第6話

「これがあるニャ」


 どうだ偉いだろう、と言わんばかりのドヤ顔をし胸を張っている。

 その置かれたものは、年期の入った木製の箱。へりには金属板が鋲で打ち付けられ、簡単には開かないように施錠してある。

 そう、これは売上金や釣銭を入れる小型の金庫である。


「なぁ、一つ聞いていいか?俺が出かけた後、誰も客は来てなかっただろ……」


 俺の言葉の意味が分かっていない二人。

 だがすぐに、ハッ!とした顔つきでメオが俺を見た。


「ご、主人……まさか……ネ」


「そのまさかだ、メオ君。……きみのような勘のいい子は嫌いじゃないよ」


 メオが首にかけた鍵を取り出し、急いで木箱の穴に突っ込み回す。ガチャリと解錠された木箱を恐る恐る開ける。


「やっぱりなのネ……」


 木箱を覗くメオを退け、続けてマオも中身を見る。


「なんたることニャ……なんたる……なんたることニャー!」


 マオの叫びが店内にこだまする。


 箱の隅に銀貨一枚と数枚の銅貨が残っているだけで、本来あるはずの物が無い。


「すまない、二人には黙っていたが、そこの金も持っていってたんだ」


 少女らの落ち込む姿に目を逸らし、俺は窓側を見て答えた。

 無言の時が流れる。

 視線を戻すと、木箱越しにワナワナと震える二人の姿。それを見て俺は慌てて謝った。


「申し訳ない!本当にすまなかった」

 机に両手と頭を押し付けて彼女らに許しを乞う。


「おい、ご主人。ちょっと表に出ろニャ」

「外に出るネ。シバいたるネ」


 恐る恐る顔を上げると、そこには――

 マオは手の指先から鋭い爪が延び、メオは大鋏を振り上げている。

 灯火器の揺れる明かりが彼女らの目をキラリと光らせた。


「ヒィッ」

 恐怖で思わず変な声が出て顔が引きった。


 俺の本能が言っている。今すぐに逃げろと。


 だが、時すでに遅しであった。

 ガッ!と襟首を二人に捕まれ無情にも外に連れて行かれる。


「ご主人、今日という今日はもう許さないニャ」

「肯定なのネ。たっぷりと反省させたるネ」


 ズルズルと引きずられる中、俺は必死に考えた。

 くそ、このままでは殺られる。

 だがしかし、片や少女とはいえ獣人に属する種族が二人、片や医薬術しか能のない非力で簡単な初級魔法しか使えないユマン人種族、勝負は見えている。

 ならば答えは決まった――


「天から賜りし力で闇夜を照らせ。ルクス!」


 俺の放った光魔法が辺りを包む。そして、効果は徐々消えた。


「目が、目がぁーなのニャ」

「うぐぅ」


 悪いな二人とも。昔の人は言っていた『時に逃げることも戦いのすべ』だと。


 ふぅ

「また、つまらぬものに光を与えてしまったか」


 その言葉とともに起き上がり、俺はローブの汚れをポンポンと叩き落とし、少女達を残しその場を後にする。

 ばずだった、だが数歩いたところに――


「なんて言うと思うたか、なのニャ」

「なのネ」


「なっ、なに!?」


「まったくご主人は甲斐性なしニャー」

「本当にご主人は穀潰しでしょうがない奴ネ」


 

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