第19話 逃亡
二週間後。
運命の日がやってきた。男は持っていく荷物を確認し、最後に家の中を見て回った。
キッチン、ダイニング、父親の部屋、階段、自室、母親の部屋。
荷物には父親の残した魔術書と少年と使った茶器も入れていた。かなりの量があるが、少年が魔道具の収納ケースを貸してくれたので持ち運びには困らずに済みそうだ。
少年は特に持っていくものはないからと、全て男に任せることにしたらしい。
脱走を悟られないよう、不要な物は処分せずに家に置いていくことにした。それでも二十一年間住んできた家に感謝を伝えるように念入りに掃除をした。空になった剥製の棚、少年とやり取りしたスケッチブックの山、家のそこかしこに飾られた少年の私物。この二ヶ月半の間に家の様子も随分と変わった。何となく過ごしてきた二十一年間が遠い過去のように思えてしまうほど、少年と過ごした日々は濃密だった。
片づけを済ませてダイニングに行くと、少年が窓から庭を見ながらぼんやりとしていた。出発の準備が出来た旨を伝えると、少年はわかったと近寄ってきた。
「その服にしたのですか」
「うん」
男はいつものローブの下に少年から貰った礼服を着ていた。普段のボロボロの服を着るより気が引き締まっていいと思った。
それに外の世界の人に会った時のことを考えると、きちんとした格好の方がいいだろう。
「やはり似合いますね。何度見ても」
「そう?」
「はい。まるで貴方のために仕立てられたようです。捨てるつもりだったけど、エグに渡せて本当によかったと思っています」
もう出発時間になる。最後に振り返り、心の中で別れを告げてから二人は〈
◇
叔母は事前に何時にどのルートを通るのか地図に書いて渡してくれていた。その地図を元に合流する場所を決め、少年と移動する。
時間が前後する可能性も考え、なるべく人通りのない場所を選び、物陰に身を潜めて待った。
「これでエグの叔母様は気づけるでしょうか?」
「大丈夫」
男はガラスの蝶を作り、通りへ放った。器用に浮遊魔法を操り本物そっくりに飛ばす。
通りを行く人は季節外れの蝶が舞っていると珍しがることはあっても、気に留めることはない。
しかし叔母ならこれが男からのサインだとすぐに見抜けるはずだ。
作戦が誰かに知られることを最も恐れ、あの日直接話して以来一切連絡を取っていなかった。男からのサイン、それが作戦決行の合図だ。
遠くから重々しい車輪の音が聞こえてくる。その音が緩やかになり、二人の隠れている路地の前で馬車が止まった。
「喉が渇いたのかい? それなら少し休憩しようかねぇ。荷台の鍵を開けなくては」
叔母は馬にそう呼びかけると馬車から降りて荷台を開けた。中から枯れない水瓶とバケツを持ち出し、ゆっくりと馬に水をあげ始める。今のうちに荷台に乗れということだろう。
少年に虹魔法で周囲に誰もいないことを確認してもらい、速やかに荷台に乗り込んだ。
荷台の中には魔石の詰まった瓶が所狭しと並べられていた。
二人は瓶を寄せて隅の方にスペースを作ると、窮屈そうにしゃがんだ。そこへ水瓶とバケツを持って叔母が荷台に入ってくる。叔母は手に持った物を木箱にしまうと、男に紙を渡した。
「必要なことはここに書いてあります。内容は全て暗記して、このランタンに入れて燃やしなさい。出来ますね?」
「うん」
叔母はそれだけ言うと荷台を閉め、馬車を発進させた。男は渡された紙を開いた。
「これは、形からして〈
「うん、そう。地図の、線……行く、道、かも」
「結構大きな通りを堂々と行くのですね。まぁ、馬車だから狭い路地には入れないか」
「魔石、いっぱい。僕達の、魔力、ばれない」
「確かに、魔力を探知されても魔石のせいだって言えば済みますし、こそこそしたら逆に怪しまれてしまいますよね」
地図の隅には叔母からの文章が書き込まれている。そこには何事もなければこのルートを進むが、何かあった場合は地下水路を通って逃げるようにと書かれていた。
「至る所に丸印がありますが、ここが地下へ降りる場所ということでしょうか?」
「多分」
「しかしこの国に地下水路があったなんて。外に繋がっているという何よりの証ですよ。この国には海がないのですから」
「水路……海、繋がってる?」
「そのはずです。でないと水が途中で消えてしまうことになりますから。水は循環する物なので、途中で消えるということはそうそう起こり得ないのですよ」
「水路、辿る……外に、行く、のは、無理?」
「それが出来たら叔母様が提案していると思いますよ。高純度の〈
荷台の木の僅かな隙間から外を覗き見る。今どこを走っているのか地図と照らし合わせて順に追っていけそうだ。
「地図の暗記はエグに任せます。これだけ細かいのはとてもじゃないですけど私には覚えられませんから」
「じゃあ、燃やすよ」
「もうですか。本当に覚えたのでしょうけど」
念のため他には何も書かれていないことを入念に確認した後、男は折り畳んだ紙をランタンに入れ、スイッチを入れた。
紙は瞬く間に黒い炭の粉になり、ボロボロに崩れた。
形が無くなるのは今でも苦手だ。息が詰まりそうになる肺を押し広げるようにゆっくりと深呼吸し、早鐘を打つ胸を時間をかけて落ち着けた。
馬車が緩やかに止まり、叔母が誰かと話している声が聞こえる。隙間から外を見てみると〈
「いつもご苦労さん。倉庫まで気をつけて、お婆さん」
「はいはい、どうもありがとうございます」
叔母は機嫌のいい老婆を演じ、〈
馬車はその後何事もなく進んだ。男と少年は叔母の勧めもあり、馬車の中で昼食を摂った。
荷台と御者席の間には小窓がついており、そこから叔母の表情を窺うことが出来た。叔母は一刻も早く目的の場所へ辿り着こうと、眼光を鋭くしている。
何かを警戒しているのか、その目は忙しなく左右に動いていた。
「叔母さん、平気?」
「何がですか?」
「緊張してる」
「運命の日を迎えたわけですから、私も平常心というわけにはいかないんです。計画に抜かりはありませんから心配は要りませんよ。貴方の担当になったあの若い役人にも私とエグが言葉を交わしたことは忘れてもらっています」
「そっか」
二時間ほど馬車に揺られていると、突然馬車の進行を阻むように黒服の男達が現れた。
あの服装は〈
「そこの馬車、止まれ」
「何事ですか? 私は急いでいるんですが」
「抜き打ちの検問だ。パスポートの提示を」
「検問? 何があったんですか?」
「悪いが教えることは出来ない。パスポートを見せてもらいさえすればすぐに通す。ご協力を」
叔母は胸ポケットから灰色のパスポートを取り出し、役人に渡した。通行記録を確認しているのか頁を一枚一枚舐めるように見て確認している。
妙に時間をかけているような気がするのは気持ちが急いているせいか。何事もなく終わってくれと祈るような思いで、男は小窓から見える黒服の手元をじっと見ていた。
すると背後でガタンと音がし、何の前触れもなく荷台の扉が開いた。男と少年を炙り出すように、扉から眩しい光が差し込む。
太陽を背に扉を開け放った人物を見て男は目を丸くした。例の若い役人だ。役人は男と少年の姿を認めると、金脈を掘り当てたように歓声を上げて手を叩いた。
「あのクソじじいの言った通りだ。本当に乗ってやがった!」
役人の声は御者席にいた叔母の所まで聞こえていたらしい。
小窓から叔母の息を呑む声が聞こえた。荷台を調べられるとわかっていれば木箱に入るなり布を被るなりしてやり過ごす方法はあった。それを敢えてパスポートを見せれば済むと言ったことで油断を誘ったらしい。
まんまと嵌められたのだと気づいた時にはもう遅かった。
役人は〈
「記憶は消したはずなのに、そんな顔だなぁ? 残念ながら記憶を消しても魔法を使った痕跡は残るんだよ! 俺はなぁ、あんたに関わった後はあのクソじじいに体の状態を調べられてたんだ。一度も欠かさず、必ずだ! だからあんたがガキを匿うために記憶改竄してたことも、俺を追い返すために妙な幻覚を見せてたことも、ぜーんぶ知ってるんだ! そして二週間前、俺が記憶を書き換えられた時、近くには御者のばばあがいた。んでババアとあんたらが繋がってるってことに気づいたんだ。そのことをクソじじいの教官にチクったらなんて言ったと思う? 逃走には必ずこの道を使う、憲兵と協力して脱走を阻止したら俺をあんたの担当から解放するって言ったんだ! 馬車を止めるのは簡単だったよ。何せ老婆の御者なんてそうそういやしねぇからな」
振り下ろされる鎖をなんとか避け、少年を庇いながら荷台の側面に背をつける。
このまま外に逃げ出そうかと荷台の扉の方を見ると既に応援の憲兵が回り込んできていた。
小窓の外では叔母が憲兵に取り押さえられそうになり、激しく抵抗しているのが見える。万事休したか、そう思った時、突然の事態に不安げにいななく馬の声が聞こえてきた。
男は弾かれたように小窓に目を向け、細い針を馬の背中に飛ばした。
「捕まって!」
背中に走った激痛に馬は錯乱状態になって走り出した。少年を抱えながら衝撃に耐える男の前で役人は大きくバランスを崩し転倒する。
急発進によって後方へ流れていく魔石の瓶が次々と役人の体にうちつけ、弾んだ一つが頭に命中した。役人はあんぐりと口を開けて伸びた。
「ごめん」
気を失った役人を外に押し出し、荷台の扉を閉める。そのタイミングで叔母も魔道具の帽子で掴みかかっていた憲兵を眠らせることに成功し、手綱を握って馬を制御しようと奮闘した。
「素晴らしい機転でした、エグ。あの場で馬を走らせなければ全員捕まっていたでしょう」
「でも、憲兵、追ってくる。きっと」
「そうでしょうね。あの若造がペラペラと喋ってくれたお陰で教官殿が何かしら策を講じていることがわかりました。厄介なことになりましたね。教官殿は兄さんも手を焼いたほどの切れ者です。貴方を捕まえるために既にいくつもの策を講じている可能性もあります」
「あ、ああ、あの人、い、嫌」
「泣き言を言っている場合ではありませんよ、エグ。大量虐殺の運命から逃げるということは教官殿の指示に背くということ。何があっても屈してはなりません。直接戦うことになっても立ち向かうのです。いいですね?」
叔母は叱るように語気を強めた。男も避けては通れない道なのだと理解し、覚悟を決めて頷いた。
「このまま馬車に乗っていて退路を絶たれてしまってはどうにもなりません。五番のポイントで貴方達を下ろします。あとは地下水路を辿って行きなさい」
「叔母さんは?」
「老い先短い老婆のことなど気にする必要はありません。貴方は外に出ることだけを考えなさい」
鞭を何度もしならせ、叔母は馬車の速度を全速力まで上げる。車輪が石畳で弾み、荷台の中が大きく揺れて魔石の詰まった瓶ががちゃがちゃと大きな音を立ててぶつかり合った。
「ん……捕まるの? 叔母さん」
「私は捕まりません。安心なさい。私が貴方達の邪魔になることは決してありませんから」
「ひとりぼっち、駄目。一緒、行こ?」
「馬鹿なことを仰い! 魔法も使えない私など足手纏いにしかなりません」
「僕が、守る。捕まる、嫌」
「聞きなさい、エグ。私はただ今日という日を迎えるためだけに十五年間生きてきました。兄さんのお荷物でしかなかった私が、娘の姿を捨てることで初めて誰かの役に立てた、以来私にとってエグは生きる意味そのものなんです。だから外へ出て自由を勝ち取り、幸せな人生を歩んでもらわなければ、耄碌ばばあと罵られ、〈
「……どうしても、来ない?」
「私は十分生きました。たとえ今日が私の命日になろうと、後悔はありません」
「ん……命日?」
「人が亡くなった月日のことです。これ以上は説明せずともエグにもわかるでしょう」
緩やかに馬車が止まる。叔母は覚悟を決めたように張りのある声で言った。
「さぁ、約束の五番のポイントに着きました。二人とも、降りなさい」
「叔母さん、め、命日、って……」
「貴方が私を呼んだ時から決めていたことです。生きていれば魔法で自白させられる可能性があります。計画を成功させるためには必要なことです」
よく見れば叔母は片手に薬の瓶のような物を握っている。あの形状を知っている。母親を死に追いやった毒薬と全く同じだ。
叔母は男達を見送ったらあれを飲んで命を絶つつもりらしい。
混乱した。確かに叔母が術にかけられて計画を自白させられでもしたら不利な状況になるのは確かだ。
しかし周囲の人間にとって死は何よりも怖いはずなのに、どうして自ら選ぶというのだろう?
