第11話 第三者。

 夢中に歩いている俺の頭にはあの人たちの考えしかいなかった。

 先の電話通り言ったら、人を傷つけることになるから怖くなった。今の状況なら俺のせいで誰かが必ず傷ついてしまう。

 はぁーどうやったらいいか分からない。

 久しぶりの悩みで気にし過ぎた俺は近いところにあるコンビニから缶コーヒー一つを買った。

 高校生になったばかりなのにすぐこんなもんか…家に帰った俺は居間に体を投げて左手で掴んでいる空き缶をつぶした。


「なぜ恋愛なんかしているのか…分からないな…」


 理解できないとは言えないただ俺の現実逃避だ。あの人たちの思いは充分わかっている、でもなぜ勇気が出ないんだ。

 お腹すいた、まず立って晩ご飯でも作ろう。

 居間で服を着替えた後、部屋の扉が開けていることに気づいてすぐ閉じた。台所に戻った俺は冷蔵庫から材料を出して晩ご飯を作り始めた。

 癖になってしまった。

 この健康食はやめられない。運動をやっている時からよく作って食べたものたち、いつものメニューが目の前に広がっていた。一人暮らしだから健康も大事、それ以上は考えないように俺はご飯を食べてから居間ですぐ寝た。


「…」


 痺れる…

 あーこうしないと一日が終わらないからな…カバンから塗る薬を出した俺はモモと足に塗ってこの痺れる感覚と痛みに耐える。


「はぁ…もう治ったんじゃないですか、医者先生…」


 何かに縛られるこの痛みを医者は心の問題だと言っている。何に縛られているのか自分で見つからないと痛みは治らないって、ファンタジーでもあるまいしそんなことができるわけない。

 それと別で頭から消された何かをかすかに感じていた。


 次の朝、いつもの通り学校に行った。

 けど今日から先輩と会う勇気が全く出ないからなるべく先輩と行き合わないように避けていた。

 直接一回聞いたら楽になるけど、なぜ避けることに勤しんでるのか俺は。


 休憩時間、先輩の声が聞こえた。


「春木!あれ?春木いない…」

「春木ならちょっと前に出ました。」

「そう…?」


 次の休憩時間、また先輩の声が聞こえて俺は先に身を隠していた。


「は〜るき!」

「生徒会長じゃないですか?」

「あ!上原。」

「何か用でもありますか?」

「うん…春木が見えないね…」


(先輩…すみません…)


 俺はすぐ近い場所で先輩の声を聞いていた。

 力のない先輩の声、もはや4回以上避けていた。今度は康二の声も一緒に聞こえた。

 生徒会で忙しい先輩を4回以上避けたのは丸一日を避けたことになる。

 

「春木…ですか?」

「うん…」

「何か用があったら伝えてあげます。」

「いいよ、会いに来ただけだから。」

「…?」

「どこに行っちゃったの…春木…」


 うわー

 そんな話をするのか、これは康二にもダメージがあるかもしれない。先輩が3階に上がる前まで反対側で窓の外を眺めていた。


(今日は雨が降りそうだ。)


 授業のチャイムが鳴いて先輩は自分の教室に戻った。

 

「何している、康二。授業始まるぞ。」


 隠れていた俺は康二の背中を叩いて教室に入った。


「春木…」


 授業の時間は短く感じられた。

 後ろから誰かの視線が感じられていて授業に集中しすぎたかもな…


 今井先生が入る最後の授業、外には雨がすごく降っていた。


「おい、春木!集中しろ!」

「は、はい!」


 さすがに体育先生は声が大きい今すぐチョークでも投げそうだった。でも久しぶりだ今井先生に叱られるのも。


「何ニヤついてんのか!春木!」


 パッー


「集…中しま…す。」


 おでこに1ミリの誤差もなしに当てた。


 授業はまもなく終わる、今日は天気も悪そうだったし部活はやめとこう生徒会室と近いから先輩に会う可能性もある。

 そして学校を出たらもっと大雨になっていた。

 

「あ…ビショビショになる天気だ。」


 雨が降るのは気に入らないけどこれで今日は先輩と会えなかった。バカバカしい、俺は一体何をやっているのか全くだ。

 帰り道、マートによってから着いた家の前にはびしょ濡れの先輩が立ち止まっていた。


「先輩…」


 先輩は何も言えずにその場で立っていた。髪の毛も制服も何もかもびしょ濡れで俺を見つめていた。

 俺は急いで先輩に傘をさしたまま扉を開けた。


「早く入ってください。」


 でも先輩は入らなかった。


「先輩…?」

「春木。」

「はい?」

「なぜ避ける…私が知らないと思ったの…?」

「…いや、そんなことないです。」

「嘘つき!!!」


 先輩は持っていたカバンを俺に投げた。

 雨のせいかは分からないけど、俺の目に映った先輩は悲しそうな顔をしていた。雨が傘に落ちる音と二人の間の静寂、俺たちは何も言えなかった。


「入ってください…風邪を引きますよ。」


 このままじゃ本当に風邪を引いてしまうから俺は先輩の手を握って家に連れて来た。


「…」


 家で雨が降っているわけでもないのに先輩の目から大雨が降っていた、玄関に立ち止まったまま涙を落として徐々に口を開く先輩。


「春木…私もう嫌なの…?」


 止まらない先輩の涙を見た俺はハンカチで涙を拭いて上げた。

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