第3話 権利

「うぁあぁぁああああ!!」

痛い痛い痛い!

目が霞む、痛みで何も考えられない。

ぼやけた視界に、真っ赤な噴水が映る。

心臓の鼓動が痛いほど大きくなる。


「う、うぁあ」

声にならない悲鳴をあげ、なんとか逃げようともがく。

大きな影はそれを嘲笑うようにゆっくりとこちらに近づいてくる。


「い、いやだ、嫌だ」

こんなに突然に死ぬのか。しかも食われて。

あんまりだろ、そんなの。


「いぎっ!」

足に激痛が走る。

バリバリと何かを咀嚼する音。


(あぁ…もうダメなんだろうか)

脳内麻薬が出ているのか、ただ死にかけているからなのか、痛みが収まってきた。

(何で僕ばかりがこんなにも苦しんでいるんだ。何故死ななければならないんだ。)


だんだんと、脳が沸騰するように

怒りが込み上げてくる

「しんで…たまるか…」

そうだ

「生きるんだ…僕は」

何としてでも。何を犠牲にしてでも。


「うあああっっっ」

僕は右腕から突き出した骨を熊の目玉に突き刺した。

思いっきりにねじ込んで、グチャグチャにしてやる。

「グオオオオッ!」

熊は突然の奇襲に驚き、暴れまわった

何度も僕の身体に爪が、牙が刺さる。

だが僕は諦めない、どれだけズタズタに引き裂かれようとも。何度も、何度も何度も突き刺した。



やがて動かなくなった巨体を見つめ、

「ふ…ふふっ、あははははははははははは!!」

笑いが込み上げてくる。

(勝った!僕は生き残った。もっとたくさん生きられる!人生が続けられる!)

僕の身体はもうピクリとも動かなかった。


「あぁ…」

だんだんと身体が冷たくなる。寒い。

寒い…死にたくない。

そんな感情とは裏腹に、僕の意識は暗闇へと落ちていく。







「あなたには死ぬ権利がありません。」

無機質な、だけど何処か綺麗な声が頭に響いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る