第74話 油断して風邪をひいてしまった。
あの体育祭から俺は自分の可能性を見通した、ひょっとしたらいけるかもしれない小さい希望に心が浮かれていた。足さえ動ければ夢を諦めることなんてしないのにな…でも最近は本当に不思議だと思うくらいに平気だった。
そして心の中で引っかかる一つ、それは今まで隠していた部屋の中だった。白い布で覆われた俺の部屋はベッド以外に全部白く見えている、退院してからもう見たくないと思って全部捨てようとしたけど、どうしても捨てることができなかった俺の選択だった。
「これをまた見られるとは…」
布を取り除いた所には小学から中学までの足跡が残っていた。メダルや賞状などが片付いて、俺の人生が見られる瞬間でちょっと変な気分だった。
「ずいぶん頑張ったな…昔の俺は。」
ぼーっとして見つめながら目立つ何かに目を取られてしまった。月明かりに照らされた所に置いていた一つの指輪、どこかで見た覚えがある指輪だった。
銀色で細い指輪…俺はこれをどこから見ただろう…
「はくしょー!」
くしゃみ…?
その次は体がぞくぞくと寒気を感じていた。風邪…?そんなはずないよな…健康食を食べて毎日こつこつと運動をしているのに風邪なんかひくわけない。
目眩もするし、なんで今…
そういうわけで暖かい牛乳を飲んだ俺はすぐにベッドに入った。明日起きた時、風邪をひかないように…
…そして次の朝。
「はくしょー!」
ま、まずい…本当に風邪をひいてしまった。布団の中にいるのに体が寒くて動きが鈍くなってきた、頭も重たいし…いけない学校に行かないと。
「は…時間、そういえば今何時…?」
携帯を見た時、俺はもはやダメだったことを認めてしまった。
時間は…「AM11:29」
先生からの電話が9通、先輩からのメールが2通でその後は康二と他の友達が送ってきた。
一応先生に報告するため電話をかける。
「どこだ。」
普通はもしもしじゃないのか…
「家です…」
「いつまで寝てるつもりだ。」
「え…今日は無理です先生…」
「なんでだ。」
「風邪をひいちゃって…起きるのも大変です。」
「熱は?」
「39.2です…」
「はあ…分かった。なら病院に行って明日また連絡しろ。」
「ありがとう…香ちゃん…」
「元気だなー明日来たらつぶすぞ。」
「へーじゃ寝ます…今日も頑張って…く…」
そのまま寝てしまった春木。
「電話したまま寝てしまったのか、このアホが…。ゆっくりと休め。」
暖かい…夢の中で暖かい餅がふわふわしていたはずだけど体のあちこちが冷えてきてびくびく震えていた。目を覚めた時にぼやけて見える部屋で少しずつ息をはいていた。
「さむ…」
「ハル、寒い?」
「まだ夢の中かー先輩が見える…不思議だなー」
「夢じゃないよ?」
「先輩…?」
目の前に先輩がいる、なんで…?
頭の熱のせいか、目を開けれいられない俺は目を閉じて先輩の声だけを聞いていた。隣で俺を見ているかな…先輩に風邪が移るかもしれないのになんでうちに来たのか…
「帰ってください…風邪をひきますよ。はあ…」
俺の頭に手を置いて熱を計った先輩はそのまま布団の中に手を入れて体を触る。上半身をゆっくりと撫でて、骨盤まで下がる先輩の手を感じた。
「先輩…どこまで行くんですか…」
「あっ!いやいや、そんなんじゃないよ!」
「帰ってください…一人でも大丈夫です。」
「強がってんの?」
「なんで来ました…学校は…」
「学校は終わってるよ、それでハルが今日風邪をひいたって今井先生に言われたからね。」
「あの先生を知ってましたか…」
先輩と話しているうちに目が覚めてしまった。目の前にすぐ先輩の顔が見えて反射的に先輩の目を逸らして体を回した。
「なんで目を合わせない?」
「近いですよ…」
「それと二人きりの時はため口って言ったのに…」
「風邪が移るって言ったよー怒られたい?」
「怒る力は残ってるー?へへー」
そう言った先輩は俺の上に乗ってニヤニヤする顔で見下した。制服を着たままうちに来てくれたのか、てか先輩はすごく軽いな…160センチはそうなんだ。
って、俺は何を感心するのかよ。
「下りて…」
「風邪をひいたハルは弱い!やりたかったこと全部やりたい!」
「なんか怖いけど…春日。」
「今日は私も泊まるからご飯と薬をちゃんと食べてね。」
「一緒?なに?なぜ?春日?」
「看病しないと、ハル明日出られないじゃん…」
「ありがとう…てかどいて…起きられない…」
「いやー!」
布団の中に入った先輩はそばから抱きついてく来た。
「マスクをかけてよかった…バカ春日だったら絶対こうすると思ったから…」
「誰がバカなのよー」
「ふと思ったけど、春日ってなんでそこまで俺を好きになる?」
「…なんとなく惚れたー!へへー」
そう言えば、布を取り除いた時に見た指輪…先輩も同じものを持ってたよな。
「春日、前に見せてくれた指輪。今持ってる?」
「うん、どうしたの?」
「見せてくれる?」
「ネックレスにして首に付けてるの、でもこの姿勢じゃ取れないからハルが取り出して!」
だよな…抱きついてるから手を使わないよな…しかもネックレスだったらあそこに手を入れないといかないってことだろう。
ちらっと見ると首につけたネックレスが見えてくる、右手で先輩の首からゆっくりと指輪があるところまで撫でてみた。
確かにここら辺にありそうだったけど、もっと深く入れないと届かないのか…
「あっ…」
手先から感じられる先輩の胸、その感触が柔らかくてとても暖かった。それを少し感じたのか、そばから見える先輩の顔は真っ赤になって照れていた。
「ごめん、触った…?」
「いや…ハルの手が冷たくて…」
「ごめん、引っ張った方がいいかも…」
その間、抱きつくふりをしてひそかに俺の肌を触る。背中と腹、胸に先輩の暖かい手がゆっくりとあちこちを触っていた。
強いて無視しても先輩から触られるこの感覚はどうしても耐えられなかった。先輩は夜になったらやばくなるタイプ、そばからこの顔を見ると一人ですでに盛り上がっている様子だった。
「…なんかエロい気分がするけど春日。」
「こうするのがいい〜」
我慢して、耐えていても顔と体が火照る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます