するに私のことがすごく嫌ってことだった。

 そんなにカッコイイ人が欲しいなら自分から告った方がいいんじゃない…?なんで自分から告ることもためらうくせに他人の悪口をするのかな、私は知らなかった。


「武藤春日はいるか!」


 ある日、3年の先輩が扉を開けて声を上げた。


「ちょっと用事があってね?」


 平手で机を打ち降ろした人はすごくイラついた表情をして私を見下した。


「なんの用ですか?」

「ここから話すのはちょっと人目が多いから、ついてきて。」


 用事ってこれだったかな…

 ひとあとが少ない学校の後ろに女子先輩の群れに囲まれて私を脅かした。


 まずは私の頬を平手で殴った先輩が大声で話した。


「なんで川島がお前なんかに告ったんだ!」

「1年のくせに生意気すぎるよね?ヒナ?」

「私…彼のことが好きだったのになんでだよ!なんで…」


 何も言えずに私は先輩たちの前で立っていた。腹いせで私を倒した一人の先輩が頭と体そして脚まで容赦なくぶん殴った、残りの二人が雰囲気に乗って悪口をしながら足で体を蹴っていた。


「お前みたいな人にはこんなことが似合うよね?この泥棒猫が!」

「そうね?」

「くそ、ただちょっと綺麗って言われただけで調子に乗って…!」


 もうやめて、痛い…

 頭も体も痛い…

 蹴られたところがとても痛くて涙が出てしまう。


「ヒナ!こいつ動かないよ…」

「まじ?」

「これやばくない?早く逃げよう!」


 3人に殴られた春日の体にはあちこち痣ができて、口から血を流していた。倒れたまま、悔しがる春日の目から涙が潤んでいた。


 私は悪くないのに…なんで…


「お嬢様…!」

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