第15話 第三者。−5

「…先輩って恥ずかしいって言葉しらなっ…」


 また、頭を殴られた。


「入ろうっか!」

「はい…」


 さてと、今夜のスキヤキを作ろうか。

 先輩と一緒に何かを食べるのも久しぶりだな…いつも病院でパンを食べた記憶しかなかったから…

 後ろで先輩がソファーで脚を揺らしていた。


「先輩、スキヤキの下準備は一人で充分だから先にお風呂でも入ったらどうです?」

「え!そんなに下着が見たいの?」


 声を上げてびっくりする先輩。


「あ…こちそうさまでした。もう帰ってください。」

「え!ひど〜い。」

「早く入ってください。俺も入るから…」

「え!お風呂、一緒に入るの?」


 震える手でまな板上のネギを強く切った。


「違う!後で入るってことです!」

「分かった〜先に入るね〜」


 あ…スキヤキを食べる前にへこたれた。

 先輩が風呂に入ってから、俺は順調に下準備を終わらせた。豆腐、ねぎ、しいたけと他の野菜も冷蔵庫から取って用意した。

 最後はREONで買ってきた和牛を出して先輩を待つだけだ。


「気持ちいい〜」


 風呂から出る先輩がバスローブを着ていた。

 小さい身長の先輩が俺のバスローブを着たら、さすがに大きかった。それと濡れた髪の毛と少しずつ見える先輩の白い肌に気を取られた。

 

「何を見ているかな…春木…」

「あ…いやなんでもないです。」


 気づいたのか…


「思ったより小さいですね、先輩。」

「なにが!私、小さくないよ!寝る時に触って見たじゃん!」

「触ってないし、そして、身長のことを言ってます。」

「あ…!へへー。」

「俺、勝手に先輩の体に手を出す人ではありません。」

「でも〜考えたことはあるでしょ〜?」

「スキヤキを食べてください。」

「へへー」


 笑顔で誤魔化すのか…

 また変なことを言い出す、変態が…毎回毎回エロい事ばっかり考えている。この先輩はマジで頭の中に何が入ってんのか気になるな。

 俺は全然気にしていない…そうしていない…だと言っても男女二人が一緒にいるこの状況は慣れなかった。

 でもこう見たら本当に小さいな、先輩。

 

