第2話
「ねぇ、マオはお腹空いたニャ。お腹ぐーぐーニャ」
客足もなく閑散とした店内。
出入り口の横の窓辺に古びた丸机に椅子が一組み置かれ、その椅子の背に頬杖をつき足をバタつかせ駄々こねる
自身の名を一人称で話す彼女は、
先程まで、やわらかな初夏の日射しが少女に〈ひなたぼっこ〉のひと時を与えていたのだが、夕刻を告げ建物に陰り去った。
少女の見つめる窓の外では、日暮れて家路を急ぐ者が店の前を行き交う。
その姿から視線を外し、さきほど声掛けた相手から返答が貰えないのを不満にし再度声を掛けた。
「そんな小難しい本読んで楽しいかニャ?」
「知識は必要ネ」
「そんなの幾ら読んでもお腹は膨れないニャ」
店の奥、専用の
容姿はマオと瓜二つであるが、毛並みは対照的に純白。髪は左右に緩くふわりと下げ、髪留めで縛ってある。
少女の名はメオ。
窓辺に比べ薄暗い場所であるが、気にせず本を読めるのは、流石は猫獣人族といったところだ。
マオの言葉を受け流し読書にふける彼女だが、その後も執拗に空腹を訴えるマオの主張が続き、根負けし本をパタンと閉じ、トンと椅子から飛び降りカウンターの奥へ進む。
そこには、天井に届くほどの大きな棚が、役割ごとに形が異なり立ち並んでいた。
無数の引き出しに個々の名札が付けられた薬棚。
遮光の為に色付けされた大小様々な容器がずらりと並ぶ棚。
多種多様な書物を分野ごとに規則正しく収めた本棚。
それらいくつもの棚の中から、加工や調合などの用途に使う器具をしまった場所へ木製脚立を引きずり歩み寄ったメオ。そして、ゴソゴソと探り、目当ての道具を取り出す。
片手に鋭く研がれた
カウンター奥から出てきたメオは、店内を埋めるように並ぶ植物を掻き分けた。
ここは、まるで森の中にいるようだと常連客は言い、初めて訪れる者は店を間違えたのかと勘違いする程に生い茂る。
薬草や薬木に香草、不規則に微動する魔草など様々な植物が、個々の土壌に合わせた土や小石入りの木箱に植えられ並ぶ。
メオはその中から比較的背丈の低い魔草を選び、枝をザクリと大鋏で切り落とし乳鉢に入れ、マオのもとへと歩みを進める。
「ほれ、これ食べるといいネ」
マオの隣りにある丸机に、ドンと乳鉢が置かれた。
壁に掛けられた、時を示す機械がカチリ、コチリと規則正しく音とたてる。
それに合わせるかのように、ウネウネ微動する乳鉢の中の魔草の切れ端。
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