第36話 失われた記憶の欠片。−2

 え…じゃ先輩のあの時の女の子だったのか、こんなに近いところにいたけど俺はなぜ気づかなかったんだろう。

 お守りをくれたのは武藤じゃなくて先輩だったってわけか…でもなぜ言ってくれないんだ。俺から言ってなかったこともあるけど知らなかったし、そんなの普通だったら思い出させてくれることだろう。

 最近は先輩の様子も変だし、俺から確かめて見よう。


「何…その反応。」

「いや…なんか珍しいっていうか…」

「そうかしら…」


 よそよそしい二人の関係をさすがに言えないだろう。母には分からない状況だから俺の悩みなどを言えるわけがない。


「それはそうとして、春日ちゃんと上手くいってないの?」


 俺のジャガイモよ、食いたかったのは本心だった。ごめん、2度も落としちゃった。


「本当…もったいないー」

「なんで分かる…」

「反応と顔を見ればなんとなくねー?」

「怖っ…」

「へー春木はあの子が好きだよねー?」

「…え、分からない。」

「顔は素直なのに口は素直じゃないね。」


 笑顔でご飯を食べている母。


「好きなら、好きって言いなさいよ。取られたら確実に部屋に引きこもって泣くんでしょう?」


 白いご飯が進むおかずばっかりの朝ご飯だが、母の一言で食欲が消えてしまった。なんでだろう、先輩が俺に嫌いって言ったわけでもないのに、心に残っている心配ってかたまりがどんどん大きくなりそうだった。


「部屋も閉ざされたまま、お母さんは明日北海道に帰るから春木がイキイキしないと困るわ〜」

「さっきの発言でやる気がなくなりました。ありがとうございます。」

「はいーご飯を食べなさい。」


 母に膝を蹴られて久しぶりの家族食事が終わった。夜が深くなり、せっかく会えた母は明日すぐ行かないとスケジュールに合わせないから軽いあいさつをした後、部屋で横たわる。

 

 朝になった時、母はもう北海道に帰った後だった。食卓には一つのメモと朝ごはんが置いていてご飯を食べながら母のメモを読んだ。


『迷わず、行って。』


 え…?これだけ?母はコメント一つ残して行っちゃった。

 

「何これ…確かにお母さんも俺も長く言えるのが下手だったよな。結果だけを口に出すくせってこんなものだったんだ。」


 でも、母が言いたかったものは大体分かっていた。俺の家族だからなんとなく分かる気がするのはなぜかな…

 学校に行くために制服を出して準備をした。

 そして前に見つかったお守りをブレザーのポケットから取り出した。不意にそこで不思議なことを見つかった、それはお守りが最初からこんなものではなかったってことだった。

 今のお守りは何かに汚れている形で半分くらいが黒くなっている。


「なんだろうな、これは。」


 いけない、昔に何があったか全然覚えてない…やはり母にもっと聞いた方がよかったのか。

 ぼーっとしてお守りを見つめた俺はこれを確かめるために先輩にメールを送ることにした。


 発信者、加藤春木。

 『先輩、今日ちょっとお話できますか?生徒会室の前で待ちます。』


 え…なんかすごい文章ができると思ったけどやっぱり大事な話は口で言うのが一番いいものだ。

 その後、携帯をポケットの中に入れて学校に行った。授業が終わるまで我慢してて武藤先輩があの時の女の子ですかって、それを聞くだけだ。


 そう一人で思い切っている時に後ろから夕の声が聞こえた。


「よっす、春木。」

「夕、おはよう。」


 なんだこのニヤニヤする顔は。


「これを見てくれぇー!」


 後ろで何かを出して自信満々の顔でチケットみたいなものを俺に見せた。


「遊園地のチケットだぜ!それがなんと6枚!ネットの景品に当たった!」

「おめでとう…」

「じゃない!」

「え…」

「行こう!6人で遊園地に!」


 夕、すごく盛り上がっている。遊園地って言っても俺は遊園地に行ったことないし、ネットでしか見たことがない場所。


「行こうよ、春木。」


 康二がカバンを席に投げてこっちに来た。


「じゃ3人で2回行くことかな…」

「いけないぞ、春木よ…」


 夕が俺の肩に手を乗せた後、情けないって表情をしてため息を出した。だって普通はそう思うだろう、俺は友達いないし、誘える人も全くないからな。


「春木よ…青春がないぞ!春木よ!」

「…ごめん、何が言いたいのかさっぱり分からない。」


 康二が隣の椅子に座って話しかけた。


「昨日、読書部入ったからさ。武藤と木上もいるだろう…?」

「それはそうだけど…5人だな。確かにこれならいけそうだ。」

「これでトリプルデートの完成だ!」


 盛り上がる夕が叫ぶ。


「何それ…」

「夕って彼女いるからさ、6人でトリプルデートしたいって…」

「ハハーそうか!じゃ俺は降りるから!みんなお楽し…」

「どこ行くんだ!春木!」


 夕に手首を掴まれた。


「み…」

「それともう二人に言っておいたから逃げ道はないぞ!」


 トリプルデート…二人一組で遊園地を歩き回るってことか、女と遊園地…か。今はそうするところじゃないけど友達と遊園地に行くのも初めてだから少しはドキドキしているかも…

 友達と遊園地か…俺は心の底からなんとなく期待をしていた。


「分かった…行こう。」

「それじゃー!今週の土曜日!金山駅で全員集まれ!」

「はいはい…」

「楽しみだねー」


 一度だけはいいだろう、思い出作りだ。

 そう、思い出。

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