罪の量
酒は薬にも毒にもなる
薬だって、毒に変わる
頭ではわかっていた
でもそれをはっきりとした事実で教えてくれたのは君だった
「先輩!お久しぶりです!」
『あぁ、久しぶりだな』
久しぶりに見た後輩は、元気そうな笑顔と大きい手振りで俺に近づいてきた
「相変わらずかっこいいですね!」
『茶化すな』
「昔からずっと言ってるじゃないですかー!!先輩はかっこいいんですよ!」
そう、こいつは高校時代の時からずっとこうだ
否定しても否定しても、かっこいいと、素敵だと言ってくれる
『はいはい
ってお前身長伸びたか?』
改めて彼女を見ると最後に会った時とは目線の位置が違うことに気づく
「そうですよ!もう昔みたいに子供扱いしないでくださいね!」
ふふんっ、とドヤ顔で胸を張ってくる彼女の頭を撫でる
『そうだなー、それじゃあ行くか』
「あー!今流しましたよね!?」
ぷんっと拗ねるようにして後ろを着いてくる姿が少し可愛くてつい笑ってしまう
「って話で!ひどくないですか!?私結構できたと思ったのに…」
居酒屋で、酒(彼女はもちろんジュース)を飲みながら2人で今までの出来事や愚痴を話す
もうかれこれ2時間弱ほどこうしている
そろそろ出るか、と言う雰囲気になった頃
「ねぇ先輩…」
いきなりしおらしくなった彼女の声が聞こえた
『ん?どうした?』
上目遣いで、こぼれそうなほど涙が溜まった彼女の目を見て俺は慌てた
『お、わっ、おま、どうした…!?な、なんか嫌なことでも…あ、いや俺か!?』
ふっ…と、泣き笑いのような、そんな微笑を浮かべる
「私、お酒が飲めたら…
酔っ払ったまま、今までの事を全部忘れられたらいいのに…って思うんです」
突然の告白に、俺は固まった
内容もだが、彼女の哀しそうな、遠くを見ているような表情を見て
俺は…一瞬、思考が止まった
ふと、向かいの彼女の頭を撫でて、安心させられるような顔で、こう言った
『忘れられることだけが、いい事じゃ…ないぞ
きっとその経験を活かして、自分を幸せに出来る日がきっと来る
だから…な?今は、泣いていいから』
彼女は、ただされるがままになりながら俯く
がばっと顔を上げた彼女の目にはもう涙の影は見えず、笑顔だった
そのあと少し気まづくなった俺らは会計を済まし、店の外へ
「先輩、今日は愚痴を聞いてくれてありがとうございました!お会計まで…」
『いや、いいんだよ
先輩だしな、これくらいさせてくれ
それに、愚痴くらいいくらでも聞くぞ?』
「はい!では、この辺で…」
『あぁ、気をつけて帰れよ?じゃあ、またな』
駅のホームでぱたぱたと大きく手を振る彼女を背に、ひらひらと手だけで返した
その後、俺も後輩も忙しく、しばらく会えずに数ヶ月がたった
ふと、スマホで日付けを確認すると、明日は後輩の誕生日
“明日の夜空いてるか?
誕生日祝ってやるから、この前の店でどうだ?お前も酒飲めるようになるしな”
と、メッセージを送る
スマホをしまおうとした時、ピロンっと着信音が鳴り、後輩からのメッセージが来た
見ようと思ったが、上司から呼ばれスマホをしまう
結局その日は疲れて寝てしまい、次の日の朝、メッセージを見る
“すいません、明日はちょっときついですー!
また今度よければ誘ってください!”
ふ、と笑みがこぼれ、まぁあいつも友達と祝ったりするか、と思って返信しようとした瞬間、ピリリリリリッと彼女から電話の着信
ピッと、通話のボタンを押し、
『返信遅れてごめんな、どした?』
「あの…」
その相手が声を発してから気づいた
向こう側の絶望の雰囲気
彼女ではない、それよりももっと上の歳の女性の声
『え、と…どちら様ですか…?』
「○○の…母です
××さん…のお電話でお間違いないですか?」
『は、はい…』
「○○が、早朝…遺体で、発見されました…
お酒とっ…………くす、りをいっしょに………」
泣きながらも、俺に伝えようと必死に言葉を紡いでくれる
突如、彼女の寂しげな顔と告白がフラッシュバックする
あの時、俺が…もっと、なにか言えてれば…?
いや、気づいていられたなら…
ふと、彼女の笑っている顔と共に元気な声を思い出す
ーねぇ先輩、お酒って美味しいですか?
ー今度奢ってくださいよ!もう少しで呑めるようになるんですよ〜
―あぁ、飲めるようになったらな
飲めるようになったら、つまり今度なんて約束はどこかへ消えた
彼女も、消えてしまった
記憶の中にある彼女の笑顔は、泡のように弾けて消えていった
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