第5話 高校の部活って。−2

 先輩の出現で持っていた本が机に落とした。

 俺はそのまま、体が固まって先輩のことを見つめていた。


「へへ〜」


 何がへへだ。

 

「ってまた何かありますか?」

「ん、後ろの後輩がね〜読書部に入りたいって。」


 武藤先輩の後ろから一人の女の子が現れた。手のひらを見せながら明るい顔であいさつをしてくる木上さやか。

 嬉しそうな表情で武藤の手を握る。


「恵!」

「あ!さやかさん!」

「私も入部したいからね!」

「本当ですか?嬉しいです!」


 一人で来たのか、康二と仲良く見えたけど…


「木上、康二は?」

「…ん、一人で来たから分からない。」

「そうか、まぁーいい。」


 俺は席について本を読み始めた。

 二人は仲良く話しているから俺が入る隙間なんかいなかった、それでも気にせず本を読んでいるけど隣で先輩が俺を見つめていた。

 椅子の上に座ってじっと俺を見ている。


「あの、先輩。」

「うん。」

「帰らないんですか。」

「そんなに私が嫌なの?毎回毎回、帰れ帰れ…私のこと嫌なの?」

「いや、そんなわけ…」


 先輩の話で武藤と木上が俺の方を見ている。


「お姉さん、生徒会に行かないんですか?」

「それはそうね〜でも今日は仕事ほぼ終わったから!春木と一緒にいたいよ!」

「もう、お姉さん。加藤さんのことも考えてください…」

「恵もひど〜い。」


 さすが、俺の救世主。

 そのまま一気に押し込め、武藤恵!


 部室の中で話している間、誰かが部室の扉をノックした。


「はい。」

 

 部室の扉が開けて俺たちが全然知らない顔が入ってきた。何が問題がありそうな顔で俺たちの前に立ち止まっていた。

 この人はメガネをつけてすごく頭良さそうな印象だった。


「あ、あの。」

「はい!」

 

 武藤が優しい顔で答えた。


「ここ…まだ相談やっていますか?」

「相談…ですか?」


 武藤が首をかしげる時、先輩が言い出した。


「そう、こっちは読書部と書いていても実際には相談室だからね、前の部長もそうしたよ。」

「そうですか?」

「だいたい、恋愛相談とかそんなものだけどね。」


 入って来た人が打ち沈んだ顔をしていた。


「じゃ俺、今日は早めに帰るから、武藤がやったらどうー?」


 相談なんかに…関わりたくない、外で時間でもつぶそうと思って先に部室を出た。


「あ、加藤さん…」


 どんどん小さくなる武藤恵の声は加藤春木に聞こえなかった。


 部活…入らない方がよかったかな…

 でも最近体の調子が変だから家に帰りたくなかった。この苦痛が感じれる時、部屋に引きこんでいたらまた昔のことを思い出して嫌な気持ちになる。だからあえて部活を選んでいたのだ。

 その苦しみから少しは離れたかった。

 否定したいけど否定できない、忘れられない記憶…俺はため息をついて廊下を歩いていた。


「はぁ…くるのか…」


 後ろから聞こえる人の足音、階段を下りると武藤が俺に追いついた。


「加藤さん!」

「ん?」

「一緒に部活をしましょう!」

「いい、俺は人と関わるのが苦手だから…」


 ぱっー

 足が、足に…苦痛が感じられる。我慢するのも限界か…


「でも…」

「いや、俺は帰るからいい。部活をしてくれ。」

「はい。そう言いますと…分かりました。」


 そう言った武藤は部室に帰った。

 武藤の姿が消える前まで我慢していたけど、たまに来るこの苦痛は慣れない…。まだ治ってないこの足が憎い。

 足を引きずってとにかく正門に着いたけどどうやって帰るのか、家に。


「はい〜掴まって。」


 先輩の声だ。

 顔を上げたらいつの間にか俺の前に立っていた。


「先輩…」

「うん?」

「なんでここにいます?」

「俺は春木のことを全部〜知ってるよ?」

「また、冗談ですか?」


 俺を起こした先輩はこう言った。


「部室でいた時から知っていたよ。まだ治ってないでしょ…その足。」

「…」

「私が連れて行くからここで待ってて。」

「はい…」


 立てるのが精一杯か薬も持ってないし、まずいな…

 空を眺めながらその場で少し待っていた、しびれる足を叩いたら先輩が呼んだ車が来た。


「乗って!」

「はい。」


 中はすごい高級車っぽく見えた、お金持ちだったのかこの先輩は。


「運転手さん、高山3丁目−21。」

「分かりました。お嬢様。」


 この痛みは嫌いだ何年を苦しんでいるのか、もうだめだ…意識が薄れる。最後は先輩の肩によりかかったことだけ、それからは何も覚えてない。


「はっ!」


 夢の中から変なものを見られた、嫌な感覚だな…失ったものを取り戻そうと頑張っていたけど手に入らない、永遠に入らない気持ち悪い夢。

 気づいたら足の苦痛がすでに治って俺の部屋から起きた。


「俺の部屋…」


 外がずいぶん暗くなっていた。

 時計を見たら時間はもう9時、遅くなった。一体どれくらい寝ていたのか頭を回して眠気から覚めた。

 

「うん…」


 寝言が聞こえた。

 誰か俺の部屋にいるのかと思ったら、今更、俺の手を握っている先輩のことを気づいた。

 先輩はベッドに両腕をかけたまま床に座って寝ていた。姿勢も不安定だし、床は冷たいから先輩にはすまないけどお姫抱っこをして俺のベッドに寝かせた。


「うん…」


 先輩が覚めないように気をつけて静かにしていた俺は夜空を眺める。

 今日、部活でなんもできなかった。

 部屋から出て水を飲みながら考える。人を対するのも苦手、話すことも苦手な俺はどうなるのか…

 それでも俺は他人のように生き生きするバラ色の人生を送りたかった。

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