第37話 失われた記憶の欠片。−3
友達と一緒でどこかに行く約束、俺にもこんな日が来るなんて知らなかった。病院の中で外を眺めたり、先輩が押してくれる車椅子で見上げる空だけが俺にとって「一緒」ってことだった。
それからずっと先輩がいてくれて…今までいてくれて…今の俺がいる。
急に避けられたらどうすればいいのか分からなかった。
先輩…今日は会えるかな、いつもの通りになるはずだった先輩との込み上げてくる記憶が心の中から俺を精神的に困らせていた。
授業…つまらない、この時間はいつ終わるんだろう。黒板を見ても分かる内容ばかりだったからその後は机でうつ伏せに寝た。
「春木!」
「うん…」
「おい…もう授業終わったぞ。」
康二が俺を起こしてくれた。もう帰り時間か…
「あ!」
先輩に会いに行くことを忘れちゃった。
「ごめん、康二。先に用事があって。」
「お、おう…」
4階、4階…また帰ってないよな、先輩まだ生徒会室にいますように…
俺は急いで階段を上がる時、一度携帯を確認した。もし先輩からメールが届いたかもしれないから…けれど俺は届いてないことを知ったはずなのにあえてメールを確認していた。
新着メール 0件。
「やはりないな…」
てか、生徒会室まで来たけどノックする勇気が出なかった。
「あれー春木だー!」
ノックもする前に開けられた扉の中から七瀬先輩が出て来る、びっくりして体が固まるうちに先輩から話をかけてくれた。今日はなんかの書類を書いている様子で先輩は眼鏡をつけていた。
「今日は眼鏡ですね。」
「うん、似合う?」
「似合います。」
「本当ー?」
「はい…」
いつもテンション高い七瀬先輩、常に笑顔を見せてくれる先輩を見たらなぜか気持ちよくなる、これがテンションが上がるって感じかな。
「会長に会いに来たー?うん?」
「はい…一応そうなんでけど…」
「会長、今日はまだ来てないけど中で待ってみ?」
携帯の時間を確認して先輩を待つことにした。
「じゃ…失礼します…」
「うん!入ってー」
生徒会室に入って見たのは初めてだ。すごい武藤先輩の机が真正面に置いている、武藤先輩の席を見つめながら席に座って、扉を閉じた七瀬先輩は俺のためにお茶を入れくれた。
「少しお話ししようか?会長はいろいろやってるから時間かかちゃうかもね。」
「はい…」
「はいーどうぞ。」
「ありがとうございます。」
紅茶、先輩の好きなものかな…いけないまた先輩のことを思い出しちゃった。七瀬先輩は前に足を組んで座ってる、ポケットから携帯を確認した後、机に置いたまま話を始めた。
最近、人と話す回数が増えたな、俺。
前には避けてばかりだったのに…俺も俺が人とこう話せるとは思わなかった。
「え…先輩はいつ戻りますか?」
「うん…メール来ないねー会長は返事が遅いから…」
「そうですね…朝から送ったメールの返事もまだです…」
「春木も…?」
「最近はそうです。無視されています。どこか嫌われたのかは分からないんですけど…いろいろ確かめたかったから生徒会室に来ました。」
「春木…優しい人だね…」
前にいた七瀬先輩が隣に来て、俺の頭を撫でてくれた。俺は先輩の顔を見つめながら何も言えなかった。なんか武藤先輩も七瀬先輩も話し方と顔も全部違うけど優しいところは同じだった。生徒会の人たちはもともとこう優しいのか…じゃ俺も先輩から優しくしてもらっただけなのか…
変な勘違いをしていた。
「よしよし…」
なんだろう、この状況…
「いいです…恥ずかしいから、もういいです。」
「へー照れてるの?女の先輩から撫でてもらったから照れたよね?」
「違います!恥ずかしいだけです。」
「かわいいねー会長がなぜそう言ったのか少しは分かる気がする。」
「先輩が?」
「うん。」
「なんと言いましたか?」
「会長のバカはねーいつも…春木の話ばかりだし、好きって感じよねそれは。」
「そうですか…でも先輩は俺のことを好きになれないと思いますし…」
なんだ、俺何を言ったんだ。
心にもない言葉がつい口に出してしまった。
「なんで?」
「確かに大切な人なんですけど、俺と先輩は…釣り合わなくないんですか…」
やめてほしい、何を口に出すのか…早くここから出ていかないと本当に人を傷つける言葉が出てしまうかもしれない。
クソ、バカ春木。
「え?そんなことないよ。」
「そうですか…」
「なんでそう思う?最近避けられてるから?」
「2週も…会ってないんです。」
「春木も会長のことが好きだよね?」
言葉が出てこない、好きって言ってもいいなのか俺は…この状況で副会長の七瀬先輩にこんなことを言っても大丈夫なのか本当。
「なんで答えないの?」
近い、顔が近い七瀬先輩。
「いや…よく分かりません…」
「会長のことがあんまり好きじゃなかったなら、私と付き合って見る?」
「え?」
「幸せにしてあげるからね、先輩は彼氏にもっと優しいよ?」
七瀬先輩は左手が俺の肩に乗せて話した。
「告ったん…です…?」
「うん、春木は可愛くてイケメンだし気に入ったよ。髪で顔を隠しても私には全部見えるから無駄だよ。」
七瀬先輩が俺の前髪を上げてもっと近づいた。縮まる二人の距離、先輩がどんどん近づくと震える俺の体は何もできずに先輩を向いていた。
意識と体が別物のように感じられる。
「否定しないよね…?可愛いー。」
「…」
「春木〜も〜らった!」
先輩の顔が近くなって緊張した俺はそのまま目を閉じてしまった。
チュー。
ん?
頬に伝わる唇の感触。
あ、何してんの俺…何この状況…
それと同時に生徒会室の外から分からない物が倒れる音が大きく響いた。
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