第14話 第三者。−4

 あ…恥ずかしい。

 傘を差し出した先輩は俺のトレーニングウエアを着ていた。服が大きかったせいでたくし上げた先輩はしゃがみ込んで俺に話した。


「濡れるよ、春木。」


 足を触りながら薬を取り出す先輩、毎回先輩に世話をかけてしまう…俺ってだらしないな。

 その場で薬を飲んで、俺の前に近づいた先輩の顔が見えた。


「立ち上がれるの?」


 と言ってくれましたけど…

 

「先輩。」

「うん。」

「近いです…」

「何が?」

「顔です…」


 今更気づいたのか、先輩の顔色が赤くなった。


「うるさいよ…早く立って!」

「はい…」


 なぜか頭を殴られた。


 REONの中に入って今日のスキヤキのために二人はお肉コーナーに進む。


「先輩?」


 入り口からポケットを探っている先輩は困る顔で俺を見た。


「どうしよ…」

「何かありますか?」

「財布…春木の家に置いて来た…」

「まぁー俺が買いますからいいです。」

「いや…それじゃなくて…」

「何が必要なものがあったら買ってあげますから大丈夫です。」


 俺の目を逸らして3階のアパレルコーナーを見つめる、まさか今日も泊まる気ですか先輩。

 少しためらった先輩が小さな声で言った。


「下着…」

「…したぁっ?」


 すぐ先輩の両手によって口止めされた。


「恥ずかしいものを言わないでよ…」

「ならアパレルコーナーから行きましょうか?」

「財布ないからいいよ…」

「買ってあげますから、気にしなくてもいいです。」

「じゃ…うん、行こう!」


 先輩とエスカレーターに乗って3階に向かう時、俺の隣に立ってひそひそ言ってくれた。


「ね、春木はどんな色が好き…?」

「…」

「うん…?」

「え…お好きに…」

「純粋な白?それともセクシーな黒?」

「早く行ってください…」

「かわいいね〜私、行ってくるから待ってね〜」

「はい。」


 先輩に俺の財布を渡した。

 ほほ笑んで下着を買いに行った先輩の後ろ姿を見て一息をする。


 近いところの椅子に座って一人で考えた。

 ふと思い浮かぶ佐々木先輩と康二の事、人と関わるのが嫌だけと失うのはもっと嫌だった。

 二人が繋がるように願っていたけど、武藤先輩のことを好きだと言われたし…ってなぜこんなことをまた思い出すのか愚かだな…俺。

 もう答えは決まっている。気にするな…俺はただ俺のことだけ考えればいい、今はそれでいい。


 なぜかため息が出てしまう。


「よっ、春木。」


 隣で康二の声が聞こえた。

 康二はアパレル階に上がって服を見に来たそうだった。


「服買いに来たか?」

「そうよ、春木も?」

「うん、それと晩飯の食材もな。」

「食材なら1階だろう?連れがいるかい?」

「まぁーそうな。」


 いや、これはやばい。

 もしもこの状況で先輩が出て来たらマジやばくなる、お願いだから気づいてください先輩…中でちょっと待ってくださいよ。

 

 康二が隣に座る。

 荷物を置いてから話し出した。


「春木…先輩にあのことを聞いた?」

「あ…好きな人とか言ったな、康二。」

「うん、聞いた?」

「うん、先輩が暇な時に聞いた。」

「そうか!答えは!」


 一気に立ち上がる康二、少し興奮したそうな声を出した。俺にすごく期待をしている目だったあれは…

 けど康二…俺から出せる答えは…もう決まっている。


「お、落ち着け。」

「答えは!なんだ!春木…!」

「先輩…は」

「先輩は!」

「好きな人が…」

「そうそう!好きな人!」

「いるらしい。」

「…」


 顔色が変わった。

 まぁーそれは予想内だったから、この後に何を言うのかが気になった。


「他の人を探した方がいいじゃないか。」

「…」


 何も言わない康二。


「俺の役はここまでだから…あとで…」

「春木。」

「ん?」

「中学3年間武藤先輩のことが好きだった。僕は…」


 この空気は嫌だな…康二、辞めてくれそれ以上はもう言わないでくれ。


「…」

「先輩とまた会えるのを待っていた。だから高山に来たんだ…」

「康二。」

「そんなはずない…」


 こいつ…俺の話を全然聞いてない。


「それはお前の主観だろう。」

「だから、明日この思いを伝えたい。」

「康二。」


 …!

 後ろから足音が聞こえる、まさか先輩なのか。


「春木…!」

「先輩…?」


 うわー本当にいいタイミングだな…じゃ俺はここから逃げようかな…


「武藤先輩…」


 康二が先輩と目が合った瞬間、その場でただためらっていた。


「あれー上原くん。」

「先輩…」


 なんだこの空気…俺は何をすればいいんですか、二人を見ていると俺の存在が邪魔になりそうだった。康二に話しする時間をあげるために俺は1階で待つことにした。


 二人で何を話しているか気になるけど、特に俺ができることはなかったから1階で携帯をいじっていた。

 しばらくニュースを見て暇潰しをした。


「春木〜」


 先輩の声がエスカレーターから聞こえた。アパレルのショッピングバッグを見せびらかして俺の前に立ち止まる。


「お肉は持って来ました。お会計しましょう。」

「うん!」


 先輩に何があったか、聞きたかったけどやめておこう。

 ただ言ってくれる前まで見守るだけだ…でも康二、本当にほどほどにした方がいい。

 お前は自分がバラ色の世界に入ったと思うけど、それはバラ色の世界とか生き生きする青春ではなくお前の単なる欲ではないか…と思った。

 俺もそのが生き生きするバラ色が欲しかったけど、欲しいものはただの願いだ…


 REONから先輩に食わせるための和牛を買った。

 二人の帰る道、俺が傘を持って先輩をこっちに入れた。


「まだ雨降ってるよね〜」

「そうですね。」

「除湿機をつけて来たから家は大丈夫よ!」

「お、それはありがとうございます。」

「お肉早く食べたいな〜春木とスキヤキを食べた〜い!」

「はいはい〜家に帰ったら一緒に食べましょう。」

「うん!あ!それとね!」

「ん?」


 扉の前で立ち止まる先輩は俺を見てつま先たちでひそひそ耳打ちをした。


「今夜は桜色だよ…」

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