眠り姫

いつからだろう、俺と君が夜中に通話するようになったのは

〈最近、寝れないんだよね〉

あぁ、君がそう言った次の日からだ

お互いにその日あったことを、片方が寝落ちするまで淡々と話すだけの報告のような内容

楽しいか、と聞かれても…

まぁ、楽しいからしているんだろうな

学校の連中は知らない

友達というよりクラスメイトとして話す程度の認識だろうな

俺と君とじゃ立場が違うから当然だ

人気者と君と、それを見ている俺

別に悲しいとも寂しいとも思ったことも無い

通話の向こう側の君を俺だけが知っている

それだけでいいと思ってしまう



「ふぅ……今日も面白いこといっぱいあったねー」

『そうだな』

「あ、そういえば君がくれた2輪のお花、すっごい綺麗だね、花も、意味も

私好きだなぁ」

『あぁ

……って意味も調べたのか、早いな』

「だって今日だもの

記念日に君がお花をくれるなんて、なんか意味があると思うじゃない?」

記念日、という言葉が重い

君が少し寂しそうに言う

「このお花、君が見守ってくれてると思うと、すごい嬉しい

最初で最後の記念日に会えるのが…話せるのが君で良かった」

この時、俺はよく泣かなかったと自分で自分を褒めた

『そう、だな

…こんな俺と話してくれてありがとう』

「何言ってるの?

眠れないって私のたった一言に、ここまで、最後の最後まで付き合ってくれてたのはそっちじゃん

こちらこそ、たくさんありがとう」

『まぁ、君がそう言うなら、それでいいんだが』

「うんっ!

あ、もうそろそろ、寝よう…かな…」

少しだけ途切れ途切れに、でもいつも通りを装った君の声

気づかれたくないんだろう?

なら、俺もそれに付き合う

最後まで、俺が見届ける

『あぁ、そうだな

もうそんな時間だな

ちゃんと暖かくしろよ?寒くなるだろうから』

「…ん、ありがとう

それじゃあ、おやすみ」

『あぁ、おやすみ

…いい夢を』

プツッ……

彼女は無事、夢の世界へ旅立てただろうか

そう思いながら、俺は眠りについた


翌日

今日は休日なため、少し遅く起きて、スマホのニュースを開く

[少女睡眠薬で自ら…

握られていた“ストック”と“白いポピー”の謎とは?!]

あぁ、無事に着いたんだな

少し開かれたカーテンから差し込んだ光に照らされながら、良かった、と呟いた

そんな俺の頬を、一筋の涙が伝った

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