第19話 日常の怖さ。−2

 誰にすごく見られてる気がする。やはり生徒会長と一緒だから目立つのか…先輩は前からこんな視線なんかは無視していた。

 でも俺みたいなものと一緒でいいか…


「何か視線が感じられます…」

「うん…?」

「いや、なんでもないです。」


 朝、怒る先輩のことを思い出した。


「って…先輩、まだ怒ってますか?」


 わ…

 先輩の目…早く言わないとこの場で殺すって言ってる。怖っ…


「うんー全然?」


 笑顔が見えて本当に死ぬとこだった。ミスしたらどうなるのか考えたくない…ここは謝るべきだ。


「すみません…本当にすみません!!」


 心で決めた俺は学校の屋上で先輩に土下座をした。


「フン〜じゃ言ってみて。」

 

 声まで冷たくなった、これはやばすぎ…下に頭をつけたまま先輩に答えた。


「それは…」

!」


 声が上がった…


「うん…まぁーどうせ行かないから言ってもいいですよね。」

「どこー?」

「誰かに呼ばれて…放課後に…」

「手紙にそう書いていたの?」


 先輩が俺のところに来て顎を持ち上げられた。見下ろす先輩の視線、な…何もしてませんし…そしてこの姿勢はちょっと恥ずかしい。


「はい。」

「そう?分かった。弁当食べよう。」


 手を出して俺を起こした先輩は屋上の椅子に座って弁当を出した。


「はぁ…」

「何、ため息をしてるの?」

「いや…なんか…疲れました。」

「じゃー弁当、食べよう!ほら!」


 先輩の弁当か…女の子って何を食べるかな、俺とは全然違うものを食べるだろうな。

 

「う、うわー!!!」


 中身は本当にすごかった。

 おにぎり、卵焼き、鶏肉、牛肉、サラダ、カボチャなどが入ってる…後はなんで言えばいいか分からないけど、どっかのドラマで見たようなオカズがいっぱいいた。

 お金持ちって弁当も高級だよな…


「いただいていいんですか…」

「うん。昨日、頼んだよ。」

「いただきます…」


 口の中で広がるこの旨さ、解ける…おにぎりも旨い一人で食べる時より幸せの味がした。

 嬉しい…旨すぎ…


「何〜可愛い顔してんの?」

「え…?別に…そうでも…」


 夢中に先輩の弁当を食べる。

 髪が少し長いから食べる時に邪魔になるな…何回、髪を耳にかける姿を見た先輩が俺の髪を触る。


「髪が長いね。」

「あ…そうですね。こうした方が心地いいんです。」

「なぜー?」


 先輩が俺の前髪を後ろに流して…俺に目を合わせた。

 顔が近い…何度も見たけど、先輩って顔が本当に小さいな…


「こんなにかっこいいのにね。」

「…え?」

「髪を束ねてあげる!食べていて!」


 俺の後ろに来て髪を整えてくれた。


「え…いいですよ…」

「大人しくしておいて!」

 

 …後ろから頭を殴られた。


「はい。」

「これをこーして…またこーして…」


 何か頑張っている先輩、髪があちこち動いてる気がしてるけど…

言ったらまた殴られそうだ。

 鼻歌を歌いながら楽しんでいる先輩…


「ジャンー!」

「終わりましたか…」

「うん!こっちの方がかっこいいよ!」

「え…そうですか?鏡とかありますか?」

「うん。」


 先輩からもらった鏡の中に映る俺の姿、長い横髪を後ろに束ねて顔の輪郭がはっきり見えた。

 そして前髪もともに結ばれておでこまで見られそうだった。いつも長くて整え


「かっこいい…」

「え…これは目立ちすぎでは…ないですか。」

「これがいいのよ。」


 座って弁当のおにぎりを食べながら俺の頭を撫でてくれた。

 先輩が邪魔になる髪の毛を束ねてくれてもっと爽やかになったけど…それと、外で顔が見られるのが慣れなかった。


「いつも顔隠しているから…」

「でも…」

「いいよーそれでもっと可愛くなった!」

「先輩がいいと言ったらそれでいいです。」


 その後、先輩と話したり弁当を食べたりして時間を過ごした。先輩といると心の中がいっぱいなるけど、この感情を感じられる時に必ず出るあの子が少し怖い。

 あの子の姿と先輩の姿が重なる。


「あ…もう時間だ。」

「そうね。じゃ戻ろっか?」

「はい。」


 …

 先輩と別れてクラスに戻る時、前から武藤と木上がこっちを向いて歩いていた。


「…」

「あ!加藤!」

「加藤さん…?とこにいますか?さやかさん…」


 なぜ分からない…


「前にいるけど…」

「へ!加藤さん…髪型変えましたか?」

「うん。そうね。」

「えー加藤ってイケメンだったねー」

「別に、先輩が勝手にやったことだから…」

「お姉さん…」


 木上がポケットから携帯を出して俺の前に渡す。


「メアド!」

「あ、メアドか…分かった。」

「私もいただいて…いいでしょうか…」

「武藤も?いいよ。」


 チャイムが鳴いた。


「あ…授業が始まる、俺…戻る。じゃ後部活で。」

「うん。バイバイー」

「加藤さん、頑張ってください。」

「うん。」


 クラスの前に来たら。なんかみんなに見られている気がした。授業が始まるのに一体何しているかな…

 この格好は慣れないけど、戻したら殴られるよな。


「ねね、加藤くん。」


 授業が始まる前に席に座っているとある女子が話しをかけてきた。

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