第27話 探し物3
仕事を終えホテルを出てからアオイにメールを送った。今日は月曜日なので彼女のバイトは休みだから家に居るはずだ。帰宅時間を伝え駅へ向かう。纏わりつく熱気がスーツの中を蒸らした。慣れない仕事でどっと疲れ、革靴を履いたせいで痛む足を引きずる様に駅へ歩いた。
帰宅するとすでにアオイがキッチンで夕食を作っていた。
「おかえり。今日は天津飯だから」
「ありがとう。もう出来る?」
「先にシャワー浴びるなら待ってるよ?」
「いいよ、先に食べよう」
テーブルに天津飯が並び2人で手を合わせて「いただきます」と言った。
僕は天津飯を食べながら、帰宅途中にずっと考えていた事をアオイに話す。
「アオイ、土曜日のバイトのシフト外せないかな?」
「どうして?」
僕は休日の取り方について彼女に説明をした。月7~8日の休みを希望の日に取る事等。
「いまだと、朝からずっと一緒にいられる曜日がないじゃないか。例えば土曜日を外して代わりに今まで休みだった月曜日か木曜日に入るとかさ」
「そうだね、今の状態だとデートも出来ないもんね」
「アオイが土曜日休みならさ、毎週は無理でも月に2回くらいは土曜日が休める様に組めるかも知れないし」
「そっか、ちゃんと考えてくれてんだ、嬉しい。三宅さんに相談してみるよ」
東京案内もずっとお預けさせてるし、僕だってアオイと一日中一緒にいられる日が欲しかった。
夕食後はいつもの様にアオイを抱いた。あれ以来毎日彼女を抱いている。
翌日、アオイはシフトの件を三宅さんに相談したようで、アオイの要望はすんなり通ったようだ。もともと週末は大学生やサラリーマンやOLの人が副業でシフトに入る事が多く、土曜日だからと言ってスタッフが足りないと言う事もない。僕の方も土曜日の休みを申請し、来週の土曜日初めてアオイと2人で朝から出かける事になった。
「土曜日、何着て行こうかなあ」
その日の夜。夕食を終え寛いでいると、すっかり洋服まで僕の部屋に持ち込んだアオイがあれでもないこれでもないと洋服選びをしている。といっても、大体ジーンズにトレーナーかパーカーを合わせているだけだ。たまにキュロットなんて物も穿くけれど基本的に彼女のファッションは垢抜けない物が多い。
「アオイって、スカート穿かないよね?」
「穿いて欲しい?」
「僕がいない時に穿くのは嫌だけど、僕と一緒の時はちょっと穿いて欲しいかも」
「でも、これしかないんだよね」
そう言ってバッグから引っ張りだしたスカートはスーツのスカートの様なグレーで地味な物だった。
「それってスーツの下じゃないの?」
「そう見えるよね。だいたいこれに何を合わせたらいいかも分かんないからずっと穿いていなかったんだよ」
なんでそんな物を買ったんだと普通に疑問が浮かぶ。
「じゃあ土曜日一緒に買いに行こうか」
「うんうん、買い物デートだね、楽しみ」
そう言って僕に抱き着いてきた。僕の胸にぐりぐり頭を擦りつけていたかと思うと顔を上げ物欲しそうにねだる。彼女にキスを落としそのままベッドへ縺れるように倒れ込んでお互いを求めた。
デートの土曜日になり、僕たちはそれなりにお洒落をして彼女が行きたがっていた渋谷へ向かった。結局紺色の長袖のTシャツにベージュのキュロットと言ういつも通りの服装で、小さなバッグを袈裟懸けにして幼さ全開の彼女に心が温かくなる。駅へ向かう道すがら彼女は腕を絡めてきてくっ付いて離れない。7月初旬の暑さが僕たちの接している部分に汗を滲ませた。
有楽町線に乗り30分ほど電車に揺られ駅に着く。「ハチ公が見たい」と言うのでそこへ向かうも、人で溢れかえっていて東京育ちの僕も思わず息を飲んだ。アオイはスマホでハチ公を撮影し嬉しそうにしている。
その後、適当に空いているカフェでコーヒーを飲んだり、ただ人の波に飲まれだらだらとセンター街を練り歩いた。僕の横をニコニコしながら付いてくる彼女は本当に楽しそうだった。
「109だあ! テレビでしか見た事無いけどそのままだね、ね!」
興奮冷めやらぬ彼女は109ですらスマホで撮影している。
「そんなの撮ってどうするの?」
「地元の友達に自慢するの」
自慢になる要素がどこだか分からなかった。東京にいるという事実だけなような気がするけど。
「ほら、一緒に撮ろう」
そういって腕を引っ張られ、109をバックに二人並んで自撮りした。
その後ファッションビルへ入る。冷房の効いた風が僕たちを包み絡まれている腕以外の汗が引いた。
「どんなスカートが似合うと思う?」
分からない。そもそも僕は女性のファッションにあまり興味が無いのだ。似合うかどうかなら答えられるかも知れないけれど、どんな? と質問されると答えようがない。長いか短いかなら希望を伝える事は出来るだろう。
「とりあえず色々見てみようよ」
「うん、そだね」
そう言って僕の二の腕に頭をもたげた。
「短い方がいいの?」
10代向けの服が売っている店舗に入り彼女がスカートを物色しながら訊く。そりゃ短い方がいいけど、僕と一緒じゃない時は穿いて欲しくない。でもそれだと勿体ないし、普段も穿けるような丈の物の方がよいのだろうか。
「短い方が嬉しいけど、普段は穿いて欲しくないから僕の希望で買うのは勿体ないよ」
「これは?」
彼女が手にしたのはデニムのミニスカートだった。見た感じ相当短い様に思えるけど。これを穿いている彼女の姿を想像して脳が熱くなる。
「ちょっと短くない?」
「でもこれ可愛い。しかも安いよ?」
値段を見ると確かに手頃な値段だった。
「ちょっと試着してみようかな?」
「うん」
僕もちょっと見てみたい。
店員に声をかけ試着させてもらう。
「ひぇー、短い」
そんな声が試着室の中から聞こえてきて僕の妄想を駆り立てる。
「どうかな?」
シャっとカーテンを開けた彼女が腰に手を当てポーズを取って僕に披露する。白い脚がスカートの裾から伸びで思わずドキっとした。これはけしからん。
「いいと思うけど、短くない?」
「だって短い方がいいんでしょ?」
「そうだけど、普段は履かないでね?」
「こんな短いの真也君と一緒の時しか穿けないよ」
「……じゃあ、それで、お願いします……」
「あ! いまエッチな事考えてる」
「……否定はしません」
「もう」
スカートは僕が買ってやり、その他にも夏に着るTシャツも数枚買った。
適当に昼食を済ませ、その後歩いて原宿へ移動した。定番の竹下通りを歩き、そこでも人の多さに閉口した。こんな人混みの中でもアオイは嬉しそうにショップを見て回ったり、お決まりのクレープを食べては口の周りを汚した。
暑いのに彼女は元気いっぱいで本当に嬉しそうだった。彼女の嬉しそうな表情を見て僕も幸せだった。お互いの過去を打ち明け、それでも一緒にいる事を望んだ。気持ちが変わるなんて想像もしていなかった。ずっとこんな幸せが続くと思っていた。
あの
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