第66話 体育祭。−2

「はいはい〜みんなここにTシャツを置いておくからサイズ合うやつでちゃんと選べよ〜」


 委員長とクラスメイトたちが持ってきたチームのTシャツをもらったらなんか本格的な感じがした。中学3年の時は入院して参加できなかったけど今度は友達と一緒に体育祭をすることになった、いけないワクワクしてきた。

 種目もほぼ決められた状況で、いよいよ体育祭が始まる。全校生が運動場に出て席を作っていると隣の夕がため息をついた。


「具合が悪いのか?」

「いや…なんか…にぎやかで…」

「ん?」

「夕って体育祭苦手だった?」


 椅子を持ってくる康二が平手で夕の背中を叩いた。


「元気出して〜」

「うん…」


 運動場に出た俺はシャツを持っていたまま着るのを忘れて、急いで着たけど…


「なんかシャツを着てみたけど…これで合って…る?」

「春木…」


 なんだ。康二のあのバカを見ているような顔は…


「高校生になって前後も見分けできないのかよ…」

「…」

「なんだその目…」


 俺は後ろでシャツを着ている夕を指した。そこを振り向いた康二の目には夕も俺と同じのようにシャツを逆に着ていた。


「おい!お前ら!それは逆だぞ!」


 しばらくの間、人々は運動場に集めて生徒会長の開幕宣言を待っていた。全学年が準備を済ませたところで、先輩は壇上に上がった。


「みなさん、こんにちは。今日は晴れ渡り気持ちの良い天気になりました。………、ご声援よろしくお願い致します!」


「おう!!!!!!」


 先輩の開幕宣言が終わり、本格的な体育祭が始まった。


「なんでだー!!!!!」

「ど、どうした!夕!」

「初めてから団体種目かー!」

「まぁー高山は昔から走りだけに本気だったからなー、だから走りの種目も後ろに配置されてるし…その前は1年から3年の団体種目ってことだ。」

「行ってこい〜夕!」


 隣の康二が夕に元気をつけてあげた。


「そう言っても康二…団体戦は俺たち全員が出るもんこのになってる…」


 体育祭の前に準備体操を済ませた俺たちはさっさと大縄飛びに参加した。普段はめちゃ元気だった夕が体育祭になったらふにゃふにゃして、何を考えているのか分からなくなった。


 大縄飛び…

 玉入れ…

 綱引き…


 ぶつぶつ言ってるけど、やればきちんとやってるみんなの姿を見て、俺たちも頑張ってやろうとした。綱引きの時は他のクラスと真っ向勝負をする気がして雰囲気がだんだん盛り上がっていた。


「引っ張れー!」

「よいっしゃ!」


 向こうから武藤と木上の姿が見られて、康二に教えてあげたらなぜかもっと力を入れる康二だった。


「行けぇー!」

「康二、楽しんでるな。」

「へー」


 先輩も参加した団体戦、俺は他の人より先輩のことだけ見つめていた。小さい体で頑張るところがすごくカッコよくて、つい声が出てしまった。


「春日!頑張れー!」


 声が届いたのか、先輩は俺を向いて笑ってくれた。


「うん?」

「あ…」

「お前、生徒会長のことを…見ていたのかよ!うちのクラスの応援をしろ!!!!!!」


 と、康二に叱られた。


 団体種目が先に行われ、北と南の差があんまり出ていなかった。


 210vs190。


「2年と3年の先輩もなかなかやるな!」

「お前だけ頑張ればいいんだよ…夕!負けてんじゃねぇかよ!」

「痛っ!」


 次の種目は100メートル、俺が本気で出す時が来た。その前に少し休憩時間をとるため、学校中を歩き回していた。

 同時に先輩からのメールが届いて3年生が集まっている場所に来た。


「あれー!春木〜」

「七瀬…先輩…」

「何?その反応は?」

「え…」


 この先輩はけっこう苦手だよな…前にあったことを思い出したら急にここから離れたくなった。

 女の先輩はなんとなく怖い…


「へー?この子?春日の彼氏って。」

「そうだよ?」

「イケメンじゃん〜」

「だよね?春木をこっそりもらってもいいかなー!」

「え…」

「かわいいねー春木くん。」

「春日がいないうちに!なんとかしてみるか!」

「は?せ、先輩?」


 七瀬先輩と他の先輩たちが俺をからかっている時、ちょうど先輩が現れた。片手に旗を持っていた先輩は後で行う応援団演技の準備をしている様子だった。


「はる…じゃなくて武藤先輩…」

「うん〜ハルー!」

「なんか頑張ってますね?カッコいいです。」

「カッコいい…?」

「はい。」

「嬉しい!私のハルはいつもカッコいい!!」

「…!」


 外でこう言われたらなんか恥ずかしくて何を言えばいいか分からない…


「うん〜かわいいね〜」


 先輩が笑顔で俺の頭を撫でてくると、隣の七瀬先輩たちが拗ねた顔で俺たちを見つめた。その視線があまりにも強くて意識したくないけど、感じられてしまう。


「あ?春日。」

「うん?何?」

「頭に埃がついてる。」


 ポニテをしている先輩の頭についていた大きな埃を払って、こっちから頭を撫でてあげた。

 

「もうなんなのよ…なでなでしたかったから嘘ついたでしょ!」

「バレた〜」

「バカ。」


 隣でこの状況を見ていた七瀬先輩が真顔でこう言った。


「二人とも死んでもらえば幸せになるかも。」


 美也から背を向けていた春木の後ろでこっそり『ベー』する春日。


「春日!!!!!」

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