「何を迷っているんですか? 追われているんですよ。急ぎなさい!」
「叔母さん、やっぱり、一緒に……」
「これ以上グズグズするようであれば今すぐ毒を飲みます。私は行きません」
叔母の決意は揺らがない。どうしても譲る気はないらしい。
やはり生まれてきた意味とやらが関係しているのか。
考えてもわからない現実を突きつけられ、男は困惑した。
「どうするのですか、エグ?」
少年が問いかけてくる。もう考えている時間はない。
「行けば、叔母さんの、生まれた意味……守れる?」
「ええ。貴方が自由を掴み取りさえすれば」
「じゃあ、行く」
男は決意を伝えるように少年に頷く。少年も覚悟を決めた様子で表情を引き締めた。
「一度皮を破った蝶は蛹に戻ることは出来ません。振り返らずに進み続けなさい、エグ」
「うん。叔母さん、ありがとう」
少年と荷台を降りる。地下水路へ通じる縦穴は馬車に隠れるようにしてあった。魔法でその蓋をどかし、少年を先に行かせる。
男は叔母の方に振り返った。叔母は力強く頷き、健闘を祈るように胸に拳を押し当てた。
これが叔母という人物との最後の時間になる。
叔母、馬車、全ての光景を目に焼きつけるように男は目を見開くと、少年の後に続いて穴の中に降りた。
「どこまでも飛んで行きなさい。七色に輝く羽を広げ、自由な土地へ。その羽が朽ちて安息の地を見つけるまで、生きて、生きて、生きて……」
叔母は誰にともなくそう呟き、手にしていた瓶の中身を一気に煽った。
◇
地下水路には汚物のような悪臭が漂っていた。少年は袖口で口と鼻を覆いながら、顔をしかめた。間違ってもこの臭い水に濡れては後々不都合が出るだろう。
そこで男が少年を背負い、飛行によって移動することにした。
「叔母様のこと、どう言うのが適切かわかりませんが……立派な方でしたね」
「うん」
「率直に言って羨ましいです。私もあんな風に自分はこのために生まれてきたんだって思えるものが欲しかった」
「生まれた、意味……見つからない?」
「ええ、残念ながら」
正面の曲がり角で壁を照らす光が不自然に揺れる。一旦その場で止まり様子を窺っていると、間もなく二つの人影が曲がり角から躍り出てきた。
鋭い照明が男と少年を捉え、闇に浮かび上がらせる。
「いたぞ、あそこだ!」
「もう見つかるなんて!」
〈
男は結晶の壁を作って追手を阻み、別の分岐に入って全速力で飛んだ。再び曲がり角で〈
それを繰り返す度に目的地は遠ざかり、追手の数は増えていった。
魔法で足止めしようとも考えたが、皆結晶の壁を砕くために〈
思い切って地下水路を出て上空まで離脱するか。しかし飛び道具で狙われる危険や地上で待ち伏せされる可能性を考えるとリスクが高すぎる。魔力切れに追い込まれればそれこそ捕まってしまう。
こうなったら禁断の方法を使うしかない。男は追手のうなじに注目する。
光源の近くであれば急所を見極めることも可能だろう。
「さっきから光源の位置を確かめていますけど、殺すのはなしですからね」
「ん……ごめん、今、話、無理」
「こっちを見る余裕がないからか。こうなったら……」
曲がり角を曲がった瞬間、周囲が突然暗闇に閉ざされた。前が見えなくなり、困惑していると、少年が肩を叩いた。
