第25話 初めて行く先輩の家。−3

「この部屋ちょっと暗くないですか?いや、それより先輩すら見えないんです。」


 部屋の扉を閉じたら何も見えなくなった。映画を見る前にどこに何が置いているのか、俺の目では見られない。

 周りが暗いからミスしたら変なことになるかもしれない状況だ。これは…


「うん?ここにいるよ。」

「ここって…言っても本当に見えないんです…」

「そう?こっち!」


 下から先輩の手が俺を引っ張る。


「どこから出た…」

「何、びっくりしてるの?」

「え…暗いところは苦手で…」

「大丈夫よ!私、何もしないから!」


 狭い部屋、暗い部屋、そして二人きりの空間、何も見えないこの部屋で二人はくっついていた。

 フワフワするこの感じは先輩のベッドかな、手先から布団の手触りが感じられた。


「先輩、それって普通は男から言うものでは…?」

「えー知らない。映画見よう!準備できたから。」

「はい。」


 俺は先輩のベッドでホラー映画を見る。

 悪魔に喰われた人間がなんか本当にいるのか、疑問を抱きながら映画を見ていた。論理的に、現実を否定するための考えをする。

 真面目に見たらひくかもしれない…


 ギャアー!!!!

 映画の主人公が急に悪霊と会って悲鳴を上げた。


「ああああ!!!」


 し、心臓。ごめん…俺、た、耐えられなかった。


「…」


 先輩が隣にいるのに、男としてこんなにびびったらダメだろう。先輩のことを見られない…

 恥ずっ。


「ギャアー」

「…!」


 今度は先輩が驚いて、つい俺もびっくりしちゃった。


「何、驚いているの…」

「それは先輩も同じじゃないですか!」

「春木があまりにも驚くから、少しいたずらしたかった。」

「…いや、それは。」

「怖いのが苦手なんだね?」


 言われた。


「わざわざ…そんなことやめてください…」

「かわいいじゃん〜」

 

 ギャア!!!!!!!

 悪霊に喰われた人が主人公の恋人を刺すシーン。


「わぁー!!!び、び、び、びっくりした…」


 本当に驚いた俺はそのままベッドに横になって腕で目を隠し、心を抑えた。どうせCGとか想像したものだけなのになんでこんなに怖いんだ。

 雰囲気が怖いって言うか、幽霊の姿が怖いって言うか、先輩もいるから色々緊張したかもしれない。


「ごめん…そんなに怖かったの?」

「いいえ…すみません。怖がりで…」

「いいよ、私がごめん。他の映画を持ってきた方がよかった。」

「だいじょ…ぶ…」


 そう言う先輩が俺の隣で横にした。


「先輩…?」

「バカが怖がるから映画見たくない。」

「え…すみません。」


 先輩がモニターの電源を切って俺の隣に来た。部屋は再び真っ黒になって何も見えなくなった。


「フン…」


 手を伸ばしても微かに見えるだけで…ぼーっとしていた。

 先輩の人けは感じられるけど先輩が何をしているのかは分からなかった。てか何も見えないこの部屋で何ができる…

 ひとまずこの部屋から出ようか。


「居間に行きましょう、先輩。」

「春木。」


 俺が起きた時に後ろから裾を掴む先輩がベッドに引っ張る。


「先輩…?ここは暗いから居間でやりましょう。」

「やるならここがいいよ。」

「え…?」


 先輩は手で俺の体を少しずつ触っていた。真っ黒だから何も見えないけど先輩は俺のことを見ているような気がした。俺とくっついている感触があるからこっちを向いているだろう。


「ちょっと先輩…手が…」

「泣き虫、弱虫で…バカ。」

「ひどい…です。」

「バカ。」

「すみません…」

「何を謝るの?本当にバカ。」

「…」


 上衣の中に手を入れて俺の肌を触りながら体に乗り掛かった。軽い先輩の体が感じられた、俺の腹に座って見下ろす先輩の髪が顔まで届いた。そして先輩の両手が俺の顔を撫でる。

 まさか俺は先輩に襲われたのか…


「ちょっとだけよ…」

「せ、先輩。俺、何も見えないんですよ。ここから出てもいいですか…」

「行かせないよ…ここにいて。」

「先輩、あの先輩は、え…他の人とよくこんなことをするのかは分かりませんけど…俺はこんなこと苦手なんです。男女二人で暗い部屋に…勘違いするかもしれません。」

「ね、春木。」


 先輩の声が静かな部屋で響いた。


「はい…?」

「春木は…私のこと知っている…?」

「先輩のこと…って。」

「…」

「先輩…?」


 先輩は何も言えず、そのまま俺の胸に頭を乗せていた。


「先輩?もしかして寝ていますか…?」

「…起きている。」

「どうかしましたか?」

「なんでもない…春木、なでなでして。」

「え…」

「早くしてよ!」

「はい!」


 先輩の頭を優しく撫でてあげた。

 真っ黒の部屋で夢中に撫でていると先輩との思い出が浮かぶ。

 最近はよく先輩のことを抱きしめた、エロいこととか恋人同士にやりそうな行為もさりげなくやっていた。

 そして二人でくっついている時も増えて、変な勘違いをしないように俺は一人で頑張っていた。

 先輩といる時間はいつも顔が赤くなって心がすごくドキドキしている。先輩はそんな感情を俺に教えてくれた。そしてあの子の記憶まで思い出させてくれた。


 だから、先輩みたいないい人は俺に釣り合わないんだ。今の先輩が俺がいるだけで満足するなら、それでいいと思っている。長い時間、俺の面倒を見てくれた先輩に従うだけだ。

 変な感情を持たないように…冷静にならないといけない、俺にはそれを決める権利などいないからだ。

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