第67話 体育祭。−3

 先輩との休憩時間、走りの準備は少しかかりそうだった。その間生徒会室に置いてきた先輩の服を取るため、俺たちは学校の中に入っていた。


「春日らしくないなー服を忘れるなんて。」

「忘れたかった…」


 先輩は半泣きになって服から目を逸らした。


「なんで?」

「だってこの服…小さくて体にぴちっと合うから…恥ずかしいよ。」

「…」


 ぴちっと…

 

「痛っ!」


 拗ねた顔で俺の後頭部を叩く先輩。


「今絶対変な想像したよね!」

「…全然。」

「そう?あっち見て、着替えるから…」

「出た方がいいかな、着替えが終わったら呼んで〜」

「そこにいて!すぐ着替えるから…」

「はい…」


 生徒会室の扉を見つめながらぼーっとした俺は本当にくだらないことを先輩に聞いた。実は聞かなくても知っていることだけど、なんかこうして先輩の答えを聞くのが好きだった。いつか取られる可能性を常に考えている情けない俺、なんで変なことを考えているのか俺は…!


 心の中からすごく叫んでいる。

 だって…こんなにモテる人が隣にいるから…仕方がない。


「春日ってなんで俺みたいな人を選んだ?」

「もう…変な質問してる。」

「…」

「なんでそう思うの?」

「春日のその格好を他人に見られたら、取られると思って…」

「バカー」


 チアガールの衣装が先輩とすごく似合って、つい目を逸らしてしまった。衣装を着た先輩のボディーラインがはっきり見えるのが悪いんだ…本当にこんな服を着て応援とかするのか逆に心配になった。

 その後、髪型もポニテから団子頭に変えて先輩の可愛さがさらに爆発した。


「かわいいよー本当に!」

「ハルがそう言うなら嬉しい…」


『…皆さん、運動場に集めてください…、…。』


 いよいよ、走りの番が来た。

 校内放送で流れる先生の声を聞いた俺は心から準備をしていた。


「あ、もう休憩時間終わったなー」

「うん、そうね。」


 生徒会室の扉を開ける瞬間、後ろから俺の肩を掴んだ先輩が自分の方に俺の体を回して言った。


「待って!」

「うん?」


 あっと言う間に俺の口に先輩の唇がついていた。静かな生徒会室、誰もこない二人きりの空間…先輩はチアガールの衣装を着たまま俺を抱きしめてくれた。


「…なんですか、急に。」

「ちょっと動かないでよ…」


 まだ日が高いのに俺たち生徒会室で何をしているんだろう…でも先輩の唇がとても気持ちよくて、ダメだと考えても体は素直に先輩のことを受け入れていた。

 耳元から聞こえてくる先輩の喘ぎ声が体の感覚を刺激して、夢中になってしまった。

 校内放送が流れて3分くらい、先輩の顔が真っ赤になって見てる俺が恥ずかしくなるほどのキスだった。


「な、何を…もう戻らないといけないのに…恥ずかしくて顔が熱くなった。」

「味わいがある…!」

「今はそうじゃない…」


 そして生徒会室を出る前に先輩はこの一言を残した。


「ハルーずっとそばにいるから変な考えをしちゃダメだよ?」

「は、はい…」


 ……

 そして旗を持って運動場の真ん中に集めた3年のチーム『南』。


「さあー!いっくよー!」

「おう!!!!」


 チーム『南』の応援の中、大勢の男性が先輩を見て叫ぶ、これは恐ろしいほどの叫びだった。

 チアリーダーの応援演技が始まって、女の先輩たちの明るい声が運動場に響いた。そしてアイドルを見たような勢いで応援演技が終わるまで彼らの叫びは止まらなかった。


 恥ずかしくないのかよ…みんな…

 隣の人に構わず叫んで自分の思いを伝えること、そして人にそこまで熱狂するのが苦手な俺だった。


「愛してる!!!!!先輩たち!!!」


 おい…康二…

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