約束

キーンコーンカーンコーン

チャイムが鳴り、席を立ち始めたクラスメイト達を見ながらぐでーっと机に伏せ、呟く

『あー、疲れたぁ』

「お疲れ」

真後ろから突然声がかかりビクッと跳ねる

その様子を見て、ぷっ…、と吹き出しながら前の席に彼が座る

『お、今日大活躍だったじゃーん!

さすが元選手!』

「いや…まぁ…別に…」

『あれ?もしや照れてる?!おやぁー?』

「うざい」

べシッ

『いったぁぁい!ひどい!!』

「はいはい」

「お、相変わらず漫才やってんねぇ」

『漫才じゃないもん!一方的にいじめられてるのー!』

むー!と頬を膨らませて抗議する

「よしよし、あ、そんなことより今日部活だよ」

『あ、そーだった!先帰ってて!』

ガタッと勢いよく荷物を持って立ち上がる

「いや、待ってる。終わったら連絡して」

『…!う、うんっ!わかった!』

「行こー」

「うん!」

パタパタと小走りに廊下を走っていく

そんな2人を見ながら顔をほんのり赤くした彼は呟く

「……………恥ずいっつーの、ばーか」


―おつかれー

―お疲れ様でーす

『ん〜!終わったぁ…連絡連絡と…』

「お疲れ様」

『わっ!?デジャヴだよ?!てかいつの間に…』

「さぁな、帰るぞ」

『ま、待ってーっ』

そう言って少し先を歩いていく彼を追いかける

『私荷物もってるのにぃ』

ひょいっ

『あっ』

軽々しく私の荷物を持って、片手を差し出してくる

「はやく」

無愛想に言う彼の手を握る

微かな手の温もりと共に握り返される

そのまま2人で歩き出す

道には2人の影だけが映し出される

それからどれくらい経ったろう

少しずつ朧げになっていくもうひとつの私たちをぼんやりと見ながら帰り道を進む

あまり喋らない彼と、喜怒哀楽が激しい私

私が話すことを、静かに聞いて、時折言葉をくれる

そうしているうちに辺りはもう、夕闇に包まれて、いつもの分かれ道に来てしまった

『ん、荷物、ありがと』

「あぁ」

繋いでいない方の手に荷物を渡してくれる

『あっ、あのねあのね、今日の体育大活躍だったねーって言ったじゃん?

「言ってたな」

『あのー、中盤でやってた真ん中辺からダーッてドリブルして敵を撒いてレイアップしてたのめちゃかっこよかった!』

「……………ありがとう」

私がなけなしの語彙力を使って伝えると、彼はそっぽを向いた

暗くて分からないけど、きっと赤くなってるんだろうな

「…そろそろ、行くか」

『…うん』

手を離すのは名残惜しいけど、いつまでもこうしているわけにはいかない

『えっと…それじゃあ、また明日ね!』

「あぁ、また明日な」

ほっぺに柔らかい感触と共に短いリップ音が耳元で響いた

唖然として彼を見ると、反対を向く寸前ににやけた顔が見えた

ひらひらと手を振る彼に

『また明日ねーっ』

と再度言い、私も反対を向く

ほっぺを触り、えへへ、と思わず出てしまった声

今は1人だけど、明日になったらまた会える

そんなたくさんの嬉しさを抱え、歩き出した

街灯がぽつぽつと灯り出す

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

自由 龍華 @bloodapple

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