「先輩、今更言いますけどエロいですね…」

「な、何が!」

「冗談です。」


 慌てる先輩の顔が可愛くて笑いが出てしまった。


「もう…」

「それと先輩、身長は何センチですか?」

「私…うん…160センチかな?」

「やはり小さいですね。」

「そういう春木は何センチ…?」

「俺、174センチです。」

「うん…ムカつく。高い…」


 それがムカつくことなんですか先輩…


「160センチの先輩はなぜこんなにエロいかな…?本当に変態先輩ですね。」


 先輩の頭を撫でて言ったら、すぐに怒る表情で俺の脛を蹴った。


「知らない!バカ。!」

「はいはい…」


 まずはテレビをつけて、その前にスキヤキの準備をした。

 野菜と肉を持ってくるうちに先輩が俺の寝衣に着替えた、でもなんか物足りない感じがするけど…

 あ…そうか。


「先輩、寝衣の下衣は…?」

「いらない!」


 何を大胆に言ってますか…?おい、それはワンピースじゃないよ。


「先輩、いくら俺だとしてもその格好は…」


 上衣だけ着ている先輩のパンツがギリギリ見えそうだった。


「確かに上衣が長いかもしれないけど…これでは見えますよ。」

「大丈夫!春木に見せるために着たから!」


 鍋に牛脂を塗ってから肉を入れるこのタイミング。

 あまりにもショックだった俺は持っていた箸を落とした、肉はそのまま箸と共に鍋の中に落ちた。


「…」

「ドキドキした…?」

「…」


 女の子って普通はこうかな…?でも何を言えばいいか…誰か教えてくれ。


「焦げちゃうよ。」

「あ…はい。」

「なんだ〜顔色赤くなったよ〜」

「火の熱さで赤くなったんです。」

「そうね〜そうか〜」


 先輩のせいで頭がクラクラする。本当に変…

 後、残った肉と野菜そしてソースを入れて蓋をした。


「ちょっと待って見ましょう。」

「うん。」


 先輩が俺のそばに座った。


「居間は広いですけど、なぜここに座りますか?先輩。」

「一緒がいいの〜」

「ならば下衣でも着てください…」

「嫌だ〜」


 辞めよう、この大バカに話が通じるはずかない…


 少しの時間が経って、鍋の中を確認した。

 そろそろ時間だ、蓋を開けたらスキヤキの匂いが居間の中に広がる。鍋の中で踊る肉と野菜がすごく旨そうに見えた。

 

「いただきます!」


 肉を食べる先輩の顔が幸せそう…スキヤキよりこの顔でお腹いっぱいになるそうだった。

「美味しい〜本当に幸せ〜」

「へー先輩スキヤキ好きだったんですか。」

「うん。」


 食べる時の横顔がとても可愛かった。


「なんで食べないの…」

「まぁー先輩が旨そうに食べていますから…気を取られてしまいますね。」

「綺麗でしょ?私。」

「ん?」

「私、本当にモテるから感謝しなさいよ!」

「何を…感謝…?」

「ほら、春木の友達もそうじゃん。」

「あー先のREONで会えましたね。」


 さて、肉を食べて見よう。


「好きって言われたの、REONで。」


 肉を下に落とした。

 デジャブ…?


「なるほどですね…」


 食卓の上に落ちた肉を取った。


「好きな人、本当にいますかって言った。」


 また落とす肉。


「春木、だらしないね。」


 いや、別に…そんなつもりじゃ…


「いいです。」

「あーん。」

「何があーんですか…恥ずかしいからやめてください…」

!」

「あ、あーん。」


 先輩の唇がつけた箸が肉と共に俺の口に入る。


「どー?」

「うまい…」

「でしょ〜?」

「はい…」


 間接キスってやつか…先輩は全然気にしてない。

 全く無防備な先輩、こんなことをしたら普通の男は錯覚します。


 ところで「錯覚」という言葉で康二のことが気になった。けど他人の話をするのは余計なお世話になる。いくら親しい先輩だとしても嫌がる可能性はあった。

 我慢しよう。


「ね、春木。」

「はい、先輩。」

「私、上原くんと付き合ったらどうなると思う?」

「いいカップルになれると思います。」


 気にせず答えた。


「…空気読めないバカ。」

「はい?」


 茶碗を下ろした先輩が俺を見た。


「そんな時は、だめって言えばいい。」

「でも康二もけっこいいやつだし、付き合って見てもいいと思っただけです。」


 ネギと肉を取って食べた。

 その旨味の向こうから待っている心配、俺は自分が何を言ってるのかもうわからなかった。

 武藤先輩のためか、康二のためかあるいは佐々木先輩のためなのか…誰のための心配か…

 気になる変な俺。


「春木の方が好きですかって言った。上原くん。」

「俺のことを…?」

「うん。だから春木が好きって言った。」


 うわーマジか、それを人の前で言える先輩がすごい。

 他人の気持ちを軽く無視する大胆な性格は俺も欲しかった。


「どう答えましたか、康二は?」

「自分のことを好きになってほしいかな。」

「本気ですね。康二も」

「そう見えたの、でも私には春木がいるからね〜」


 そう言った先輩は肉を食べながら笑っていた。


 大雨の中、二人で食べるスキヤキ。

 食べ終わった後、先輩はテレビの番組を見ながら俺の肩によりかかる。


「春木の匂い…がする…」


 二人きりの夜、眠気に襲われた先輩はすやすやしていた。無防備で身を俺に任せた先輩は自分の白い肌と下着までさりげなく見せていた。


「桜色…嘘じゃなかったのか…」

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