「虹魔法で姿を隠してます。そのまま、ゆっくり天井まで上がってください。て、ん、じょ、う、わかります?」
「天井? ……ん、上がる」
冷たい石の天井に触れるまで上昇し、息を潜めて待つ。
バタバタと足音が迫り、標的を見失ったように止まる。暗闇の向こうからどこに行ったと焦る声が聞こえる。
何がどうなっているのかはわからないが、少年のお陰で姿を隠せているらしい。
あっちだ、こっちだと怒号が響く中、物音一つ立てないようにしてじっと待っていると、やがて〈
「もう少し待っていてください。本当にいなくなったか確かめます」
少年の魔力がうねり、僅かに光が戻る。少年が魔法を使ったことで初めて自分を取り巻く暗闇の正体が少年の魔力だと気づいた。
少年は安全だと判断し、完全に暗闇を消し去った。
「今の、何?」
背負った少年の顔を見上げながら、尋ねる。
「虹魔法で光を歪めました。全ての光が私達に届かなくなれば周囲から視認されることはありません。要するに透明人間になったのですよ」
「凄い。それ、見つからない」
「まぁ、物語に出てくる透明人間とは違って、私達に周囲の光が届かなくなるので先程のように真っ暗になるわけですが。見つかりそうになったら今のように姿を隠してやり過ごせます。〈
「わかる。今から、行く」
移動しながらも地図と実際の距離を比べていたので大体の所要時間もわかる。
すんなり移動出来れば魔力は持つが、あまり足止めを食っていると危険だ。
迂回ルートを割り出しながら進み、すぐに対応出来るようにしておく必要がある。とても地図を見ながら出来ることではない。
叔母はこの事態を見越して地図を暗記するように言ったのだろう。
物音を立てないように細心の注意を払いながら、人気のない通路を進む。標的を見失ったことで〈
スムーズに進めば二時間ほどで着く行程に五時間もかかってしまった。
少年も男も魔力を限界まで使っており、速くなる鼓動に合わせてマスクから強く息が送られるようになっていた。
気の遠くなるような我慢の時間をどうにか耐えしのぎ、二人はゴール地点の縦穴から外に出て、人気のない閉鎖された鉱山に入り込んだ。
鉱山を道なりに進むと、小屋が見えてきた。あれが叔母の地図に書いてあった休憩場所だ。
「この鉱山、不思議な感じがしますけど、何が採れたんでしょう?」
「〈
「ああ。だから魔力がざわつくような感じがするのか」
「魔力、残らない……ここ、いる、ばれない」
「だとしても長居する気にはなりませんね。体中がピリピリしてどうにも落ち着きません」
小屋の中には使えそうな毛布や薪が置いてあった。薪を暖炉にくべ、火の術式を描いて着火する。
冬の夜道を歩き、冷え切った体を温めようと二人で火に当たっていると、急激に眠気を催した。
「ごめん……少し、寝る」
「毛布かけなきゃ駄目ですよ」
「うん……」
魔力を使い果たし、限界を迎えた男はその場に横になったまま動かなくなってしまった。少年は呆れつつも寝ている間に窒息しないようにとマスクの魔石を新しい物に取り替え、古びた毛布を男にかけた。
「おやすみなさい」
「……」
マスクが一定の感覚で男の肺を押し広げるのを見ながら、少年も自分の毛布に包まり、目を閉じた。
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