第22話 日常の怖さ。−5

 部室の前に着いた時、武藤と木上そして佐々木先輩が俺を待っていた。


「ごめん、鍵…遅くなって…」

「いいえ、大丈夫です…」


 何…この空気。

 部室の前で佐々木先輩を励ます二人は「大丈夫」と話していた。武藤が先輩の背中を撫でながら俺たちは部室の中に入った。


「え…この状況は…」


 部室の中で武藤を連れ出して耳打ちをした。


「これは何の状況…?」


 少しためらう武藤は佐々木先輩の顔色を窺って俺に耳打ちした。


「振られました…佐々木先輩。」

「え?今?なぜ?」


 驚いて俺の日本語がおかしくなった。

 そうか佐々木先輩も放課後に告ったのか、その悲しい顔はやはり…。気持ちを伝えて断れるのはつらいものだ。


「ごめん…慌てて。」

「いいえ、それで外から先輩と話をして遅くなりました。」

「そうか…」


 こうやって二人は振られたと言う結末になった。

 部室の空気が寂しくなった、椅子に座っている佐々木先輩の涙が机にぼとぼと落ちていた。

 木上がハンカチを貸してあげるけど、その悲しさを収めるのはできなかった。


「じゃ…今日は3人で話した方がいいかもな。」

「そうですね…」


「二人!何をこそこそ言ってるの?」


 武藤先輩が俺と武藤の間を入り込んで先輩の後頭部が目の前にいた。


 小さい…


「お姉さん…」

「なぁーに?」

「…」


 時計を見て今日はそろそろ帰った方がいいと思った。佐々木先輩を見たら妙な気がして部室にいられない…

 俺はこうなると知っていたのに二人に言えなかった。誰のためにする話なのか…そんなくだらない雑念が頭の中を掠る。


 武藤と先輩が密かに話してそれから先輩の顔が少し変わっていた。先輩も今日告られたからちょっと引っかかるものがある様子だ。

 …恋人か。

 俺は女の子と付き合ったことがない、今まで走り続けた先には夢が待っていると思った。俺はただ走りだけして来たからそれがなくなった今は時間が空いて、ゆっくり学校生活をした。

 二人の話を聞いて少しは知りたくなる感情だった。恋ってこと…

 その後は病院か…そして先輩のおかげて卒業はしたから本当に人と出会うチャンスはなかった。


 だから最近あの子を思い出すのか…


「今日は先に帰るから、また明日。」

「…私も帰る。」

「え?先輩も?」

「うん。春木がいないなら意味ないから…」


 部室を出て先輩と別れた。

 俺はすぐ家に向かって足を運ぶ。


「康二…佐々木先輩と釣り合ったけど…ダメか。」


 佐々木先輩は明るくていい人なんだよ康二…俺は佐々木先輩の方がもっと釣り合うと思ったけど本人には分からないだろう。


 家の帰り道、あの子からもらったお守りが気になった。俺にとって最後の思い出なのにどこに置いたのか思いつかない…

 帰ってから家のあちこちを探して見たけど、どこにもお守りはなかった。捨てた覚えはない…絶対家のどこかにあるはずだ。


「ここら辺じゃなかったのか…」


 居間しか使ってないからテレビの下とか本棚のどこかで置いているんじゃないかな…

 ん…


「…ん?これ何?」


 ソファーの下に何か入っている…


「こんなところに雑巾を置きっぱなしにしたのか、俺。」


 ちょっと湿っぽい気がする雑巾を出したら黒色の…黒色の…


「はぁ…先輩…」


 なぜか先輩の下着が出た。


「この女…だらしない!!あああああああ!」


 下着に向いて怒ったらタイミングよくテーブルから携帯の着信音が鳴いた。


「うわーびっくりした…」


 着信「春木ちゃん」


 先輩…?


「はいーもしもし。」

「春木!」

「はい。」

「今週の日曜日うちに来てよ!」

「いやです。」

「え!なぜ…?」

「女子の部屋なんか入ったこともないし、入りたくないから。」


 男子をやすやす家に連れて行くのか先輩は…そんな発想は悪いですよ。


「えーいいじゃん…来て?」

。」

「けち…の家を燃やす!」

「え?」

「一日くらいはうちで遊んでもいいじゃんー」


 やりたいものはやらないと気が済まない先輩がしつこく誘った。


「分かりました…日曜日に行きますから…」

「やったー!」

「あと…先輩…」

「うん??」

「先輩の下着、なぜソファーの下に置きっぱなしですか…」

「もう下着まで手を出すの…?体にも手を出したのに…春木は本当に変態だったの…?エッチ!」


 …?

 この女、何言ってるかな…俺が間違って聞いたかもしれない。


「昨日の夜…ね。春木…すごくエロかった。まだ感触…体に残っているよ?」

「変なこと言わないでください!あああああ!!!」


 と、つい電話を切ってしまった。

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