第2話 異世界の森で

輝く太陽。鳥のさえずり。変な虫

周りを囲む緑に、むせ返るような木と草のにおい。

なんだよ…一体なんだよ。どうして僕がこんな目に

「何処なんだよココは…」


富士の樹海か?なんにせよ転送ってなんだよ。どんなSFだよ…もう滅茶苦茶だ…

「ここは日本ではありません」

聞き覚えのある女性の声が頭に響く。

「!」

「ここはあなた方が暮らす世界とは違います」

「お前!話も聞かずに転送させやがって!」

「話を聞く必要は無いと判断しました。」

「なんなんだよ…それになに言ったって僕は人殺しなんて無理だぞ!大体何でそんな子供を殺す必要があるんだ」

「この男は約200年後、この世界を崩壊へと導きます。」

「は?」

(今なんて言った?200年後?崩壊?)

「この男は自身の能力を用い、その意志の有無には関係なく長い時間をかけ世界を破壊します。」

(能力ってなんだ?思考が追い付かない…)

「ちょっと待ってくれ…あの、子供は世界を終わらせる事が出来る程頭が良い?ってことか?」

「違います。規格外の異能です。超能力の方が伝わりやすいでしょうか。」

「超能力ぅ?」

(えぇ…嘘だろ…と言っても今さらか、ここの所信じられないような事ばかり起こっていたしな…)

「だからあなたにはあの男を殺し、世界を救っていただきたいのです。」

「どんな綺麗な言葉で繕っても人殺しじゃねーか…それにそんなヤバい超能力もった人間と戦って勝てるのか?ナイフ一本で。」

「戦って勝つのは不可能です。」

「ほらな!無理なんだよハナから!僕みたいな一般人には人殺しなんてできない!大体そんなもんお前らがやれば良いだろう!なんで僕なんだよ」

「拒否する権利はありません。あなたには何の権利もありません。」

「……もういいよ」

(話しても無駄だ…幸いこいつらが無駄にくれた一年分の食料はある。それを使って諦めるまで断り続けてやる。)

隣にあるのだ。運べる訳もなく、こいつらの僕に対する扱いがどれだけ雑なのかわかるだろうか。諦めることに慣れている僕だが、そう簡単に諦める気はなかった。






3日ほどたっただろうか。

キンキンと煩い声を無視しながら、僕は横になっていた。上に見える綺麗な星空も2日で飽きてしまった。


(僕は何をしているんだろう。どうせもう元の世界には戻れない。戻ったところで帰るところはない。僕は…何のために今生きているんだろうか…)

泣きそうになりあわてて目頭をおさえた。何を考えているんだ。僕は散々な目に会ってきたが、生きることだけは諦めた事はない。


そんな時だった。

少し先の草むらが揺れ、大きな影が見えた。

その上部にはらんらんと光る赤い目。その凶悪な相貌そうぼうには見覚えがあった。

(熊だ…やばい)

身の丈は3メートル程に見えるその熊は唸り声を上げながら近づいてくる。どうやら食料の匂いにつられたようだ。

(どうしてこんな事に気づかなかったんだ。こんな森の中で無防備なんて…)

車より早く走れるという熊相手に逃げられる訳がない

気づけば目の前で熊が立ち上がっていた。

「グオオオオオオォォォォォォ!!!!!」

熊が大きな腕を振り上げた


「ひぃっ!」

僕は咄嗟に横にあったナイフを手に取り


甲高い金属音と共に

ちぎれとんだ。

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