第21話 日常の怖さ。−4

 ここは話を聞かなかったことにしよ、二人のあれだから。でも何だろう、この妙な気持ちは…

 ただ先輩が告られたことだけなのに、康二が先輩に本心を言っただけなのに…何が問題なのか、俺はまだ人間関係にとって知らないものが多かった。

 今の感情は理解できない。


 学校の外壁によってぼーっとしていた。そして鍵を持ったまま部室の扉を開けなかった事に気づいた。


「あ…部室の鍵。」


 忘れた…扉を開けて来るべきだった…なんかごめん。

 急いで部室に戻るタイミングで先輩と角からぶつかった。もう話しが終わったのか…てっきりもうちょっと時間かかると思ったのに。

 康二の話を聞いて、そして…


「あ、すみません。」

「ん…痛い…」

「あ…先輩、大丈夫ですか…」


 先輩を起こした俺はスカートの埃を払ってあげた。


「俺が前を見なかったせいで…」

「ね、春木。」

「はい。何ですか…?」

「外だけどちょっとだけ甘えちゃってもいいかな…」


 何かあったそうで、先輩の疲れた声と照れる顔が見えた。


「いいですけど…」


 先輩は俺を抱きしめたまま壁に押した。


「何が…あったんですか?」

「うるさい…抱きしめて…」

「はい。」


 静かな階段、誰もいないこの空間に二人でくっついていた。


「…」

「女って疲れる…」

「え?」


 モテる人ですね…生徒会長。

 確かに、俺が先輩だったらこんな状況は疲れるかもな…告られることとか変な噂になるとか…疲れるかもしれない。


「先輩が可愛くて綺麗だからです。」

「うん?何が?」

「あれですよね。モテすぎて疲れるってこと。」

「…私、そんなにモテないよ。」

「ウソ。」


 先輩がもっと激しく抱きしめる。


「フン…これがいいよ。」

「あの…抱きしめるのがいいなら抱き枕でも買ってあげましょうか?」


 足を蹴られた。


「アッ!」

「知らないよ…」

「すみません、つまらない冗談で。」

「春木、さっきの聞いたでしょう?」


 康二の話か。


「ちょっとだけは…」

「そうか…聞いていた…春木。」

「そんなつもりじゃ…」

「うん〜いいよ。断ったからもうそれはおしまい。」


 康二…2度断れたのか…


「そう…ですか。でも先輩って彼氏よく作りますし、今度もそうなると思ったけど。」

「それは…違う。」

「え?」

「全部あっちから告られて受けただけなのよ。」


 先輩やはりモテる人だね。


「今は?」

「そんなのいらない、男って付き合ってみたら全〜部変態だった。」

「…?それ…先輩が言う…話で…ええっ!」


 先輩に頭を2回、拳で叩かれた。


「うるさいよ。変態春木。」

「はい…先輩、あの抱きしめるのもういいじゃないですか。ちょっと恥ずかしいから…」


 先輩とくっついているのは恥ずかしい…あちこち先輩の体が感じられるからやばい。気づいた時は俺の顔が赤くなってしまった。


「何照れてるの?」

「何でもないです!」

「うん…部室に行こう。」

「先輩、最近俺のことをよく抱きしめますね。熊になったような気がしました。」

「なんで熊なの?」

「昔、抱いて寝たから…」


 ほほ笑む先輩の顔が見られる。


「バカみたい!」


 先輩と階段を上がる時にポケットの中から鳴く携帯を出して確認した。


 発信者、武藤恵

「すみません、加藤さん。もしかして部室の鍵を持っていますか?」


「そうだ。扉開けるのを忘れました!」

「うん?あ、そうだ!私たち今部室に行くところだったよね!」

「走ります!」

「私も!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る