第27話 初めて行く先輩の家。−5

「服を着替えるから居間で待ってね!」

「はい〜」


 先輩が服を着替える時にもう一度、鏡を見た。首に付けられたキスマークが赤裸々に見えて損した。


「ばんそうこう…どこにあるかな…」


 …

 あちこちで引き出しの中をゴソゴソ探した。


「どこにもなーいよー。」

「え…」

「早く出してください!」

「そのままでいいじゃんー私の物!」


 着替えた先輩が俺に飛び込んで首を触る。


「物…ですか…」

「うん。物!」

「はいはい…行きましょう。」

「うん!」


 俺の服に合わせてくれたのか、黒いワンピースを着た先輩からシックな女性美が溢れたいた。普段はこんな風に見えないけど、先輩って意外にシックなファッションも似合うな…てっきり可愛い服を選ぶと思った。


「どー?似合うのかな?」


 160センチからこんな雰囲気が出るなんて…私服を着た先輩を見たら学校の男子に次々告られるかもしれない。

 黒いスラックスとシャツを着て、先輩と鏡の前に並んでいたら本当に恋人っぽい感じがした。


「何考えているの?」

「な、なんでもないです。」

「どうって聞いてるのよ!」

「何がですか?」

「服に決まってるじゃん!」

「痛っ…!」


 脛を蹴られた。


「行こう!」


 REONは先輩の家からけっこ離れている。

 先輩の家から俺の家まで行って、そこから10分くらいもっと歩いたら出る距離だった。合わせて3〜40分くらいで俺たちは歩いて行くことにした。

 二人で話しながら歩ければすぐ着くだろう。


「先輩、服が似合いますね。」

「でしょー?」


 ニヤニヤする先輩の顔…


「春木も今日は格好いいね。」

「うん…これは普通…ですけど。」

「え?学校ではこんな髪型とかやってくれないじゃん。」


 赤い信号に変わった信号灯の前で待ちながら話しを続けた。


「別に誰のためにしたくないんですけど…友達もいないし、そこにこだわっていないし。」

「髪型も私服も好きよ、格好いい。」

「そうですか…」

「私といる時にはそうしてね。」

「次はないです。」

「え…!」

「信号、変わりましたよ。」


 なんとなくREONの前まで来てしまった。


「もうREONなの?早いね…」

「時間は30分くらいかかりました。話に夢中になったかもしれませんね。」

「そうね。ね、春木は夕飯何が食べたい?」

「なんでもいいです。」


 REONの入り口からカートを取ってきた俺に腕組みをしてくる先輩は人差し指で野菜コーナーを指した。


「あっち行こう!」

「ん?なんですか?これは…?」

「うるさい、黙って!行こう!」

「はい…」


 先輩が野菜を選んでいる姿をそばから静かに見ていた。邪魔になる横髪を耳の後ろにかけて取った野菜をカートの中に入れる。


「武藤?」


 名前を呼んでこっちに近づく高校生くらいの男性は笑顔を見せて先輩に話しかけてくる。

 見た目ではけっこモテそうな人だった。


「武藤…?」


 答えない先輩は野菜だけ見ている。


「あのさ、武藤!」

「うん?春木?」

「いいえ、隣の人なんです。」

「誰?」


 男は俺のことを完全に無視していた。それより目を合わせることすらしなかった、ちらっと見たはずだけど最初からこの場にいない人のようにしかとした。

 ため口で言っていることで先輩の同級生だと気づいた。


「俺だよ、川田だ。川田正樹かわだまさき。」

「そう?」


 冷たい答えだ。


「あのさ、彼氏まだないよな?」

「それがあんたとどんな関係がある?」

「俺さ!まだ武藤のことを…」

「興味ないし、今忙しいからどいて。」

「話くらいは聞いてくれ!武藤!」

「は?面倒臭い。」


 ある意味ですごいな…

 俺のことをここまで無視してるのか、隣でいることで普通は気になると思ったけど、この人の目には先輩しか見えないようだ。


「春木!あっち行こう!」


「お前は誰だ。」


 先輩について行く俺に聞く川田。


「今、行きます!」


 しかとした。


「おい!」


 答える義務もないし、そんな人が一番嫌いだ。自分は偉いって雰囲気を出して周りの人間を無視することが何回もあったそうな性格。


「お前!」

 

 後ろについて俺に話をかける川田の顔から少しの苛立ちを感じた。


「なんですか。」

「お前、武藤のなんだ。」


 今更、俺に気づいたのかこのクソ高校生が。


「答える義務はないです。では忙しいから、行きます。」

「おい!」


 声を上げた。

 手を出して俺の肩を掴む川田にムカついた俺はそのまま手首を強く掴んだ。


「お前…何者だ。」

「初対面の人に手を出すのか、は?」

「俺は武藤の…彼…」


 話なんか聞きたくないからもっと力を入れた。


「あ、そうか。」

「放せ…」

「失せろ。」


 川田の手を放して先輩を探した。

 向こうから先輩が俺に手を振ることを気づいて急いでカートを引いた。


「はいはい、行きます。」


 川田の顔は見てないけど、すごく睨まれている感覚はしっかり伝わっていた。

 先輩の元彼ってことか、もしくは好きだったとかそう言う関係か…でもそれじゃアウトだ。


 生意気すぎる。


 後、キスマークこれはどうしないと…恥ずかしいな。

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